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117話 告白


僕らは人の目があるので、教会の中に場所を移した。


「わしは元々はここの人間では無い。出はコーチの東の百姓のせがれじゃ。貧乏じゃったが両親は熱心なアデヤ教徒でのぉ。わしも小さい頃から教会に通ってアデヤ様に祈っとった。ま、今、こんな仕事をできているのもその縁じゃ。家を出てコーチで一旗揚げようとしたが夢破れてこの地へやってきた。ここでカツオ漁の船員として雇われとったが、この体じゃ。元締めをしとったフジマサに声をかけられ、用心棒をしとったがじゃ」


「なんで用心棒から司祭に? 本部から派遣された司祭さんはいなかったの?」


「さっきも言うたが、この町はフジマサが牛耳っておる。やつに都合の悪いもんは不思議といなくなるがじゃ」


「フジマサってなんなのさ? 元締めって」


「元はやつも腕のいい町一番の漁師よ。この町はカツオ漁で成り立っとる。誰からも認められる漁師の元に人は集まる。人が集まる所には金も集まる。ヤツは金も権力も手に入れ、漁師の元締めちゅうことで上がりをはねて、その金で様々な事業にも手を出していった。ま、田舎のヤクザみたいなもんじゃ。役人もあいつの息のかかったもんばかり。町への人の出入りは管理され、宿をやっとるのもあいつの傘下。町で一番マシな宿はあいつの住処じゃ。そこそこ身分の高い旅人はあそこに皆泊まる。出向くことなく自分の家であいつは情報収集ができる。受付、食堂、客室係、全部あいつの手のもんじゃ。密談しようにも全部筒抜けちゅうわけじゃ」


「まとめると、漁師の網元が権力持って町を牛耳っていて、自分に都合の悪い話は命を奪ってでも消すってことですね?」


「まあ、そうじゃ」


「また話は戻りますけど、なんであなたは司祭に?」


「ひとつはフジマサのやり方についていけんと思うた。わしは用心棒として常にフジマサの側にいて、一部始終を見とった。わし自体が手を下すことはなかったが同罪じゃの……。今から十五年くらい前か、この教会の司祭が亡くなった。その一人娘がさっきわしを呼びに来た女じゃ。わしの家内じゃの。継ぐ者がおらん教会は、普通は教会本部から新たな司祭を派遣してもらうじゃろうが、フジマサがそれを拒んだ。知らん人間をこの町に入れたくなかったんじゃ」


「徹底してますね」


「そこで、わしが命じられたのよ。わしももうフジマサの元でやっていくのにうんざりしてたところじゃった。幼い頃からのアデヤ様への信仰心もあったし、渡りに舟じゃ。司祭の娘の所に婿に入る形で司祭としてやってきた」


「あなた、司祭の資格も何もなくやっているの?」


「ああ、もぐりの司祭じゃ。本部じゃまだ義父が生きておることになっておるじゃろ。細かいことはフジマサが色々やったから、わしは知らん」


「きちんと手続きを踏めばもっと援助を受けられるのに」


「ええんじゃ。好きでやっとることじゃ。もぐりの司祭やしのう。死んだ子供らにもなんもしてやれんかった……」


「司祭さんが教会に来てから牛鬼が出るようになったんですよね? フジマサってやつが牛鬼と交渉したのは誰から聞いたんです?」


「あいつが自分から言うてきおったわ。自慢げにの。『これで漁は安泰じゃ! 年にたった一人の生贄で手を打たせたぞ』とな」


「たった一人……だと?」


「そうじゃ。じゃが、わしには頷くことしかできんかった。卑怯じゃろ? わしは司祭の資格もない、ただの用心棒崩れじゃ。やき教会本部からの活動費は受け取れん。自分のことは自分でする。その分、生贄を出した家にはできるだけのことを、ここの教会としてしてやりたいと思うておる」


「毎年一人、十年で十人か」


「子供に関してはそうじゃ。他にも窮状を訴えようとして出た町の人、コーチからの使いも何人かはフジマサの手の者に消されちゅう」


「なるほど……司祭さん……名前聞いていい?」


「ん? わしか? わしはノブタじゃが」


「野豚?」


「の・ぶ・た」


とユイが言い直す。


音は一緒やん。


「ノブタさん、えらそうなことを言いますが、話を聞いて僕はあなたに好感を持ちました。ただ、司祭さんと認められるかと言うと、厳密には認められないので司祭さんとはよう呼ばん。だからノブタさんと呼ばせてもらいます」


「ああ、それでええ。町の人も『フジマサの用心棒が司祭だなんてふざけちゅう』という人もおる。それはわしがこれまでやってきたことのツケじゃき仕方ない。司祭らしいこともしてないしのう。祈りは子供の頃から毎日しとるきできるが、家族を亡くした者を慰める方法は知らん。司祭の資格なんぞ無いわのう」


「そうかしら? 女神アデヤはあなたを司祭として認めているわよ。偽司祭なんていたら、とっくに罰が下っているはずよ」


「聖女様は優しいのう。こんな漁師町の教会のことなんて、女神様は見えちゃあせんがですよ」


「あら? 女神アデヤを信仰しているのに信じてないのね」


そう言うとユイは天に向かって何かを呟いた。


アデヤさんに何か言うたな、こいつ。


すると空から一筋の光が降り立ち、中から女神アデヤが現れた。


「苦労をかけております、司祭ノブタ。あなたとその妻の行いを私は常に見ております。あなたがたの、どこの教会の司祭にも劣らない信仰心を私は強く感じています。さぁノブタ、これからは胸を張って司祭を名乗りなさい。アデヤ教の世となり、このアデヤ自身が直接認めた数少ない司祭の一人です」


そう言って、優しくノブタをその胸に抱く。


「アデヤ様……これは夢か……なんと暖かい……生まれ落ちてからこれまで、アデヤ様を信じて来てよかった」


「司祭ノブタ。今まで辛かったこともあったでしょうが、もうすぐそれも終わります。そこにいる聖女ユイとその仲間たちと協力して、今の苦しみから抜け出しなさい」


「はい! 女神アデヤ様。心して……」


ああ、完全にアデヤさんに認められてるな、ノブタさん。


「ところでソラ……」


「え? 僕ですか?」


「こっちに来なさい」


え? なんで?


「ノブタは立派な司祭です。認めなさい」


「そうみたいですね。アデヤさんが認めているなら、それは立派な司祭です」


と強調するようにノブタさんに向けて言うと、アデヤさんは今度は僕を抱きしめ、耳元で小声で囁いた。


「ソラ、この町のこと、よろしくお願いします。人が決めたことに神である私が直接かかわることは避けております。なので、あなたが私の代わりに……ねっ」


「ね、じゃないですよ。でも、はなからそのつもりです。色々聞いて、めちゃくちゃ暴れたい気分ですわ。もしやりすぎだと思えば止めてください」


「あなたのやりたいようにやりなさい。許します」


「あ、でも僕は仏教徒ですので、アデヤさんに許されても別に……」


「ソラ、あなたらしくない。小さいことを気にしなさんな」


あ、アデヤさんに指摘されたな。


「確かに。僕らしくない発言でしたね」


「それと、ユイのことも頼みます。フフ」


そう言って、来たときとは逆に光の柱が空に上り、アデヤさんもそれと一緒に消えていった。


言うだけ言うて帰りはったな。


「なんと、あなたは預言者様でしたか!」


いや、ノブタ……じゃなくて司祭さん、違うって!


なんかしれっと神の執行者みたいになってるやん、この流れ。違う違う!


「ところでソラ。ママが隠蔽使って話してたけど、何話してたのよ」


「え? 俺の好きにしていいってさ」


「でも、あんまり無茶しちゃダメよ。すぐ死にかけるんだから。ママにはなんて言われたの?」


「ユイのことをよろしく、ってさ」


「え? え? そんなことまで? え? で、ソラはなんて答えたの?」


いや、そんな興味津々で聞かれても……。


「アデヤさん、自分の言いたいこと言ったらとっとと消えはった」


「ぶーぶー」


ブーイングされても答える隙与えてくれんかったし。どっちかというと、こっちがユイの世話になってる。


「あ、司祭さん、遅くなりましたが僕の名前はソラです。他にも仲間がいますので、また紹介しますね。女神から許可も出たので、牛鬼のこととかちょっと僕らで色々やらせてもらいますので、協力お願いします」


「預言者ソラ様。かしこまりました。なんなりとご下命ください」


「いや、そんな態度やめて。僕は別に預言者ちゃうし。アデヤさんと単なる雑談してただけ!」


「雑談? 神と語れることが預言者たる証明です!」


「いや、そうじゃなくて。……んとね、実はそこにいる聖女が僕の許嫁(いいなずけ)で、それ関連で聖女家族には色々と親しくしてもらってて……」


なんか思いっきり俗な説明やな。


「聖女様が許嫁? それはもう、ゆくゆくは神になられるということですね?」


「だ~か~ら~、そうじゃないです。ユイを嫁にするなら、ユイは僕と人間としてこっちで暮らしてもらうから。僕は神じゃなくてただの人間! そもそもアデヤ教徒でも無い。古の途絶えた宗教、仏教徒です。アデヤ教なんて全く分からんし」


「なんと……」


「だから、僕のことはソラでいいし、普通に喋って。肩凝るわ」


「では……オホン、ソラか。何が知りたい?」


「まずはこれまでに犠牲になった子供のことを色々聞かせて。名前とか親の住所とか、教会でわかる範囲で」


「わかった。すぐに調べて伝えよう。あと、さっきも言ったが宿屋は危険じゃぞ」


「そうですね。ここはどう?」


「ここにはわしと嫁しかおらんから安全じゃが、仲間と集まったらそれこそ警戒されるじゃろ?」


「まあね。ずっと尾行されてるし。ちょっと考えるわ。寝る場所とかは宿屋を変えると余計怪しまれるからそのまんまで、打ち合わせは違うところでする。ありがとうね」


「うむ。じゃあ調べたら紙に書いて宿屋に届けよう」


「それは司祭さんに疑いがかかりそうなので、カラスに預けてください。教会の扉を開けといてもらえば、でっかいカラスが来るので、そのくちばしに挟んでください。そしたら確実に僕らの手元に届きますから」


「カラスが、か? やはりすごいのぉ」


「それは聖女のペットです」


「ローパーちゃんはペットじゃないわよ」


へいへい。


「じゃあ、司祭さん、連絡はカラスでしますので、またよろしくお願いします!」


そう言って僕らは教会を出た。


---


「サトちゃん、これまでの話の内容メモしてた?」


空気やったな。


「あ、はい。それはもうバッチリと。それよりアデヤ様が目の前に……」


「アデヤさん? これからも頻繁にありそうやから慣れてね。ユイの母ちゃんと思っておけば、そんなに緊張せんよ」


「ソラさん、彼女の親に会うのに緊張しないんですか」


!!


え? そう言われるとめっちゃ緊張してきた。確かにそうか。


「まだ彼女じゃないわよ」


あ、そうだった。付き合ってなかったわ!


「シカちゃんもちゃんとそばにいたね?」


「女神見た。光、カッコいい」


じゃあシカちゃんも真似しようね。シカちゃんはスモーク出るからいい勝負だよ。


「一本さん、生きてる?」


「ソラ、お前、とんでもないヤツやな。女神と対等に喋るって」


「シカちゃんもある意味女神じゃん。一本さんだって」


「アホ! わしは八百万(やおよろず)の神のうちの一柱ぞ。わしとは格が違うわ。わしなんざ八百万分の一ぞ」


「なんや、ほぼ空気やな」


「お前、バチ当ててやる! バチ!」


「当てれるもんなら当ててみな。倍返しだ! ……とか言うとる場合じゃないな。もう昼か。そんじゃあ一旦宿屋へ戻って秘密会議!」


*(118話へ続く)*

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