121話 試行
「天さん、しばらく世話になります!庭先にテントはらせて。あと、水とかもわけてもらえたら……」
「ユイからあらかたのことは聞いてある。牛鬼のこともの。しかし、あれはちょっと難儀な相手やぞ。あと、そこでテントはるのはええけど、水は井戸があるからそっから汲め。ここで特訓するんやろ?水汲みも修行のうちじゃ。楽するな」
「OK。井戸は昔の家にあったから楽勝よ。紐ついたバケツで水汲むのうまいで」
「お前んとこ、井戸のポンプなかったんか?」
「え?普通にあったけど、紐でバケツ落とすほうがおもろいやん。おかげで小学生の頃から腕の筋肉ついた、ついた」
「お前、かなりワイルドなガキやったんやの」
「田舎で家の周りは海と山と田んぼやったからなぁ。暇があったら裏山登って探検してたわ」
「そういや、お前、小さい頃よく裏山のテレビ塔によじ登ってたのう。学校で禁止されてたやろ?危険やから登るなって」
「え?なんで知ってんの……怖っ!」
「わし、ストーカーちゃうぞ!……まぁちょうどその頃にこの世で空海の存在を感じてだなぁ、その辺をうろうろしてたらたまたま」
「うそや!天さん、俺が原チャリで四国一周してるときに会ったんも、あれ絶対偶然ちゃうんちゃうか?ガッツリ百姓のじいさんに変装してたし!」
「ん……あ……あれか?あれはまぁ、あれや。昨今クマとか話題になってるから……」
「そんなんよりもっと前の話や!クマなんてここ最近の話じゃん」
「ううう……まぁええが、小さいこっちゃ」
「小さいことって。おい、ウミ!お前も多分、子供の頃から天さんにストーキングされてたと思うぞ」
「え、なにそれ、怖い……」
「待て待て、そんな話しに来たんちゃうやろ?お前ら、はよテント張って特訓始めろや。ほんで武器はどうすんや?」
「武器はね、リーチの長い薙刀でいこうと思う。今までの話を聞く限り、刀や槍、弓も無理そう」
「薙刀のう。なかなか面白い着眼点やな。あそこの牛鬼はちょっとあかんやつやから、今までのやつらみたいにちゃんと話もできんやろうし。同じ牛鬼でもあいつは、同族の中でもはみ出しもんやからの」
「はみだしもん?牛鬼って他にもおるん?」
「ソラ君、本当に有名なのは宇和島かな。あと高松にもいるよ。確かソラ君が司祭さんに聞いた話では、牛鬼はイーヨから流れてきたって言ってたじゃない」
「そうじゃ、ウミ。お前らが戦おうとしてるのは、もとは宇和島でおったやつやな。同じ牛鬼じゃが、あいつだけはどうにもならんで宇和島を追い出されたんじゃ。わしもそのうちどっかで野垂れ死ぬと思とったが、まさかコーチにおるとはの」
「天さん、やけに詳しいのお」
「まぁ長生きしとるから、それなりにあちこちから情報は入るわい」
「天さん、先に言うとくけど、俺、その牛鬼ってやつと話ができたとしても許す気ないで。これまでに漁師や子どもを何人も手にかけとる。今さら反省しようがなにしようが許すつもりは一切ない。もし俺が牛鬼に手をかけたりしたら、そもそも俺って神さんになる資格なんてなくなるんちゃう?」
「ソラよ……それを言うたら、この世界ができて神の名のもとに何人ほどが死んできたと思うぞ?これまでに何度も神によって人の世は滅びかけた。お前でもノアの方舟の話は聞いたことあるやろ?あちこちで天罰って名のもとに火山が噴火したり、洪水が起きたり、飢饉が起きたりして、なんぼでも死んどる。あとは人間が主張する神の為の戦争やの。人が世界に生まれてから今日まで、どんくらい『神の為』ってことで死んだやろうな。お前が片田舎の悪党一匹手にかけたから神になる資格を失うっちゅうんなら、もっと昔から人の栄枯盛衰を見てきたわし……じゃなくて神は、何をしとるんじゃっちゅう話よ」
「なんかえらいスケールのでかい話ししとるけど、まぁ特に影響がなかったらそれでええけど」
「そうや!なんかええ武器でも貸してやろうか?牛鬼くらいやったら草薙の剣とか使わんでもいけるくらいやと思うけど」
「そんな名前だけゴッズみたいな武器怖いわ。適当なエセ武器にユニークとかレジェンドとかゴッズとか付けたら、価値もわからんようになるやん。そもそもこっちには神さんついとるし」
「神さん?」
と、自分を指差す天さん。
なんでやねん、ちゃうわ!
「そう!実はえらい神様おるんよ。じゃじゃーん!一本さん、変身解いて天さんびっくりさせて!この前の野宿の時に天さんに紹介し忘れてたわ」
「え?なに?いやじゃ」
「なんでよ!一本さんの実際の姿見たらびっくりするで」
「絶対にいやじゃ」
「あ?そこに神様がおるんか?もしかしてリュックの横のやつかの?前も河原の時おったろ?」
「天さん、『やつ』とか言うて、罰が当たっても知らんで。本物の神様よ、神様」
「ほう……変身しとるんか。ほな、もとに戻してやるよ」
「やめて……やめてください……前もいないフリしてたんです……」
なんか懇願してるな、一本さん。でも無理やり天さんが解除したみたいやけど。
天さん、変化とかは得意やもんな。
一本さんが元の姿に戻った。ぱっと見、やっぱり唐傘小僧やな。
「ほう……お前、生前はずっと山で鍛冶師しとったやつやの?晩年に鍛冶を極めた時には片目は潰れて、足も片方萎えてしもうとったから姿はそのままにしたけど、なんぞ不便無いか?両目両足にするか?」
「あ、いえ、そんなもったいない……まさか、こんなところでお会いできるとは、おおかみ様」
おおかみ……おおかみちゃうで、サチは犬神やとかってやり取り前にしたなぁ、って、あ!
「ウミ、サチどこ行った?すっかり忘れてた!あっちに置いてきたんちゃうか?」
やばい、マジで頭からすっぽり抜けてた。
「サチ?サチはソラ君が仕事を与えてなかったから、僕とリーちゃんでマキさんとこ行ったじゃない?あのとき連れて行ったんだけど、絶対マキさん、フジマサにマークされてると思ったから、念のためにマキさんを守ってもらってるよ。あの二人には見えてないけど、サチは絶対にマキさんのそばを離れないよ。きっとサチも自分の子供を失った共通点があるから、そばにいてあげたいんだと思う」
そうやった。サチも理不尽に自分の子を殺されたもんな……。
まあ所在がわかって安心、安心。
「天さん、話が飛んだけど、この唐傘小僧みたいななりしてるけど、実はすごい神様で、一本だたら様という鍛冶の神様だよ。ものすごい建築とか鍛冶の腕で、旅に同行してもらってる」
「へ〜、一本だたら様って言うんか。へ〜。一本だたら様、へぇ〜」
「天さん!へ〜って失礼やぞ!こんなナリでも一応は神様ぞ。めっちゃ凄い神様で、何でもあっという間に作るんだから」
「やめて、ソラ、やめて……」
「この一本さんに、武器を作ってもらおうと思ってる。薙刀をね」
「ほう、薙刀か。薙刀はええけど、刃に使う鋼とかはどうすんぞ?」
「アデヤ教の教会の庭先に、元寺だったころの鐘があったから、それを鋳潰して作ればええって一本さんが」
「へぇ〜、寺の鐘を鋳潰して?へぇ〜、凄いのぉ~。鍛冶の神様やから、大日如来とか眼中に無いんやなぁ」
「言うてない。わし、そんなん言うてない……」
「一本だたら様、だっけ?お前じゃなくて、あなたなら銅でも鉄でもなんでも好きな金属に打ち替えれたよのぉ?」
「は、はいっ!そのように、おおかみ様より力を授けていただきましたので、はいっ」
「あなたはもう知ってると思うけど、ソラってうちの娘の許婚なんですよ。くれぐれもこいつの命を守れるくらいの仕上がりにして下さいね、一本だたら様」
「おおかみ様……その言葉遣い、や、やめてください……できるだけ頑張りますので」
「天さん、もっと敬語で喋ってよ!神様やで。一本さんはシカちゃんの方が格上だと謙遜してるけど、ほんまに凄い神様なんやから。一本さん、ごめんね。田舎の天狗さんなんで世情に疎いみたいで。でもここの場所借りてるから辛抱してや」
「辛抱してや……」
天さん、僕の真似すんな。
「一本さん、鐘を鋳潰して薙刀が完成するまでは天さんとこに泊まって。この前増築して客間できたみたいやし。天さん、一本さん案内してあげてもらえる?機嫌損ねて作ってくれんかったら困るけん、ユイと丁重に扱ってあげて」
「丁重にのう。わかった。じゃあ一本だたら様、ご一緒にどうぞ。箸蔵の天狗とアデヤ教の聖女が、もてなさせていただきますよぉ~」
ニヤニヤしてるなぁ、天さん。ホンマにわかってる?
「やめて、やめて……わし、テントでええです。硬い石の上が居心地いいんです」
「まっさらの、まだ誰も使っていないふかふかのお布団を用意しとりますんで、ゆっくり休んでください、一本だたら様!」
「天さん、やっとわかってくれたか!頼んますね。僕らこれから特訓始めるんで」
「ソラ君、わざとやってる?一本さん、もう針のむしろ状態だよ。多分、生きた心地してないと思うけど」
わざとってなんや?
わからんけど、わかった!
僕は遠ざかっていく天さんと一本さんの背中に向けて声をかけた。
「天さん!今夜は一本さんに酒でも飲ませて、リラックスさせてあげて〜。くれぐれも粗相のないように〜」
そう言うと、天さんは向こうを向いたまま軽く手を上げた。
これでよし!
天さん、一本さんにヘッドロック決めてないか?引きずっていかれているような。
「多分、一本さん必死で武器完成させて、とっととこっちに戻ってくるよ。だからソラ君も早く薙刀の使い方マスターしないとね」
「OK、任せとけ!」
「アオ、頼むな!」
「もちろんです。ところで長さとかどうするんです?正式な試合を決闘するわけじゃないですし、明確な決めも無いので、ソラさんが考えている戦い方に合わせて、それで特訓しましょう」
「なるほど!俺、ずっと竹刀とかでしかやってきてないから、中学生ならサブロク、高校生ならサンパチ、薙刀ならどんくらいなんやろって思い込んでた」
「なに、サンパチって?86ならわかるけど」
「イニDちゃうわ!高校生なら三尺八寸なの。117センチって規定がある。重さもな」
「ソラさんはまず、規則とかそういう決まり事を一旦頭から捨てましょう。空っぽにして始めたほうが良さそうです」
「アオ、お前、いつもそんな感じなん?」
「はい。新しいことを覚える時は、それまでの思い込みとかが邪魔になる時があるので、まっさらな状態で覚えてきます」
「せっかく色々経験したことも、一旦白紙にするんだね?」
と、ウミが尋ねる。
「はい、そっちのほうが早く身につくってわかったので」
「でも、前に覚えてたことは使えないの?」
「ん~とですね、頭の中に本があって、必要に応じてそれを引っ張り出して読むって感じでしょうか?」
「なんか、昔の仮面ライダーで敵や状況に応じてメダル入れ替えて変身するやつみたいやな」
「また古いの思い出したねぇ。オーズだよ、それ」
「???」
ごめん、アオ。わからんわな。
「アオがアホっぽいのは、本棚にしまってるからなんやな。意識して引っ張り出す。ウミはフラッシュメモリって感じか。全部記憶して、すぐ引っ張り出せる」
「僕のは知識だけど、アオ君は身を持って覚えているっていうのが強みだね。僕は知っていてもできないことが多い。アオ君は意識を向ければ、すぐに実践できる。優秀過ぎるよ」
「とりあえずこんくらい褒めたからええやろ。ほな、俺、ちょっと竹、適当な長さの竹切ってきて扱いやすさ比べるわ。その間にアオは免許皆伝の師範になっといて!」
「わかりましたぁ~!お任せを~」
そう言うと、アオは静かに目を閉じて精神を集中し始めた。
あいつ時々、人が変わったようになるのはそういう時か……人をコピーしてるんかなぁ。
こりゃ特訓が楽しみになってきた。
手頃な竹を五本くらい切るか、と藪に分け入ったとき、向こうからウミの呼ぶ声が。
「ソラく~ん!アオ君、寝ちゃったよぉ~~~」
あのボケェ!
あ、横に倒れた。
マジ寝かいっ!
*(122話へ続く)*




