111話 ほんまもん
「ウミ、本尊雨ざらしやけどええんかな?」
「いいか悪いかと言えばよろしくはないと思うけど、一本さんが彫った石仏だからね。大丈夫だと思うよ。魂も入ったと思うし、あそこら一帯がパワースポット化してる気がするから、多分人が集まるようになって、必要と思えば雨風を避けられるようにしてくれると思う。信仰心ってそういうもんだと思う。やれって言われてやるもんじゃないし、僕らが屋根を付けてもずっと面倒見られないしね。地元の人が風雨に晒されてかわいそうと思えば、やってくれるよ」
「まあ、そうやの。今までとやる事は変わらんな。一本さんが来てくれたから、今後は仏像も彫れるし。ところでウミ君よ」
「なに?」
「パワースポットってなんぞ。君、スピなの?」
「なによスピって」
「スピリチュアル信じちゃう系かって」
「出た、ソラ君のスピリチュアル嫌い。変な地雷踏んじゃった」
「踏んだわね」
「ふふふ」
サトちゃん喜んでるな?
「そもそもや、パワーストーンだぁ?石に力がある?月の光で浄化やと?なんぞそれ。石は石じゃ!墓石にする御影石も床に使うとこあるぞ!あれ滑るから危険やっちゅうねん。適材適所って言葉があるやろうがい!」
「墓石の話してないじゃない」
「例え話じゃ。石は石!力なんぞあったら無闇に地面歩けへんやんけ。そんなパワーがあるなら人間が割ってええんか?削っていいんか?穴開けてペンダントにしてええんか?」
「知らないよ……」
「パワースポットもしかり!前も言ったけどマイナスイオンだぁ?湿気じゃ湿気。ひんやりしてるだぁ?気化熱って言葉、学校で習ってないんか!」
「身も蓋もないなぁ」
「でっかい木に耳を当てたら鼓動を感じる?理科で道管って習ってないんか?木が生きてるって言うならヴィーガンは何食べたらええねん。野菜切るたびマンドラゴラみたいに悲鳴上げられたら寝つき悪いぞ!」
「信じてる人もいるって事だよ。そもそも何を信じてもいいって言ってるのソラ君じゃない」
「一人でやるならええわいな。それを商売にするやつが嫌い!石ころに値段をつける。なんでもない場所を観光スポット化して金儲けする。水素水ってなんぞ!水はH2Oやろがい!何余計なもん付けてるねん!それ水か?」
「炭酸水は水に二酸化炭素まぜてるけどね。要はエセスピリチュアルで金儲けするなって事?」
「そう!陰陽師とか占い師とかホンマに力あるなら未解決事件もっと解決しろや!YouTubeでああだこうだ考察する前にさ。なんやねん、素人の考察垂れ流す意味あるんか?表に出てる情報だけでさ。チマチマせず自信あるならもっと表に出て来いと」
「表に出てくるインチキな人もいるけど」
「そういうやつらは化けの皮が剥がれて消えていくからええねん。とりあえず人を騙して金儲けすな!」
「ソラ、よくパワースポットって言葉ひとつでそんなに怒れるわね。相変わらずだけど」
「たまに吐き出さんとな。ほんまもんもおるけど、そういう人ほど表に出ん」
「本当にいるんですか?」
サトちゃん、それ聞いちゃう?
「おる!実際におったし、会ったことある!」
「ソラ君が本物って言うなんてよっぽどの人だね」
「聞きたい?めっちゃ語るで?ええ?」
「どうぞ……」
サトちゃん、メモの用意してるな。
「俺が小学生の頃、学校行くのに集団登校の班があってうちの班の二年生の男の子が行方不明になった。それも俺がちょうど修学旅行で京都に行ってるときにな。親父がPTA会長してて、その子の親から夜になっても帰って来んって連絡が入っての。慌てて警察と消防団に連絡して十九時から捜索隊結成して、海狩り、山狩りや。数人に分かれて山の中、水田の中、池、海岸と探しまくったけど見つからん。神隠しやぁ言うての」
「神隠し……ソラ君のお父さん、オカルト嫌いだよね?」
「おう、ロケットが飛ぶ時代に幽霊とかアホかって言うタイプ。でも手がかりが全くなくてな。消防団の一人が拝み屋さんに頼むかって言い出したんやと。親父はそんな暇あったら池の水抜いて底をさらえ、って、もう死んでるやろくらいのつもりでおったらしいけど」
「とんでもないお父さんだね」
「しゃーなしにPTA会長やし、消防団の人と一緒に拝み屋さんとこ行ってんて。そこって前に話した長宗我部に焼かれた寺の跡地の近くで、拝み屋さんっていうのはうちの兄貴の同級生のおばあさん」
「めっちゃ世間狭いやん」
「そもそも狭いコミュニティやからなぁ。で、そのばあさん緑内障でもう十年以上盲目なんよ。もう全く目が見えん。親父、このばあさんに何がわかるねんって思ったらしいわ」
「写真とか手がかり見せようにも見られないね」
「そう。だから生年月日と名前伝えて、学校帰ってから行方がわからんとだけ伝えたんやって。超懐疑派の親父は時計見て時間の無駄やと思ってたら、ばあさんが語り始めたそうや」
「子供はまだ生きとる」
「でももう意識はない」
「なんとか生きとるが凄い血や。血が流れとる。このままやと死ぬるぞ」
「物騒な事言うね、そのおばあさん」
「ほんで親父が、生きとるんか?どこや?どこにおるんや?って聞いたら、ばあさんは『水……水が見える』『コンクリート』『落ちたんかの』『ああ、ここは池やのうて海やな』『鉄の金具、いっぱい並んだ鉄の爪、それが腕に刺さって血が流れとる』って言われての」
「めっちゃ見えてるやん?盲目なんでしょ?」
「マジで見えてないけど、親父が言われた景色を思い浮かべたら、海沿い、コンクリート、鉄の爪。で、堤防や!漁業組合があるとこの堤防と違うか!って言うたら、消防団の人が慌てて車に戻って無線で全員に『漁協の堤防の下行けぇ~!』言うての。もう懐中電灯持って警察やら消防団、PTA総出でローラーで捜索よ。まだ見つかってないうちに、田舎やから救急車が来るのにも時間かかる。大量出血言うとったから、消防団経由で発見前に救急車待機させての。完全に拝み屋さんをみんな信用しとる」
「で、見つかったの?」
「おお、拝み屋のばあさんから情報もろて無線連絡した三十分後には救急車で病院に運ばれて緊急手術。右腕十針くらい縫うたけど生き延びたわ」
「良かったね。助かって」
「ぜ~んぶ、修学旅行終わってから聞いたわ。土産の木刀のフィルム破いてるときにの。学校終わりに堤防の上歩いてたらバランス崩して落ちた先に、マンガ漁って言う海底を掘って獲物を捕まえる漁に使う四十センチくらいの鉄の爪がズラーっと並んだ道具の上に落ちたんやと。そのうちの一本が右上腕部を貫通して、出血多量で意識を失ったらしい。かなり危なかったそうやぞ」
「腕じゃない所に刺さってたら……」
「即死やったかもな」
「あとな、そこの場所って一通り消防の人が見た後やったんやと。ざっとな。でもまさか漁具の間とは思わんかったらしく、スルーされとったんやと」
「拝み屋さんにもし行ってなかったら」
「まぁ良くて日が昇ってから漁師さんが見つけたかもしれんけど、死んどったやろうな」
「本物だね」
「おう、そのおばあさん他にも色々逸話があって、地元の人からはめっちゃ信頼されてたわ」
「それこそ御殿に住んでそうだね」
「それが、あばら家に住んでて、親父はホンマにこんなとこに住んでる人で大丈夫か思たってさ。親父は高知の人やったからよう知らんかったらしい」
「そんなに力があるのにあばら家?」
「あとで御礼に親父が行ったそうやけど……金は絶対受け取らんねん。お米一袋持って行ったそうやけど」
「数千円じゃない」
「そう、それでええって」
「儲からないね」
「ほんまもんってそんなもんよ。過分な報酬受け取らん。」
「それからお父さんはそういう系も信じるようになったの?」
「ま、世の中には不思議な事もあるもんよのぉ、ってだけ」
「頑固だね」
「おう!で、次の目的地はどの辺じゃ?」
「足摺岬!」
「ごめん、ちょっと吐き気して来たわ……」
*(112話へ続く)*




