110話 岩本寺
「アオ、怪しい場所見つけた?」
「はい!瓦礫にまみれてましたけど多分、あそこです」
指さすところを見ると確かに、そこだけ空気が違う。待てよ?ここ一ヶ所だけちゃうぞ。もっと薄い反応だけど、古い記憶のようなものが頭に流れ込んでくる。
「ソラ君!」
ガイドブックを見ていたウミが声を上げる。
「ここ岩本寺って元々はこの辺に十二の寺があったみたい。その後、火を放たれて再建されたのが岩本寺だって」
「元々あったのが焼けて、再建したのにまたこの瓦礫ってか。無念が漂ってるな……これ封印されてない所も念が滞ってるけどどうするぞ?」
「優先順位は岩本寺の解放だね。残りは……どうしようか」
「あ、ソラさん!一本だたらさんも一緒に来たんですね」
「アオ、それはそうなんやけどお前なんでわかる?」
「え?ソラさんの隣に感じているからなんですけど」
「お前、見えなんよな?」
「はい!見えません!でもメガネ借りたら見れますよ」
「かけてない時は見えんよな?」
「はい!全然見えません」
「なんでわかるん?」
「ですからソラさんの横に……」
いや、金槌やぞ今。なんで感じる?
「お前、やっぱりなんか力持ってるな?」
「バレました?実は変装の……」
「いや、それは前見た。お前、時々ほくろの位置逆の時あるけど。消したり右だったり左だったり忙しいの。あ、思い出した。ルイ!」
「はい!なんですかソラさん」
「なんなのルイって?」
「それがの、ウミ……」
そこからしょうもない雑談が三十分続いた。
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「で?無駄話は終わったの?」
とあきれ顔でユイが聞く。ごめん。
「解放するよ」
とウミ。アオも見習いとして解放の印のおさらいをする。やっぱり完璧に覚えてるな。間違いなく戦力だ。光がのぼり、清浄な空気に満たされる。サトちゃんも自然と手を合わせている。リーちゃんも小さく読経をしている。シカちゃんは僕と手を繋いで一連の作業を見ている。
「ソラよ。良かったら本尊彫るか?」
「え?一本さん、頼めるの?]
「石さえあればなんぼでもできるぞ」
キター!さっそくいいツールゲットのご利益だ。
「アオ、その辺で破壊された仏像や、灯篭……ええい!墓石でもええから持てるくらいの大きさの石取って来て。硬さは硬くても一本さんなら大丈夫」
「わかりました!すぐ拾ってきます」
と言って瓦礫をひっくり返していい感じの石を集め始めた。
「アオ君!ごめん。僕も石を探すけど、ここの本尊って不動明王・観世音菩薩・阿弥陀如来・薬師如来・地蔵菩薩で五体分いるよ」
「ウミさん、了解です!取ってきます!」
と言って走って行った。僕も探さなきゃ。
「ソラ、いい?」
「どうしたの、シカちゃん」
「寺、神社、一緒だった」
「ん?」
「神仏分離と廃仏毀釈の事かな?」
さすがウミ。
「そうか、明治の廃仏毀釈の時は仏教関連のものが色々破壊されたけど、アデヤ教は合祀されてた神社も寺も全て壊して行ったから、僕らは札所で仏教メインで解放していたけど神社の事も頭に入れとかないといけないって事か」
「もちろん今までも寺だけじゃなく、神社も祠も目に付くところは解放してきたけど、札所だと寺しか頭になかったね。春日神社は本当にたまたまシカちゃんがいたから気づいたけど」
「よし、これからは仏教だけじゃなくシカちゃんも解放の時手伝ってもらおうかな?」
「うん!シカ、詩歌になってやる!」
あ、またあの詩歌様見れるんだ?素敵。
「あ?」
ユイが睨んでる。怖い。
「ユイ、相手は神様だぞ、神様!神様にヤキモチ焼くなよ。バチ当たるぞ」
「ソラ、あなた時々忘れてるみたいだけど私も聖女よ!このままいけば未来の女神よ」
「あ、女神するん?うちのおかんの娘になるんかと思ってたけど、へ~天上界で女神するんだ?へ~」
「へ~、ユイちゃん女神様になるんだったら、ソラさんとこに私お嫁に行きますけど?」
「ダメッ!ソラのお母様にウエディングドレス予約済み!」
「ふふふ、取りませんってユイちゃん」
「ぶー」
時々子供になるな、ユイも。
「ソラ君、石、集めないと」
いや、既に優秀なうちのスタッフが集めてるって。
「ソラさ~ん!ウミさ~ん!いい感じの石集めましたよ!見てください」
おお、ずらりと並んだ綺麗な石たち。角が砕かれてたり文字を削り取られてたり容赦なく原型はわからんけど……一、二、三……え?多いな。
「アオよ、数多いけど予備か?一本さん、神がかってるから多分失敗せんぞ」
「いえ、ぴったり十二個集めましたよ~」
「十二ってか?」
「はい!五と残りの七ですっ!」
「アオ、お前……何が見えてるんや?」
「え?そこに五か所とあっちに散らばって七あるでしょ?」
「俺には見えんよ」
「え?間違ってました?おかしいなぁ~」
「合ってるよ。正確だわ」
「よかった!全部で十二ですよね?目がおかしくなったのかと思っちゃいました」
「お前は、俺やウミが見えない物も見える……正しく」
「私もわからないわ。凄いわね、アオ」
「凄いんですか?わかんないけど。本当に見えてないです。感じてるだけで~」
恐るべしやな、アオ。
「一本さん、じゃあ不動明王・観世音菩薩・阿弥陀如来・薬師如来・地蔵菩薩の本尊と残り七体も彫ってもらえます?」
「わかった。わしの覚えてる外観でいいよな?ただ形は作れても魂までは入れられんぞ。それはええんか?」
「目とかおっぱいからなんも出んかったらそれでええわ」
「チッ」
「あ?」
「なんでもないぞ」
そう言って一本さんは彫刻に取りかかった。
「仏像に魂なぁ~。昔はそんなんあったみたいやな。ま、わからんけどせっかくや。賑やかにまた全員で祈ろうか!俺も真言読むわ。お寺さんのマネやけどな」
「僕はどうしましょう?」
「アオ、お前はな、ウミとリーちゃんの読経を聞いて覚えろ。経本はこれを見て。次から一人でもできるようにな」
「わかりました!覚えます!」
「ソラ、アオのあの能力って……コピー?」
「いや、コピーした以上の力を発揮するみたいやな。あいつの見えないけど感じる能力って俺の力の上位互換やわ」
「ソラの?」
「ああ。俺、昔から変な力があっての。霊が見えるとかじゃないで。ただ田舎の道とか歩いてたり、山道歩いてると、ここ墓がある!ってわかるんや。で、上の方見ると山肌に●●家の墓って墓石が3つくらい並んでるのがホンマにある。見えないけど感じるんよな」
「その力をアオが知らない間に覚えて、磨きがかかっているのね?」
「あいつに彫刻教える?」
「なんか水じゃないものまで飛び出しそうだからやめて」
一本さんのクソみたいな仕様の上位互換、確かに見たくないな。
「ソラよ、できたぞ。こっちに置く五体とそれ以外の七体の」
「それ以外の七体ってどうやってわかったの?」
「どうって、お前、行基が作ったやつじゃろうが?そんなもん調べんでもわかろうが。わし、神やぞ?」
「一本さん、ホンマに神なんや?からかさ小僧とはレベルが違う」
「お前な、最初から神って名乗っておるじゃろうが!人から神となった時に、大元の神から人の世の事は継承しておる」
「大元の神って何よ?」
「神や仏の上のこの世界を作った神じゃ」
「その神様ってどんな格好してるの?」
「どんな?色々姿を変えられる方じゃが、ちょくちょくこの辺の山に来るときは天……」
「ソラ、そろそろ本尊の配置にかからないと日が暮れるわよ」
「ああ、そうやな。じゃあ手分けして並べていこう。その後、魂入れてみるか。一本さん、また金槌になって。今度は首じゃない所を縛るわな」
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「よし、配置終えたな?」
あらかた瓦礫を片付けた場所には五体、アオが指示する場所に七体の本尊を据えてから初の魂入れの儀式に入る。やり方なんてわからんけどな。
「俺も含めて全員で思いを込めるぞ。詩歌様もお願いします!」
うなづく詩歌様。またあの音色が聞こえて来た。
「じゃあリーちゃん、鐘の合図頼む」
ゴーンと重たい音が鳴り、低い声でウミが読経を唱える。1オクターブ高い声でリーちゃんが合わせる。詩歌様が祝詞を唱えつつ、舞を舞う。見習いソラとアオは必死でウミの読経に合わせて経文の文字を目で追いつつ読経をする。ユイは静かに祈る。詩歌様の動とユイの静。そしてテンポの良いウミとリーちゃんのハーモニー。下手糞な調子の僕とアオ。あ、サチが詩歌様の足元にまとわりついて一緒に踊っているな。全員集合か。時々シャンシャンと鈴の音が鳴り響く。雅楽の音も鳴り響き、なんかもうお祭りだな!これ。楽しんだもん勝ちだ。気づくと僕は読経をやめて合いの手を入れていた。ええんかな?これで。
「なんくるないさー」
とユイの声が耳元で聞こえた気がした。これでいいんだ、僕たちは。
*(111話へ続く)*




