116話 情報収集
僕らはサトちゃんの持っていたお遍路巡りの本で、ここが井田と呼ばれる漁村と知った。合わせてウミの持っているお遍路ガイドで、僕らの世界では黒潮町と呼ばれるカツオ漁のさかんな土地だと分かった。
その日はこの町の宿で一泊して、翌日から聞き込みを始めることにした。
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朝食後、女性陣もすっきりした顔で宿屋の部屋に集まって来て、むさくるしい男ばかりの部屋でミーティング。
「足摺岬まであと少しってとこだったけど、これは捨て置けないよね」
とウミ。
「見て見ぬフリはできんからな」
「ソラさんじゃなくても見過ごせないです」
サトちゃんも憤っているな。
「アオ、お前、悪いけどまた殿さんとこに使いで行ってもらうかもしれん」
「任せてください。いつでも行きます! もうお城の門番の人や城内の人とも親しくなったので、次からはソラさんの親書を持たなくても入れてもらえると思います」
「アオ、お前たった一回しか行って無いのになんなん、そのコミュ力は。お前こそ教祖向きな気がするぞ」
「違いますよ。コーチのお城に関してはソラさんの仲間というだけで、皆さん便宜を図ってくれました。ソラさんたちの力です」
う~ん、そんなもんかね? そもそもあの城の連中、平和ボケしすぎてないか。
「アオ、シカも行く。シカに乗ると川飛べるから早い」
あ、そうか! 四万十川で一人だったら渡河に手間取るな。シカちゃんナイス! あと、いつの間にか長文喋れるようになったのね。小さいのにえらい! 最年長だけど。
「じゃあまずは昨日助けたお姉さんとこに行って色々聞いてみるか! さすがにもう落ち着いたやろ」
「ソラさんが喋るとかなり乱暴でヒヤヒヤするので、私が話しますね」
とリーちゃんが立候補してくれる。確かに僕だとすぐカッカしてしまうので助かる。
「じゃあウミとリーちゃんは昨日のお姉さん、サトちゃんは情報をメモして。俺とユイは教会を当たるわ。シカちゃんとアオは体力温存しといて」
「ソラ君、リーちゃんが聞き出したことは僕が覚えられるから大丈夫だよ。サトちゃんはソラ君側で記録係をしてもらった方がいい」
なるほど! ウミの完全記憶能力を忘れていた。
「ソラさん! 僕も体力は大丈夫です。密偵の経験があるので、あちこちで情報を集められますよ」
あ、コミュ力の化け物を遊ばせるところだった。
「そうか! 確かにそっちがええな。じゃあシカちゃんは俺らと来て。ユイとシカちゃんって未来の神様クラス二人従えるって贅沢やな」
「ソラよ! わしのこと忘れて無いか?」
「あ! 一本さん! 完全に忘れてたわ。じゃあ、それぞれ三班に分かれて情報収集。お昼頃に一旦宿屋に集合しようか」
「うん、そうしよう」
「わかりました! 有力な手掛かりを集めてきます」
「アオ、何を聞くかわかってるか?」
「何をですか? はて?」
「お前なあ……。整理するとウミはお姉さんから、娘さんの身に起きた生贄の件。どうやって生贄が選ばれるのか、それを誰が選んでいるのか、どんくらいの頻度で儀式があるのかをソフトに。踏み込みすぎんでええぞ。辛い話になるから」
「うん、その辺は心得てるよ。僕は喋るの苦手だけど、リーちゃんは接客業だったし大丈夫だと思う」
「アオはできるだけお年寄りから、いつから儀式があるのか、牛鬼ってなにもんでいつからいるのか、これまで誰か討伐しようとしなかったのかなど。古い話なら若い人より年寄りの方が詳しいと思う。俺らは教会に行って、今の司祭がどんだけ事情をわかっているのか、アデヤさんに伝わっているのか、その慣習が黙認されている理由などかな」
「ソラ君、殿様に討伐依頼する気はあるの?」
「ん? 無いぞ。俺がやる」
「じゃあなんで殿様に使いを出すの?」
「この町を統括している代官の責任問題の追及やな。必要なら更迭させな。あとは子供を亡くした親への補償というか……金の問題じゃないけどな。代官の怠慢で被害が出てるなら、なんかあってええんちゃうかなと」
「リーちゃん、余談やけどコーチの学校通ってる中で、城外で浮浪児しとったやつらいっぱいおったやん?」
「はい、親に捨てられた子供がたくさんいました。でもちゃんと仕事についた郷士さんの子供は、家に帰ってそこから通う子も多いですよ」
「親が現れんかった子は?」
「隣のアデヤ教会で司祭さんや吉田さんが面倒見てくれています」
「ふ~ん……」
「みんな学校楽しそう?」
「はい。まずは常識とか礼儀からですけど、文字や算術を覚えた大きい子は、どんどん商店とかから声がかかってます。サイタニ屋も私が抜けたので、給仕についた女の子がいますよ」
「ウミに花を売りつけた子やったりして……」
「ありえるね。愛想良かったし」
「そうやって子供にはちゃんと未来を与えんといかんのや」
「ソラの哲学ね」
「当たり前のことが当たり前じゃない世界が多いからなぁ。ここの生贄の子もそうやし、元の世界だって大人のエゴで子供が犠牲になっとる。許せんなぁ」
「元の世界でもソラ教布教ですか? 手伝いますよ!」
サトちゃんやめて。
「よし、無駄話終わり! 各自調査開始!」
僕らは各々手分けして聞き込みにかかった。
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「こんにちは。司祭さんいますか?」
アデヤ教会の入り口で掃き掃除をしていた、黒く日焼けした女性に声をかける。木造の簡素な作りの教会で、大きさもこれまで見た中では最小。大丈夫かアデヤ教。
「少々お待ちください。呼んでまいります」
と建物の裏に駆けていった。司祭なのに教会に詰めてないんかい。
「お待たせいたしました。お祈りですか?」
と汗を拭きながら真っ黒に日焼けした大男が現れた。筋骨隆々で汗びっしょりな姿は、安穏寺さんを思い出す。
「ちょっとお話を聞きたくて伺いました。大丈夫ですか? なんか作業中だったとか?」
「ああ、すまんことです。手の空いた時は裏で畑仕事をしちゅうがです。我がで食べるもんくらいは、我がで作らんといかんですきに」
「え? 自分でですか? 教会から給付される活動費はどうしてるんですか?」
「活動費? そんなもんありゃせんです。わしらが生み出す金なんてありゃせん。活動費言うても全部信者からの寄付じゃろう? なら信者の為に使わんといかんですろうが? だから我がの食い扶持は我がでやりゆうがです」
「じゃあ活動費は?」
「ああ、色々あって働けん信者さんとかおりますき、そこにまわしてます。あ、部外者の方に言う話じゃないですな。はっはっは」
んん? この人、偉い人だぞ。なんか気に入った!
「私はアデヤ教の聖女です。あなたの仕事は教会の運営を滞りなくすることでは? 畑仕事していていいの?」
「聖女様でしたか? こんな辺鄙なところまでご苦労さんです。聖女様は教会の運営とおっしゃいますが、ここで何ができますろう? 泣いちゅう親を慰めることくらいしかできんのです。子供を助けて言われても、わしにはどうにもできんがです。子供に会いたい言われても、わしにはそんな力もない。できるのは気力を無くして働けなくなった親を死なせんように、かろうじて食いもんの支援をすることくらいですき。やき、この教会に金は無い。食いもんもわしが作ったやつを持って行ったりしちゅうがです」
「そのような状況を本部に報告は……」
「そんなもん、町を出る時には全部握りつぶされちゅうがです。最初の頃は毎日嘆願書を送っておりましたがのう」
「司祭さん、握りつぶすって誰が?」
つい口が出た。
「そりゃこの漁師町の元締めよ。街道の人の動きを見張っちゅう。この町に都合の悪いことは全部ひた隠しよ。入るのは楽じゃが、出るのは難儀しますよ、聖女様」
なんだそりゃ? 元締めってか。都合の悪いことなぁ……。
「元締めって言うのはどこにいるの? 話をしたいわ」
「おまんらどこに泊っちゅうが? この町の宿屋か? まさにそこが元締めの家ぞね。そこで外から入って来た人間の監視と、出て行くときの監視もしちゅう。下手したら町を出たところで消されるっちゅう話ぞ」
「面白いな。じゃあ俺らも監視されてるってことか?」
「ソラさん、あの角の向こうに、さっきから町人風の人が付いて来てますよ。宿を出る時から気づいていましたけど」
サトちゃんもか。実は僕も知っていた。ということは作戦会議も聞かれてたってことか。いいねぇ。
「じゃあ司祭さん、牛鬼関係もその元締めってのがあれこれ仕切っているってことでいいんですよね? アデヤ教本部やコーチの殿様に窮状を伝えようとしても、途中で潰されているってことで」
「否定しても意味無いのう。そう。全て元締めが仕組んだことじゃ。足摺の根元に牛鬼というのがイーヨの国から流れて来て住み着いて、もう十年くらいか。漁に行って襲われて、漁師が何人も死んだ」
「牛鬼か……まだ十年くらいの話なんやな。思ったより最近だな」
「漁師仲間で討伐しようとして返り討ちにあったりした。そこで用心棒を雇っての。いわゆる剣客ってやつじゃ。何人も雇っては戻ってこなんだ。それなりに有名な剣豪と呼ばれた者もおったがの。それを手配していたのが、漁の元締めをしていたフジマサっちゅう男じゃ。フジマサはヤクザ崩れでの、高額な報酬をちらつかせて用心棒を雇い、討伐の成功報酬に金貨百枚をうたって集めておった。ことごとく失敗したが、フジマサの懐は全く痛まん。失敗したら払わんでええからの」
「ひどい話ね。剣客たちはただ殺されに行っただけじゃない」
「何度も剣客を相手にして、侍の戦い方も牛鬼にはバレバレで全く相手にならん。そんな中、牛鬼が出した条件が『生贄を差し出せ』やったがよ」
「なんで子供を差し出すんだよ!」
「そこじゃ……牛鬼は『子供』なんて条件は出しておらん。フジマサは自分らが対象から外れるようにっちゅうことで、子供を生贄にと皆に伝えたんじゃ」
「あ? 自分が助かりたいからやと?」
「ああ。自分の子供も成人しておるから対象にならんと判断したんじゃろ。汚いヤツじゃ」
「司祭さん、なんであなたはそこまで内情に詳しいんです?」
それバレたらフジマサってやつ終わりやん。
「それは……わしがその時、フジマサの用心棒やったきじゃ……」
「え? 司祭さんが用心棒?」
ウソでしょ。
*(117話へ続く)*




