113話 野宿
一昨日須崎を発って、途中みんなで今後のことについて話し合った。一番はアオをアウル教団から引き離すこと。次が仲間たちの今後について。
結局、八十八ヶ所が終わって僕らが向こうの世界に戻っても一緒だ。アオは僕の舎弟だから、一緒に社長の所でこき使ってやる。サトちゃんはアオの監視役兼嫁さんとして向こうで暮らす。多分、本屋か図書館で働きながら、本を書くんだろうな。
あ……。
「あ、って何よ」
ユイ、いちいち僕の心の声を拾うんじゃないよ。
「ひとつ気がかりがあったけど、とりあえず先におさらいさせて」
「フン」
ツンデレってやつか、これは。まあいいや。
ウミとリーちゃんは一緒に修行ってことだけど、ご住職とお母さんには説明が必要だよな。そん時は僕が行って話をしよう。
シカちゃんは世間体も考えて僕とユイの娘ってことにしよう。いきなりの孫で両親はびっくりするだろうけど、すぐ順応するだろう。シカちゃん可愛いし。
サチはサトちゃんの護衛。一本さんは旅が終わったら正式にどっかにお祀りしてあげよう。一応神様だし。
いや、会社に一本さんいたら祭壇道具が壊れた時便利だなぁ。どうしよう。
「どうしようじゃないわよ、あなた神様を何だと思ってるの!」
でも、一本さんそっちの方が喜びそうな気がするけどなぁ。
「で?何が気がかりなのよ!と言うか肝心な私のことはなんでスルーなの?」
「え?シカちゃんの親って……」
「いきなり全部すっ飛ばすのね!」
「それはまたおいおいということで」
「ホント、バカね!」
へいへい。
「いやな、サトちゃんとこの座敷童さんどうしようかと思ってな」
「あ、そう言えば待ってましたね、私の帰りを」
「そうよ。一緒にあっちに来てって言ったら来てくれそうやけど、そうなると今の書店の先行きが不安」
「ご先祖様から引き継いでる書店だから思い入れもありますね」
「サトちゃん、あっちで本屋開く?で、実家の支店みたいな扱いにしたら?座敷童さんも一緒に来てもらってさ。あくまで本店は今の豊中の所ってことにして」
「それなら行けるかもですね!うん、いいかも」
「あ!」
「なによ、また」
「サトちゃんのご両親のこと忘れてた……」
「あ、大丈夫ですよ。今だってこんな感じだし」
「なるほど、大丈夫か!」
ちなみに昨日も歩きながら実現に向けて話し合った。一番のネックは住民票と戸籍謄本……。
そんな時、ユイがさらっと言った。
「そんなの、パパがなんとかするわよ」
「なんとかって……」
「私、学校に通ってたの忘れたの?」
「そう言えば転校しつつ何度も小学生してたな」
「留学もしてたわよ」
「年齢とか国籍とかどうしたのよ」
「それをパパが毎回ね」
「なんとかなるのか?」
「なってたでしょ?」
「確かに!」
「じゃあ、リーちゃんとサトちゃんとアオとシカちゃんの分も頼める?」
「直接頼みなさいよ、自分で」
「え?天さん?呼べる?」
「ソラとウミが呼んでるって言ったら喜んで来るわよ。今は頻繁に来るなって止めてるもの」
「あ、ユイちゃん、天さん呼ぶなら新しいメモ帳を買って来てもらって!お願い」
「サトちゃん、神さんをそんな気楽に使うなよ」
「!!」
みんな僕に注目する。
「なんだよ、なんか変なこと言った?」
「ソラ、『神さん』って言った?」
「え?天狗って神さんなんやろ?妖怪やと思ってたけど、みんなえらい丁重に扱うから。一本さんも神さんやし。違うの?」
「あ、まぁそうね、そんな感じ?」
「日本には八百万の神々がおるからのぉ。天狗もそうなんちゃう?知らんけど」
「ソラさんって案外頭悪いんですね」
サトちゃん、何を言う!
「さあさあパパ呼ぶからね!はい、お喋り終わり!」
ってな感じで天さんが来てた。
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「おう、ソラ!とうとう神になるってか?」
「そんな話はしてない!」
「つれないなぁ~。まぁその話はお前が死んでからおいおいな」
「ソラさん、なんかみんなといると今の人生って一体なんなんだって思っちゃいますよ。死生観がおかしくなっちゃう」
「サトちゃん、アデヤ教ってそもそもそんな感じちゃうの?死んでも転生って教えだし」
「ソラ君、死んだら終わりって考えじゃなかった?」
「ん?まぁ基本的にはその考えは変わらん。死んだら藤井空なんて人間はいなくなる。そっから先は別もん。だって俺とウミだって空海さんやったんやろ?俺らそんな記憶、微塵も無いし」
「確かに無いねぇ。天さんの記憶も全く無いや」
「お前ら冷たいのぉ~。あんなに一緒に遊んだのに」
「ま、それも神さんの天さんにとったらほんの一瞬のことやろ?」
「ソラ、お前、わしを神さん言うたか?なんで……」
「パパ、ソラはバカだからスルーして」
「そ、そうなんか?まぁええ。確かにお前の言う通り、わしらの感覚やと一瞬やなぁ、人との触れ合いなんぞ。でもな、その一瞬で魂が繋がることもあるんやぞ」
「魂が?なんじゃそりゃ。抽象的やな」
「お前にはまだわからんかのぉ~。ユイもまだやな……そこの若いの!お前、見えとるやろ?繋がりが。だからソラについていく決心がついただろ?」
「え?僕ですか?はっきりとはわからないんですけど、この七人と、もう一本違うところに伸びてるのはサチさんですかね?確かに切れない繋がりを感じてます」
「詩歌!お前は?」
おいおい天さんよ。
「シカ、わかる」
「天さん、天さん!この子こう見えて次期女神さんよ。呼び捨てはバチ当たるって」
と小声で注意する。
「ははははは、そうかそうか。悪かった。シカちゃんでいいか?」
「い、いえ、シカで、お願い……します」
「天さん、無礼のないようにね!まだ五歳だけどうちでは一番年上なんだから」
「わかった、わかった。気を付ける」
「で、パパ、ソラからお願いが……」
「あ、あっちでの戸籍のことやな?任せとけ。わしが不備無くやっとく」
「なんでわかってんだよ!ちゃんと頼もうと思ったのに。ユイが伝えたんか?」
「知らないわよ。勝手にどっかで聞いてたんじゃない?」
「天さん怖いわ」
「というわけで、お前らが今欲しい物を用意して来ました!サトちゃんはノートとフリクションの替え芯。リーちゃんは豚毛のヘアブラシ」
「え?なんでわかったんですか?」
リーちゃん、髪の毛気にしてたもんな。
「神だもの、はっはっは」
「あと、ソラとウミには豪華オードブル!」
「うぉおおお!久々の油物!やったぜ、ウミ」
「ううううう……」
涙流してるやん。
「お前、泣くほどか?」
「フライもん見たの久しぶり過ぎて……」
「これどこで食べるよ?」
「これ四万十川でしょ?せっかくだから川べりで食べようよ!」
「キャンプ禁止って書いてないか?」
「書いてるわけがない」
「ほな、ここにテント張って晩飯にしよう!」
「ソラさん、水が透明ですよ、ここ」
サトちゃん、既に膝まで浸かってるぞ。
「そりゃぁなぁ、水が綺麗で有名な川やから」
「泳いでいいですか?」
「ダメッ!川は危ないから」
「サチちゃんに助けてもらいますから」
「なんで溺れる前提!」
「アオ、テント頼む。俺、かまど作ってお湯沸かしたり、食べ物温める」
「ソラ君、僕は?」
「ウミは水汲んで来て。多分そのまま飲めるけど、一応煮沸消毒しよか」
「私、何か作りましょうか?」
リーちゃん、気が利く。
「じゃあお米炊いて。オードブルにご飯って最高」
「シカは?」
「お汁に入れるなんか葉っぱ取って来て。食べられるやつ」
「あと、さぼってるやつおるかぁ~?」
「私は何をすればいい?」
「ユイはみそ汁!作れるか?」
「バカにしないでよね!」
と腕まくりするユイ。しかし天さんが後ろでつきっきりで指示を出していたのだった。
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「テント張れた!焚火もある!ご飯もみそ汁もオードブルも」
「きゃんぷ!」
確かに、キャンプやな。
辺りもすっかり暗くなり、空を見上げると満天の星が出ている。
「さあ、って時に実は上流に夕立が降っていて、いきなり鉄砲水が来たりして……」
「ソラ、フラグ立てない!」
いや、さすがにそれはないやろ。
「ソラ、一応こんなこともあろうかと酒持って来たけど飲む?」
天さん、何持ってきてるんや。
「いらん!サトちゃん、天さんの相手して」
「は~い!」
と天さんの横に行く。あ、なんかもうスナックのお姉ちゃんにしか見えん。
「俺らはお茶でええか」
「あ、一応コーラとメロンソーダ持って来たけど飲む?」
「飲む!天さん、神!」
「そう、神や!」
そんな感じで僕らは久々のエビフライやらローストビーフを堪能したのだった。普段なら食べないスパゲッティも美味しくいただいた。
「シカちゃん!メロンソーダばっかり飲まない!夜中トイレ行くことになるよ!」
「シカ、神様だから、行かない」
そんなん言う女子ばっかりやん。
「アオ、美味いか?」
「……あっち行ったらこれ食べられるんですか?」
「ん?もっと美味しいのいっぱいあるぞ」
「ソラさん!一生ついていきます!」
「アオ君がついていくならわたしもぉ~~」
サトちゃんがダメな人になってる。
「ソラ、みんなの戸籍作るとき、ついでに婚姻届も出しとく?」
天さん、酔ってるな。
「出さん!」
「なんでじゃ!」
「うちのおかんがユイのウェディングドレス作る約束してるから、それ着た後じゃないといかん」
「!!」
「待て待て……どうした」
ユイが思いっきり抱きついてきた。
「そういうのはパパのいない所でしてくれんかな?ソラ」
「いや、これ俺悪く無いやろ?」
「ソラさんが悪いれすぅ~」
「ソラ君のせいだね」
「ソラさん、困ります」
「なにがダメなんですか?」
「シカも~」
「天さん!ユイに酒飲ましたろ!」
「飲ませてないよ~。未成年やろ?一応」
「飲んでないわよ」
「じゃあ、離れろ」
「いや」
「そう。じゃあこのままで」
「!!」
顔を真っ赤にして自分から離れるユイ。なんじゃそれ。
「なんか楽しそうでいいですねぇ~。アオ君こっち来てぇ~」
「え?イヤです」
そんなことを言ってる間に僕とユイの間にシカちゃんが座った。もう眠そうやな。
「今日は天さんも来てるし、このままみんなテントで雑魚寝しようか!サチ!お前のごちそうはそこの天狗の煩悩や。死ぬほど吸うてまともにしてやれ」
「ワン!」
サチが天さんの足に噛みつくと、
「ああ~なんか~力がぁああ~」
天さん、あんたの力の源は煩悩なんかい!
そんなこんなで夜は更けていったのだった。
*(114話へ続く)*




