114話 救出
昨日は夜中までみんなでいっぱい語った。ウミとリーちゃんチームからは一本さんの大活躍を。御殿を建てた話から、春日神社での八面六臂の活躍まで。ウミがべた褒めだったから、調子に乗ってリュックの横から自慢しまくるかと思ったけど、天さんに遠慮したのかずっと金槌のフリして黙ってたな。時々、湿ってたのは汗か?
僕らからはやはりルイ(アオ)の話で盛り上がった。カヘイさんの娘さんの話とか。カヘイさんには全く似てなくて、亡くなったヨウジさん似。ヨウジさんとアオって似てるから、カヘイさんの娘さんとアオも似てるってことか。美形ではあるが、同じような顔の人と結婚するのはちょっと遠慮したいかな。
鯨の話からシャチ二頭、義ヒレの話と室戸の船団の話にウミは驚いていた。
天さんは明け方には女性陣と一緒に帰って行って、みんな戻ってくる頃には着替えてシャワーも浴びてすっきり。僕らは四万十川の冷たい水で水浴びだ。サチは天さんの煩悩を吸ったせいか、テカテカに輝いている。頭の中でみのもんたという言葉が浮かんだ。あ~天さん、そんな感じだなぁと思ったり。
「さて、みんな揃ったな?行くかぁ!」
と声をかけ、いつものように歩き始めた。
「ウミ、橋はどの辺?俺、親父の実家行くときにこの辺車で走った記憶あるけど……」
「ガイドブックにはこの辺に……」
「無いですよぉ~」
とサトちゃん。こっちのお遍路巡りの本か。
「この辺って山で切った木を川を使って運ぶから、橋は作ってないんですって。渡し船しかないですねぇ」
よく見ると川岸に無人の船がある。なんか両岸に綱が張られてるけど、まさか?
「あ、これですね。船に乗って自分で向こうに綱を伝っていくみたいですよ」
「どこぞの公園でこんな遊具あったなぁ……とりあえず俺らが引っ張って女性陣向こうに運ぶか」
「了解!」
とウミが答える。シカちゃんに乗せてもらえば済む話だけど、それはしない。
「ソラ、私は飛ぶわよ。濡れたくないし。代わりにリュックは運んであげるわ」
そう言って背中のあいたドレスから白い翼を広げる。あ、オカンが作ったドレスやん。
「お前、それ着たかっただけやろ?」
「うふふ、似合うでしょ?」
悔しいけど似合う。嬉しそうに羽ばたいて、みんなの荷物を何度も往復して運んでくれる。サチもテカテカしながら飛んで、ユイが持ちきれない荷物を運んでくれた。力余ってるな、あの幽霊犬。というか……。
「サチ、ちょっとこっち来い!」
「ワン?」
近づいて来たサチを触ってみる。ん……霊体の感覚が無い。いつものポワンとした感じのモフモフじゃなくて、実物の犬のような手触り……あ、透けてない!
「アオ!お前、サチ見えてないか?」
「あ、これサチさんだったんですか?近くの野良犬がついて来ているとばっかり」
「犬が普通に空飛ぶかい!これ、サチやぞ」
「幽霊犬ですか?」
背中をポンポンしてみる。手触りは犬。
「サチ、ちょっとひっくり返って」
寝かせたサチの胸に耳を当ててみる。鼓動は無い。死んでる。
「ん~と、幽霊やな」
「なんだこれ?どうなってる?」
「昨日、天さんの煩悩吸ってたからね。その影響じゃない?」
ウミの考察。ん~みのもんた効果?
「いつまで胸に耳を当ててるの。サチが恥ずかしがってるじゃない」
え?サチが?見ると冷めた目で僕を見ている。これセクハラなん?
「ソラさん、いつまでやってるんですか?先に行きますよ」
リーちゃんに怒られた!先生やん。
「ごめんごめん、じゃあ行こう。サトちゃんとシカちゃん先に乗って。俺が引っ張るわ」
そう言って、船に乗せて綱を引っ張る。あれ?これ……めっちゃ水流きつくない?綱が手に食い込んで痛い。
「ソラさん、大丈夫ですか?全然進んでないですけど」
「穏やかそうに見えるけど、結構流れがあるのよ、これ」
「私も引っ張ります!」
サトちゃんサンキュー。
「あ!波」
とシカちゃんが静かに反応。見事に濡れる三人。
「乗らなくて良かった~」
と対岸にしゃがんでいるユイが言う。チッ!
「こんなのすぐ乾きますから、一気に行きますよ!」
サトちゃんがフルパワーで綱を手繰って対岸までたどり着いた。シカちゃんもサトちゃんもラフな格好で良かった。
「ウミ!船そっち引っ張って。流れ、思ったより速いから気を付けてな」
「りょうか~い!」
と言ったウミは、何事もなく静かな顔でこっち岸にたどり着いた。
「お前、なんやねん」
「いや、アオ君が波を避けるタイミング指示してくれて、その通り手繰っただけだよ」
「アオ、お前なんでこっち乗らんのや!」
「ソラさんがそう指示されたので~」
しかし、アオ、万能やな。教団はこの力見抜いて俺らの尾行させてたとか?いや、まさかな。
「四万十川渡ったらもうちょっとで金剛福寺やな。頑張って歩こう!」
そこから河口に向かって歩き、また海沿いの道を歩く。
「海岸沿いに来るとやはり漁師さんの町がポツポツあるね」
「そうやなぁ~山の中はたまに炭焼き小屋があったり、農家があったりやけど集落はなかったもんな。このまま行ったらまた宿屋とかありそうな雰囲気やな」
街道沿いにどんどん家が増えて来て、昔お遍路があった頃はかなりの人が行き来してたんだなってのがよくわかる。
「まだ宿探すのは早いし、もう少し先の町まで歩くか。昨日はかなり栄養取ったし、まだ歩けるぞ」
「珍しい、ソラが前向きな発言するなんて」
「ソラさんが先に進もう!って言うと、なんか面倒ごとがおきますよね」
「フラグ立てるの好きだからねえ、ソラ君」
僕に喋るなと言うのかい、君たち。
集落を抜けるとまた海沿いの道に出る。太平洋のゴツゴツした岩だらけの海岸を見ながら歩いていると、
「ソラ君!あそこの女の人、海に入ろうとしている」
「海女さんとかか?太平洋の荒波でも入るんやのぉ」
「服着たまま胸まで入って行ってるよ!」
「あ?それ入水ちゃうか?止めないと」
と言う前にアオが既に走り出していた。しかし岩だらけの磯でうまく走れない。
「サチ!頼む」
「ワン!」
あっという間に岩に手こずるアオを追い抜き、女の人の元へたどり着いた。服の襟を噛むとそのまま持ち上げようとするけど、なんかサチの体が重そう。実体化した分、動きが悪い。持ち上げられないままサチも一緒に波に飲まれそうになった。
「まずいわね」
と言ってユイが翼を広げて飛んで行った。いつもならサチだけで大丈夫だと思っていたんだろう。ユイは波間に漂う女性を抱き上げて戻って来た。
一緒に戻って来たサチはショボーンとしているが、サチが襟元を咥えていたおかげで、この人は水を飲まずにすんだんだからお手柄だ。頭をポンと叩いてやった。上目遣いにこっちを見るサチに微笑んでみせると、安心したように尻尾を振った。
「痛い所はないですか?」
と問いかける。見ると裸足の足と腕は岩場で擦ったのだろう。傷だらけでかなり出血している。
リーちゃんはリュックから包帯と傷薬を取り出し、サトちゃんは木陰の地面にブルーシートを敷いて傷口を水で洗って確認している。いい連携だ。戻って来たアオは血を見て、その名の通り青くなっている。ウミはリュックから着替えになりそうなものを探している。
「ウミ、夏だからそんなに冷えないだろうと思うけど、俺のTシャツと短パンでも出しといて。あとタオル」
ユイは手を握って落ち着かせようとしている。
「死なせて、死なせて……」
と女の人はずっと呟いていたが、ユイが祈りながら手を握っているうちに落ち着いたのか、それ以上は何も言わなくなった。男どもは回れ右をして、ユイが服を着替えさせている。その間もリーちゃんとサトちゃんは傷の手当てをしていく。
男はダメだな。血を見ただけで舞い上がってしまう。無力……。
「少し横になって休んでもらおうか」
ブルーシートにタオルを敷いて、その上に寝かせる。ユイが額に手を当てて少しすると、寝息を立て始めた。一安心。
「ソラ、ごめんなさい……」
そう言うとユイがボロボロ泣き始めた。どうしたどうした?
「ソラにもらったばかりのドレス……」
「ん?」
よく見ると白いドレスのあちこちに血が付いている。あ、裾もちょっと岩に引っ掛かって破けちゃったか。
「ユイ、お前、怪我は?」
「私?私の血じゃないわ。全部その人の。私は大丈夫だけど……」
「じゃあよし!服よりお前だわ。気にすんな」
「でも、私のドレス……」
と、初めて僕の前でユイが大泣きした。わんわん子供のように。と、その時サトちゃんが、
「アオ君、その辺の畑で大根もらってきて!ウミさんはさっきの村に戻って桶を借りて来て。シカちゃんは水筒にお水汲んできてちょうだい」
「俺は?」
「ソラさんは裁縫。縫い物得意でしょ?」
なぜ知っている。オカンの横でいつも見たり真似したりしてたから、実はオカンより縫い物得意だったりする。
「リーちゃん、裁縫セット、ソラさんに渡して。そのドレス、破けてないってくらい綺麗に仕上げてね」
フン、やってやるよ。
「ユイ、今までのでも悪くなかったけど、もう少し俺好みにアレンジするぞ。脱げ!」
と言ってドレスを剥ぎ取ろうとして、サトちゃんにしばかれた。
「ユイちゃん、別の服に着替えて待っててね」
と、脱ぎたてのユイの肌の温もりが残るドレスを渡された。破れた裾を少し切って、もう少しミニにして……あとは綺麗に縫い直せば完成!オカンより綺麗に裾の処理してやったぜ!どうだ。
そんなことをしている間に、散らばった連中も戻って来た。
「ユイちゃん、ちょっと縮むかもだけど許してね」
と言って血の付いたドレスを軽く濡らし、アオがもらってきた大根をおろし金ですりおろす。それを手ぬぐいにくるんで血液のシミを叩く。
「綺麗に取れるといいね」
と言いながらポンポンとシミの部分を叩いていくと、徐々に色が薄くなり、消えていった。
「うちの母さんも体操服に付いた血にそんなことしてたよ。ジアスターゼの働きだよね」
「時間が経ってないから良かった。みんな素早い動きでとてもよかったわ」
サトちゃん、お姉さんキャラ発揮。大根臭いので少しすすいで完成!リニューアルしたミニスカドレス。心配だったのか、乾かしてすぐに着替えるユイ。
「かわいい~!」
「うん、いいね」
「前も良かったけど、こっちも素敵」
「みんな、ありがとう……うわーん」
とまた大泣きするユイ。みんなの印象が変わるぞ。
「ユイ、俺もこっちの方が好きだわ。ちょっと縮んだけど、逆にジャストフィットしてると思うし、膝上でちょっとセクシーになって前より好き!」
「ソラ、ありがとう!みんなありがとう!」
と言ってユイが抱きついてくる。まぁ今日くらいは抱きつかれててもいいかな。僕も頑張ったし。
女性も救出、ユイのドレスも救出。
「う……ううん……」
あ、気が付いた?
*(115話へ続く)*




