118話 密談
昼過ぎに僕らは宿屋の食堂に集合した。
町一番の宿屋の食堂なだけあってかなり広い。僕らみたいな宿泊客は多くないみたいだが、思いのほか町の人たちで賑わっていた。
そんな中、あえて中央に近いテーブルに陣取って僕らは食事をした。
「なに頼もう?」
「やっぱりカツオじゃない? 新鮮なやつ」
「コーチってどこもカツオばっかりな気がする」
「サイタニ屋では中華がメインでしたよ!」
と、リーちゃんが否定する。
「まぁ、コーチならどこで食べても魚は美味いよね。あと鯨も食べられるし。皿鉢料理も美味い!」
「寿司の酢にゆず風味が効いているのがいいですね」
アオ、通やな。
「でもまぁ、お昼に重たいもんもあれやから、お刺身定食あたりでいこうか」
「シカちゃんは?」
「おむすび!」
「炭水化物のみ?野菜も食べないとだよ。あ、さっき教会で司祭さんから野菜貰った!」
「ソラさん、いい白菜ですね!私、 厨房をお借りしてちゃちゃっと料理しちゃいましょうか?」
リーちゃん、君は流れの板さんか。よそ者に貸してくれるもんなの?
僕に聞いておきながら返事する前に、もう野菜持って厨房行っちゃった。同じ宿屋の食堂同士のシンパシーみたいなの感じるのかな?あっさり溶け込んで包丁ふるってる。
などと、わちゃわちゃしているのは実はワザと。
あえて真ん中のテーブルを選んだのも、近くに尾行者がいないのを確認するため。自然に周りを見渡せるからね。あと窓際や壁際を選ばなかったのも盗聴防止のため。大事なことは、うるさい店のガヤガヤしたところで話す。
「ウミ、収穫は?」
小声で喋る。
「うん、あった。あの女性……マキさんって言うんだけど、彼女が言うには一方的に『今年はお前の所の娘』って、有無を言わさず指示されたんだって」
「ほう、誰に?」
「ご主人は漁師さんでカズさんって言うんだけど、そのカズさんが乗ってる船の船主で、この町の漁を仕切っている人らしい。今は引退して別の事業をしているそうだけど裏で町を牛耳っているそうだよ」
うんうん、合ってる。答え合わせだ。
「名前は聞いた?」
「いや、本当に逆らえない人らしくて、聞いたけどどうしても言えないってさ。カズさんも理不尽過ぎて許せないみたいだけど、表立って抗議すると仕事を失うって。それどころか町にいられなくなるってマキさんが怯えながら言ってた。どうしようもなくなって自ら命を……って思い詰めたらしい。泣きながら話してくれたよ。悪いことしちゃった」
「なるほどなぁ。ありがとう。よく聞き出せたな。さすがウミとリーちゃんだ」
と言ってるところに、リーちゃんが皿を持ってやってきた。
「お待たせしました~。シカちゃん、八宝菜にしましたよぉ~。野菜もしっかり食べてねぇ~」
「食べる!」
と言って、シカちゃんは嬉しそうに八宝菜を口に運ぶ。
いや、まだ熱いって。
「なんか厨房の人にもっと作ってくれって言われたので、手伝ってきますね。エビがあったのでエビチリ食べます?」
「食べる!」
と全員で叫ぶ。
その声にみんな何事かとこっちを見ているが、シカちゃんが食べかかっている八宝菜を見て、あちこちでリクエストがかかる。ここでは珍しいんかな?
リーちゃん、なかなかこっちに戻って来れんな。
「で、マキさんの娘さんはどうやって家から連れて行かれたの?」
「その日の夜に、覆面を被った大柄の老人が来て、マミちゃん……娘さんの名前だけど、その子の手を引いて港に向かったそうだよ。船で沖の小島まで連れて行かれるんだってさ。次の日の朝、金貨一枚が玄関先に置かれていたんだって」
「ほぉ~、子供一人の命が金貨一枚ってか!ほな、それを仕切っている奴の命は銅貨一枚で十分くらいやの。そいつの分、俺が払ってやるわ!牛鬼んとこ連れてってやる」
「ソラ、聞かれる!」
おっと、ユイ、サンキュー。
興奮してしまった。
「ウミ、それ聞くの辛かったの。リーちゃん、マキさんからその話を聞いて、気を紛らわそうとしてあっちで料理してるんやろ?すまんかった」
「ソラ君、なんでそこまで気がまわるのさ?僕は、なんで突然リーちゃんが料理始めたんだろうって思ってたよ」
「ん……そうかどうかは知らんけどな。男より女の人の方が、そんな話聞くのは辛いんかもって思っての」
「ありがとう。あとでフォローしておくよ」
「頼んだ。で、アオはどうだった?」
「はい、聞いて来ました。お年寄りの方十人くらいからですけど」
「え?午前中で十人も?」
「はい。黙って聞いてると延々話されるので、こっちが聞きたいことを質問して、話が逸れそうになると軌道修正して、できるだけたくさんの人から聞こうかと」
「お前……天才やわ。ほんで、どんな話が聞けた?」
「はい、元凶はこの宿屋の主であるフジマサという元漁師の網元ですね。男気があったので、この漁師町の顔役みたいになったようで。権力を得てからは漁師をやめて、あくどいことをやっているみたいです。町に出入りする者の素性を洗って、自分にあだなす可能性のある者は容赦なく殺すとも。実際に自分の息子を殺された人もいました」
「アオ、お前……優秀過ぎるわ」
「とんでもないです。続けていいですか?十年くらい前に牛鬼って妖怪がこの沖に住み着いて、漁船を襲って漁師を食うってことが続いたそうです。収入のほとんどを漁師から上前をはねることに頼っていたフジマサは事態を重く見て、外部から腕に自信のある剣豪を雇って討伐しようとしたそうですが、ことごとく失敗。その間も船の被害は続いていたそうです。フジマサは最終手段として自ら貢ぎ物を持って島に渡り、牛鬼と交渉してきたそうです。その結果、年に一人、子供を生贄に差し出すってことになったそうで」
「子供を、なぁ」
「どこの家の子供にするかは、フジマサへいくら袖の下を渡せるかで決まるそうで、どうしても金の無い若い夫婦の子が生贄にならざるを得ないと」
プチーン!
新情報やな。完全にキレた。
「ソラ!」
ハイハイ、僕は大丈夫ですよっと。
「牛鬼の元へはフジマサが小舟で連れて行き、子供を引き渡す時に、牛鬼は引き換えにサンゴをフジマサに与えているそうです。フジマサはそのサンゴを金に換えて、私腹を肥やしているんだそうです」
「あはははあ、凄いのぉ!そこまで腐ってたら」
大声出して笑ってしまった。
みんな何事かとこっちに注目している。
知らん知らん。
黙って刺身を摘まんで口に入れた。新鮮なワサビが鼻に効いて涙が出た。
「アオ、ご苦労。そんだけの情報、よく集めたな。サンゴの話とか誰から聞けた?」
「それがですね、かなりお年を召されていましたが、フジマサの右腕として仕切っていた人物らしいです」
「なんでそんな人がベラベラお前に喋ってくれたんだ?」
「息子さんがフジマサに謀反の疑いをかけられて、殺されたそうです」
「謀反ってか?」
「できのいい息子さんだったらしく、フジマサの腹心である父親に反発してたそうです。息子さんはこの町の現状を憂いて、これじゃダメだと思ってコーチの殿様に直訴に行ったそうです。でも町を出てから消息不明になったとのことで、結局ご遺体は見つからなかったそうですが、殿様に知られるのを恐れたフジマサに殺されたと、その老人は信じています。その件もあり、これ以上一緒にやっていけないと思い、隠居を申し出てフジマサの元を去ったとか。私が変装をして聞きに行ったとき、その姿が息子さんに似ていたようで、泣きながら話してくれました」
「アオ、お前、変装して行った?」
「はい。いつも話を聞く前に相手を見て、どうやったら心を開いてくれるか想像しながら変装しています。不思議とそれがいつも当たっちゃうんです」
「当たっちゃうってお前……。ホクロだけちゃうんか」
その相手の心の奥を事前に察知できるのって、特殊能力ちゃうか?
「なるほどな。俺らも似たような話を聞いてたけど、より具体的にわかったわ。みんなありがとう。サトちゃん、記録してくれた?」
「もちろんです。ウミさんの話、アオ君の話、そしてさっきの司祭さんの話、時系列で見出し作ってまとめましたので一目瞭然ですよ!」
「うわ、凄い!俺らの報告無しで全部一本の線でつながってる」
「あと、ローパーちゃんから司祭さんの手紙も届いていたので、犠牲になった子がいつっていうのも表に入れておきました」
「ああ……サトちゃん、ありがとう。余計、メラメラしてきたわ。これ……全部そいつらのせいやな。あとで証拠として提出する」
「はい、私も書いていて気分が悪かったです!」
「お待たせしました!エビチリでーす!」
と、重たい空気の中、リーちゃんができたての料理を届けてくれた。
よし、これ食って気分転換だ。
まずは殻がついたまま一口……。
「って、これ、辛っ!!リーちゃん、どうなってんの。唐辛子入れすぎ?」
「私の気持ちが入ってます」
なるほどな。
「今回はいつもより、かなり辛口で行くか!」
全員頷く。
「激辛でね」
シカちゃんが興味津々でエビチリのソースをひと舐めした。
「ギョ―!」
なんて声出すのよ。初めて聞いたわ、そんな声出すの。
「シカちゃん。今回はしっかり出番あるから覚悟してね」
*(119話へ続く)*




