120話 鐘
アオたちに合流するために、僕らは教会へ向かった。
「ソラ君、フジマサの話にもあったけど、日本刀じゃ牛鬼を倒すのは難しいと思うよ。剣道二段より、こっちの剣術使いの人たちのほうがよっぽど強いでしょ?」
「ああ、そりゃな。いくらアホな俺でも、ほんまもんの命かけて戦ってきた侍や、腕自慢の浪人より自分が強いとは思ってないよ。だからそいつらとは同じ轍は踏まん」
「なにか考えがあるの?悪鬼のときみたいに破邪の矢とかが効くかな?」
「いや、悪鬼はいろんな神さんとか人の念やったから、邪を払うために矢でいったけど、今回はれっきとした妖怪やからなぁ。単純な物理攻撃かな?まだ悩んでるけど」
「遠い間合いから飛び込んで切りつけても、硬い頭や背中に跳ね返されてる。そもそも色んな流派の太刀筋を十三回も見て全部退けてるんだから、刀の攻撃は多分厳しいね」
「そうやなぁ……フジマサの送り込んだんで十三人やろ?何年生きてるのか知らんけど、何百年と生きてるなら、さらにその何倍も戦ってる可能性あるわな。鎖鎌?いや、頭で跳ね返されるやろな。棍棒……は刀と同じで、そもそもの間合いに入れんわの。銃……う~ん、硬いっていう頭や背中に効果あるか見えん。あっちの世界から散弾銃……天さんに言えばどうにかなるかもやけど、これまた鳩に豆鉄砲くらいやろ?ロケットランチャーとか?」
「なかなか難しいね」
「善通院に自衛隊の駐屯地あるやん?あそこに戦車とかあったけどどうかの?手榴弾とかも置いてるぞ。うちの親父、若い頃あそこで車両運転の教官しとってん」
「めっちゃ初耳の話ぶっこんで来るね。ソラ君、善通院には色々縁があるねぇ」
「まあ、なんだ……その、空海さんのアレやからかもなぁ……うん」
「なんで顔を赤くしてるのよ、バカなの?」
久しぶりのユイのツッコミ。ちょっと嬉しいな。
とか歩きながら話しているうちに教会についた。
教会の中には司祭とアオ、そしてリーちゃん、サトちゃん、シカちゃんがいた。
ん?そこのやつ誰ぞ。
「あ、ソラさん!そっちは無事終わりましたか?こっちは問題なしです!」
「いや、そこのガラの悪いお兄さんは信者の方?」
なんかアオたちの輪の中に知らん人が混じってる。
「ソラさん、この人、フジマサさんのとこの若い衆です。教会について中にいたんですけど、アオ君が外に出たと思ったらこの人と一緒に帰ってきて、すっかり仲良くなっちゃって」
若い衆ですって、なんじゃそりゃ。
「あ、俺、フジマサさんのところでちょっと前からやっかいになってます、テツ言います。アーワの国からコーチまで流れてきて漁師をしてたんですけど、その伝手でフジマサさんの世話になってます」
「アーワから?で、そのテツさんがなんでここに?」
「アオさんに『ちょっとお話しませんか』って誘われて。アオさん、自分は実はアウル教の隠密で皆さんの動向を監視してる。だからこの人たちのことで知りたいことがあるなら、いくらでも話を聞かせてあげるって。自分で隠密なんて言うわけないじゃないですか。面白い冗談を言う人だと思いつつ、腕には自信があるんで、ものは試しとついて来たんです。でも話してみると本当に気持ちのいい男で、すっかり気に入っちゃいまして、つい長居しとります」
「あ、こいつが言ってるアウル教団所属の隠密ってマジですよ。アーワの国にいる時からずっと俺らを尾行、監視してるってのも。俺らの旅に同行して教団に情報流してる」
「え?ウソでしょ?あれ本当だったんですか?そんな大事な話をアオさん、全く初対面の俺にベラベラ話したんですか?いや、考えられん。恐ろしい人だなぁ」
「本当のことですよ。アオ君は生まれついてのアウル教の隠密だったのよ。アウル教っていうのも聞いたことないですよね?秘密結社ってやつで、アデヤ教の崩壊を狙ってあれこれやってる団体です。宗教を名乗ってますが、教義がないクソみたいな集団です……って私じゃなくて、アデヤ教の聖女様が言っていました!で、この前、この人、ソラさんがやめさせたの」
と、サトちゃん。
しれっとユイのことディスってるな。後で怒られろ。
「はい、今はソラさんについて行ってます。アウル教団には内緒ですけど。逆にソラさんの隠密として、アウル教団の情報を得る感じになってます」
「アオさんをそこまで心酔させるって……ソラさんですか?あんたすごい人やな」
「いや、俺は全然凄くないよ。他の仲間の方がよっぽど凄い。俺はただの会社員……って言っても伝わらんか。ただの雇われ人の葬儀屋だよ。それより、アオ、テツさんから何を聞いたの?」
「あ、ソラさん、それ、自分の口で言いますよ。俺、まだフジマサさんのところに来て日が浅いんで、大したことは知らんです。けど、フジマサさんが病気になる前に牛鬼のいる島まで小舟を漕いだのは俺です。月夜の晩に覆面被ったフジマサさんが、小さい女の子の手をひいて舟までやってきて、島まで俺が一人で漕ぎました」
「テツさんが?その時、何があったか見てたんか?」
つい口調がきつくなった。
「?……いや、俺は島に着いて、フジマサさんが女の子の手をひいて島の奥に入って行くのを見てただけ。舟で待ってたら、しばらくして覆面を脱いだフジマサさんが戻ってきた。覆面の中になんか物が入ってたけど、中身は知らんです。戻ってから、なんのために子どもを連れて行ったのかを人から聞いて、しばらくは飯が食えんかったです」
くそっ、覆面の中はきっと大小のサンゴやったんやろうなぁ。
「その前の年まではフジマサさん一人で行ってたらしいですわ。でもその頃からもう体力が落ちてたんでしょうな。だからそん時だけ俺に舟を漕がせたんやと思います。俺はヤクザもんみたいになってまだ日が浅いんで、操船の腕は鈍ってないと思われたんやと思います。フジマサさんはその後みるみる痩せていったわ。今は見る影もなくなった」
「フジマサは舟の上ではどんな感じやった?子どもに対して」
「女の子は悟りきった感じで泣き喚いたりもせず、俺が舟を漕いでる間もずっと静かに月を眺めていましたわ。フジマサさんは黙って懐から飴を出して与えようとしたが、首を振って拒絶しとりました。覆面で顔を隠しているフジマサさんより、まだ幼いのに凛とした態度で、なんも知らん俺は、まさかその子が生贄にされる覚悟をしていたとは夢にも思いませんでした……」
そう言うと、テツさんは手で顔を覆った。
フジマサの悪魔の所業には誰も手を貸すのは嫌だから、なんもわからん新入りのテツさんを使ったんか。
「ありがとう、テツさん。あとさ、人から聞いた話でええんやけど、牛鬼ってどんな感じのバケモンか知ってる?」
「フジマサさんとこに長いことおるじいさんに聞いた話だと、昔、侍を雇って牛鬼を倒そうとしたときに、付き添いで行って遠目で見たんは、牛より大きい蜘蛛みたいな感じで、胴体から上は人間と牛の間みたいな感じだと。あと、やたら頭と体は硬いらしいとか」
「ウミ、水木先生の本の記憶は?」
妖怪大百科との整合性はどうだろう?
「概ね合っているね」
なるほどね。
「テツさん、色々ありがとう。あんまりここに長居すると怪しまれるかも知れないから、帰ったほうがいいかも。また一段落したら飯でも奢るわ。あと、フジマサはもう長くないと思うから、違う生き方探したほうがいいよ」
「やっぱりそう思いますか?……身の振り方、考えときます」
そう言ってテツさんは裏口から出ていった。
見送りに出たときに、ふと裏口脇の大きな植木鉢が目についた。
ん?どっかで見たことあるフォルム……。
「ウミ!これって?」
「う~ん、これ明らかにお寺の鐘だね。うすく寺の名前が読み取れるよ」
なんてこったい!
「なんでこんな再利用されてるのよ!SDGs?司祭さん?どうなってんのこれ?」
「ああ、これか?ここの教会はもともと小さい寺やったがよ。アデヤ教徒に取り壊されて、建材の再利用しちょったが、そいつはずっと転がったままやったがやき、もったいないし逆さにしてネギ植えちゅうが」
家庭菜園かいっ!
「罰当たりぃいいいい!」
と言ってネギをひっこ抜いてから、ひっくり返して土を落とす。
小さい寺だったようで、一人で抱えて持ち運べるサイズだ。
アデヤ教会で鐘……使わんかな?
「ソラ、ソラ。それ、わしに任せろ」
と一本さんが話しかけてくる。
また忘れてたわ、ぶら下げてたの。
「何を任せろって?」
「やるんやろ?牛鬼」
「あ、聞いてたんやな?そのつもりやけど」
「どうやって?」
「それが思いつかん。刀じゃ無理やし、ウミの槍みたいなのも考えたけど、刺さりそうもないらしい」
「ええのあるぞ?聞きたい?」
「いや、別に……」
「なにぃいいいいいいい!」
「うそうそ、聞かせて。全くアイデア思い浮かばん」
「そこまで言うなら教えてやる。ふふ、薙刀や」
「薙刀?時代劇とかで女の人が使うやつ?」
「時代劇?知らんけど。そう、刀より長距離から攻撃できて、切ることもできる」
「いや、薙刀なんてそんなん俺、使ったこと……あるわ!」
「あるんかいっ!」
と一同のツッコミ。
「高校の時の合宿で、なぎなた部が全国で有名な高校と一緒に練習したときに、異種格闘技みたいな感じで交流戦して一年の女子にボコボコにされた!スネとか叩かれたらめっちゃ痛い。悔しいから色々教えてもらって、最終日にはなぎなた部の部長にリベンジ勝利したわ」
「すごいじゃない!ソラ。勝機が見えたわね!」
「ところがや……そっからまた剣道ばっかりしたから、もう忘れた、テヘ。あと、なぎなた部のなぎなたなんて刃ももちろんついてないし」
「なんなのそれ!」
だって、剣道部だって竹刀だし。真剣でやったら毎日日本中で死人だらけぞ。
「あの、僕、薙刀できますけどぉ」
え?アオ?
「できるの?」
「はい、一応は。以前、ある町の道場の娘さんと仲良くなった時に、そこの師範に見込まれて一通り叩き込まれて、道場開いていいよって言われるくらいには。何度やっても道場主に勝っちゃうんで、『もうええ!シュン、お前、免許皆伝!』って」
こわっ!
どうせ一ヶ月かからんくらいでそのレベルやろ?
で、シュンって……お前、ホストか。
ルイにシュン、次はなんやろうなぁ。レンとかジンと見た!
まあそれは置いといて、光が見えたぞ。
「ユイ!さっき言ってたろ?これからお前んとこ行くわ!正確には天さんとこの横の広場。あそこで俺とウミとアオはテントはって合宿する。アオに薙刀の扱い叩き込んでもらう。女性陣は一本さんの面倒見てて。武器作ってもらうから。罰当たりやけど、寺の鐘から薙刀作ってもらう」
「すごいね、破魔矢のレア度を超えるね。寺の鐘で薙刀って、普通の感覚じゃ恐ろしくて絶対できない」
「一本さんのアイデアだからね!」
「いや、わしはそこまで言ってないぞ。寺の鐘が見つかった時にたまたま声はかけたけど、そんな大それた提案は……」
「一本さん、さすがだわ!鐘を鋳潰すなんて、俺では不敬過ぎて考えつかなんだ〜」
「ソラ、お前、わしを悪者に……」
「一本さんのおかげだ〜」
「す、好きにせい~!」
*(121話へ続く)*




