119話 フェイク
「シカちゃんの舌の痺れも取れたみたいやし、次の動きにかかろうか?」
「次って?」
「餌まいて魚釣ろうや」
「餌を撒くの?」
ウミが何のことやらわからずポカーンとしてる。
こいつは外部メモリとして必要だから強制連行するとして、厳選していかんとな。ユイは高火力のウエポンとして必要。アオも……いや、アオは残ったもんの守りで必要か。
よし!
「ウミとユイは魚釣り、アオはリーちゃんとサトちゃんとシカちゃんを連れて教会へ避難。サトちゃんは司祭と面識あるから、さっきの流れで行ったら匿ってもらえるやろ」
「なにを企んでるの?ソラ」
「ん?ああ、まずはアオが女性陣を引率して教会へ行ってからな。アオ、多分尾行がつくと思うけど逆にまいてしまえ」
「わかりました!尾行の人から話は聞かなくていいですか?」
あ、こいつはそういう奴やった。
「なんかフジマサについてわかること聞けたら聞いといて」
「はい!任せてください」
いや、こいつ優秀過ぎるやろ。普段はポンコツなくせに自覚のない敏腕エージェントか。アウル教団、こいつの使い方完全に間違ってたな。
僕が簡単に指示すると、アオはみんなを連れて食堂の外に出て行った。
めちゃくちゃ自然にいい女二人をエスコートしている子連れのイケメンにしか見えん。
子連れ……シカちゃんだけ違和感ありまくりやけど、小さいから見えんことにしよう。
「じゃあ、やるか!ウミ、ユイ」
「怖いなぁ……」
一連の流れを見て、ウミも今から何をするのか理解したみたいだ。
フフフ、まぁ死にはせんやろ。
「この沖に牛鬼ってのがいるって噂聞いたんやけど、ホンマかのぉ!子供を取って食うって聞いたけど」
と、棒読みの大声でウミに語りかける。どうせ僕らがお姉さんを保護したのも既に知ってるだろうしな。
軽く頷いて、ウミが棒読みで続ける。
「うん、町の人からそう聞いたよ。子供を食う牛鬼がいるって」
「それが本当だったらコーチのお殿様に伝えて、成敗してもらわんといかんのとちがうのかなあ?」
二人とも学芸会の小学生以下の棒読みが続く。
芝居は下手なのよ。
「そうだねえ。どうしてお殿様はなにもしないんだろうなあ。誰も直訴しないのかなあ」
「直訴したら、した人も打ち首になったりするらしいからできないんじゃないのかなあ?」
「それは捨て置けないなあ。このあとコーチに戻るから、ご家老様にご相談しよう」
「そうしよう、そうしよう」
大根役者ここに極まれりだ。
ユイが横で噴き出している。
「そろいもそろって、とんでもなく大根ね」
と小声で呟く。
「ええんや、こんくらい目立たんと釣れるもんも釣れん」
と小声で喋っていると、身なりのきちっとした支配人風の中年男が近寄ってくる。
キタキタ、お約束の展開。
「お客様、少しお声が大きいようで。よろしければ個室にご案内させていただきますが」
「あ、声が大きくてごめんなさい。別に個室まで必要ないですよ。もうご飯も終わりますし、お邪魔みたいなので帰ります」
すると、笑顔のままドスの効いた小声で言った。
「帰りますじゃねえんだよ。ついて来いって言ってんだ。逃げようたって無駄だ。先に出たお前の連れもうちの若いもんが見張ってるぞ。抵抗したらそいつらがどうなっても……」
僕、テンプレ嫌いなんだけど。
昔から悪いヤツの考えることって同じよなあ。
「ええ?そうなんですか?僕らなにも悪いことはしてないのに、なあウミ」
「そうですよ。たんに楽しく食事して、ちょっと大きな声でお喋りをしていただけじゃないですかあ」
「プッ」
ユイ、噴き出すな。こっちも我慢してるんだ。
「お前らがコソコソ嗅ぎまわっているのは、とっくに気づいているんだ。黙ってついてこい」
ばーか、ばーかと心の中で悪態をつきながら、うまいこと釣れたことに笑みを隠せない。
関係ないけど反社の人ってべらんめえ口調になるのかな?万国共通?
「ソラ、そんな満面の笑みでついて行かないの!怪しすぎ」
「完全に喜びが顔に出てるね」
と言っているユイとウミも、同じく満面の笑顔。
さんざん時代劇やヤクザ映画で見た王道パターンだからね。
このあと部屋に入ると、キセルか葉巻を吸っているガタイのいいじいさんがソファーに座って「まあ座れや」ってパターンね。
ニヤニヤが止まらない。
「ここだ。入れ」
食堂の脇の通路を通って奥に案内されたのは、広い部屋。
おや?正面にでっかいアデヤさんの像があるぞ。
信心深いんか?
その周りをびっしりと大小のサンゴで飾ってあるな。
胸糞悪い。悪趣味だわ。
「まあ、座れや。ゴホッ」
奥の一人掛けソファに座った男が言う。
あれ?病人か?
頬はやつれ、手足は枯れ枝のよう。開襟シャツの先に見える腕にはびっしり入れ墨が入っているのだろうけど、痩せすぎて元の図柄が判別できない。
若い頃は格好良かったんだろうけど、年取ったときどうなるのか想像しないのかな?黒い筋にしか見えんぞ。
「なんの用で呼ばれたのかな?」
と、その男に聞く。
「お前ら一体なにを探りに来た?コーチの殿様の手のもんか?」
「違うけど?コーチは通って来たけど目的は全然違う。ここも単なる通り道だ。足摺に行く途中で、たまたまご婦人を助けた縁でこの町に来ただけだわ」
「フン、あらかた聞いてるとおりだな」
「で?なんで俺らはここに連れて来られたのか聞いてるんだが?」
「ゴフッ……。怪しい旅のもんがおると報告があっての。フー……。ゲフッ、すまんな、ちょっと咳がの。年とったらあちこちガタがきてかなわん」
「病気の相談なら医者にしてくれ。俺らも暇じゃない。帰ってええか?」
「お前!会長に失礼な!」
「会長ってか?偉い人なんかしらんけど、別に俺には関係ない。あんたらで仲良くしてたらええがな。俺にとったらただの偉そうな病気のじいさんやな。うちの社長の方がよっぽど怖いわ」
「お前、命が惜しくないんかいっ!」
と隣の支配人風のおっさん。
血気盛んやなぁ。刀に手をかけて脅してくる。ユイが臨戦態勢なのに気づいてないあたり、小者やな。
「会長さん、あなたがフジマサさんってことでいいのかな?あなた、ここんとこ咳がずっと止まらんやろ?若い頃からタバコの吸い過ぎか?それとももっと悪いもん吸っとったか?多分、一年以内で急激に痩せて食欲も無くなったな?咳し過ぎたら胸の骨が折れやすくなってるから気を付けや」
「ゲホゲホ……ッ、お前、医者か?」
「医者違うけど、その顔と体、咳してる姿見たら明らかに肺がん……肺病やろ。それもあちこちに転移してるんちゃうかな。座ってるだけでも辛いやろ?ちゃんと水分取って寝てた方がええで」
……なんか僕らが手を下すまでもなく、きちんと天罰下ってたな。
どう見てももう末期の肺がんだわ、これ。
やる気が失せた。
「うちの祖父さんが同じような感じやったからの。食える時に美味いもん食って、楽な時は外で新鮮な空気を吸う。無理せず、しんどい時は横になっとけ。そのうち楽になるさ」
ふん、別の意味でな……。
「おお、この苦しみが楽になるのか?お前、なんとかしてくれ。前みたいに健康な体に……ゴフッ」
こいつ、なんか都合のええように解釈してるな。
ふざけんなよ、腐れ外道が!治ると思ってるんか?
……でもまぁ、勝手に誤解してるだけやし利用するか。
ユイを見ると静かに頷いている。心を読まれるのって、こういう時便利。
「少しだけ楽にしてやろう。その女神アデヤに祈れ。そうすればしばらく痛みも消える」
お前からちゃんと話を聞き出す間だけな。
ユイが静かに祈りを捧げる。
柔らかい光がフジマサの体を包み込み、胸の辺りで丸く小さくなって吸い込まれていく。
「おお!こりゃどうしたことだ!素晴らしい!胸の苦しみが消えて無くなったぞ!お前のおかげか?でかした!褒美をやろう!何が欲しい?」
アホか、今だけじゃ。
「あんた、サンゴの漁でもしてるのかい?」
アデヤ像の周りのサンゴを指さして聞いてみる。
「おお、そこのサンゴが欲しいか?どれでも好きなのを持って行けばいい。わしはなんぼでも手に入るからの」
子供の命と引き換えに、やな。
「いや、別にサンゴはいらんかな。それより牛鬼について聞かせてくれ。以前はカツオ漁の船を襲っていたと聞いたが」
「ああ、十年は昔の話じゃ。今は牛鬼も大人しくなってそんなこともないがの。今は昔以上に漁も盛んになって、町も賑わっておろうが」
「でもやっぱり牛鬼はまだここにおるんやろ?昔、剣豪やらが討伐しに挑んで負けたって噂も聞いた」
「町におしゃべりなやつがおるもんだの。確かに、わしが漁の元締めをしていた頃に腕利きと言われる剣客を雇って、牛鬼を討ち取ろうとした。が、そいつらじゃまるで歯が立たんかったわ。あの硬い頭、鎧の様な背中には剣術使いといえど刀は全く役に立たなんだわ。初手をかわされてからは牛鬼の長い手足にからめとられて、皆、頭からむさぼり食われてたわ」
「あんた、剣術使いでもダメだと思っても何人も行かせたんだ?」
「刀ふりまわしてなんぼの連中じゃ。流派も色々あろうが?戦い方も変われば、いい勝負ができるやつもおるかと思って向かわせたわ。まぁ結局、誰一人生き残ったやつはおらんがのう」
「牛鬼には刀じゃ無理なんだ?」
「間合いの遠くから飛び込んだとしても、やつの柔らかい腹に届く前に刀を弾かれて捕まってしまう。十三人目で失敗した時に、さすがに諦めたわ」
「十三人も見殺しにしたんか?」
「あいつらも商売じゃ。覚悟の上じゃろ?金ははずむと約束してたしの」
と笑う。
こいつ、成功報酬だから一円も払ってないだろうけどな。
「牛鬼の討伐を諦めたのに、なんで今は大人しくしてるんだ?」
「そりゃあ、わしが一対一の話し合いでケリをつけたのよ」
「そもそも話してわかる相手なら、最初から話せばよかったんじゃないの?十三人も死なせる前に」
と言うと、明らかにフジマサはイラついてきた。
「部外者があれこれ言うことじゃない。こっちにも色んな事情があるんじゃ」
「事情なぁ。まぁええわ。その牛鬼、俺が倒すけどええな?」
「倒す?お前がか?カッカッカ!笑わせるな。お前の倍くらいある剣術使いが何人も殺されとるんぞ。ひょろひょろのチビのお前に何ができらいでか!」
「あ?」
と言って僕は椅子から立ち上がるなり、机を飛び越え、フジマサの横に立っていた子分の腰に差していた刀を引き抜いて、フジマサの首に刃を当てた。
「お、お前……わしを殺す気か?」
「あんたら甘いんじゃ。まさか俺がこんな動きするなんて想像もしてなかったろ?油断しすぎ」
そう言って刀を上段に構え、思いっきり振り下ろした。
ブウンと空を切る音がして、風圧がフジマサの頬をかすめた。
「こう見えて剣道二段だからな、覚えといてくれ」
「けん……どう?」
あ、こっちの世界にはまだ剣道なんてなかったわ。
でも、漁師町のチンピラよりはよっぽど動けるぞ。学生時代、毎日竹刀で打ち合ってたからな。
「あんたを殺す気はない。でもな、それ相応の報いは必ず受けるぞ、必ずな。じゃあ、俺ら適当に牛鬼やるから元気でな」
そう言って、僕とウミとユイは部屋を出て扉を閉めた。
「お前ら、覚えとけ!わしにえらそうに講釈を垂れおって!おお……ゴッ……ゴホッ……ゲホゲホ」
はい、スターの無敵モードが切れたな。
ユイ、ナイス。短い神のご加護やったな。
「僕、何もしなかったけど」
とウミ。
「いや、覚えておいてくれたらええよ。あとでどんな会話があったかサトちゃんに教えてあげて」
「わかった!しかし、ソラ君、真剣なんて扱えたんだね?びっくりしたよ」
「扱えるかぁ~!初めて持ったし、初めて振ったわ。重すぎて止めようと思った位置から三十センチはずれてたわ。止めきれんでもうちょっとでフジマサの首、その場で刎ねるとこやった~」
「刎ねれば良かったのに、フフ」
聖女様?
「まぁ、はったりも効いたし、宣戦布告もできたしいいんじゃない?ソラ君」
「結果オーライやな。一応司祭さんの話の裏も取れたし、アオの情報とも合致してる。誤算やったのは、あいつもうじき死ぬな。マキさんの娘さん迎えに行った時は覆面して、体格のいい老人ってことだったけど、今はあれやからな。病気の進行が早い」
「うん、多分助かるのは無理だね」
「ホンマはコーチの殿さんに頼んで、ちゃんと余罪も含めて裁いてもらおうと思ったけど、それまでもたんわ。打首でも足らんくらいやと思っとったけど」
「あと一週間もつかどうかね。でも今、打首より辛い日々を過ごしてるわよ、あれ」
やっぱり?
まぁええわ。
僕らは宿屋から荷物を引き上げて、きちんとアデヤ金貨で支払いをして通りへ出た。
悪党相手でも無銭飲食は良くない。
「さてと……泊まるとこ無くなったな」
「まあ、あのままあそこにいても危険だしね」
「どうしようか……」
「う……うち、来る?」
えっ?天さんとこ?
*(120話へ続く)*




