109話 それぞれ
僕らは元々目指していた岩本寺に向かってまた山道を歩いている。木立の中を歩くとちょっと空気がひんやりしていて赤とんぼも飛んでらぁ。もう秋が近いのかな?
「赤とんぼも飛んでらぁ、じゃないよ!ソラ君。僕とリーちゃんが別ルート取るときなんて言ってた?先に進むって言って無かったっけ?須崎で僕らが合流する直前に、アオ君がシャチに食われかけたってサトちゃんから聞いたし、一体何してたのよ」
うっ、ウミの小言が耳に痛い。
「いや、それはね、ちょっと立ち寄った港町にゾンビみたいな霊がウロウロしててさ」
「霊がウロウロしているのはいつものことじゃない」
「それはそうだけど、怪我したりしてるのもいて異常だったのよ。ほんで聞き込みしたら鯨がぁ~ってなってさ。そしたらシャチがいて、追い出そうとしたら二頭だったという事で……」
「なるほど。全然わかんない。でもさ、春日神社にいたらコーチの殿様に頼み込んで室戸の鯨漁師さんを派遣してもらったとか、奉行さんから話を聞いて一体何をしてるんだろうと思ってたんだよ。なんで鯨漁師さん!って」
「アオの伝があって色々無理聞いてもらった」
「アオ君も本当によくわからない人だね。足が速いだけじゃない」
「まあ、あいつがいたから無事解決できたって感じ」
「なんかいい話で終わらせようとしているけど、そもそもそれって巡礼に必要な事だったのか、って話」
「お前も見たじゃん。みんな笑顔で上がっていった。シャチの事があったからやで」
「なるほどね。ものすごい時間のロスしたけど、無駄じゃなかったんだね」
「無駄どころか、またソラさんに惹かれる人が増えましたよ」
サトちゃん何を言う。
「そうなんだね。須崎の人とか泣いて感謝してたもんね、室戸の人達も」
「そうですよ。ソラ教は順調に信者を増やしていっているのでご安心ください」
「ソラ教じゃないって。毎回、小手先だけのまやかしばっかりやで。適当な祭壇に適当な祭事。見る人が見たら激怒するぞ。けしからん!無茶苦茶な宗教チャンプルーになっとるってな」
「なんくるないさー、ふふ」
ユイ、お前がそれ言う?
「ソラ君、いい?その見る人が見たらっていうのがそもそも違う。この世界にはアデヤ教しかないんだ。そのアデヤ教に弔いの教えは無い。だから僕らがやる事は誰も違うって言えないんだ。みんな知らないんだから。なので僕らがやれる形で送ればいいんだ」
「もうそれがソラ教になるんだよねぇ~」
サトちゃん面白そうに言うな。でも、俺らのやり方でいいって事か。
「ウミ、ええこと言うてくれた。これからも色々変わるかもしれんけど、結局は亡くなった人、彷徨う魂を送るって事には変わらん。アデヤさんのワンオペが終わったらどうなるかわからんけど、それができない間は俺らが送るしかないもんな。あとは上の世界でアデヤさんかキリストさんか神さんか仏さんか知らんけど、手分けしてええようにしてくれたらええ。この世界で今、弔いができるのは俺らだけなんやし、どういう形でやろうと俺らの勝手やな。今この世界で人を送るのは俺らの専売特許だな」
「ソラ教じゃなくてソラ葬祭になるのかな?ははは」
ウミめ。
「ご導師さんは自前で調達できるしな。仏教、アデヤ教、神道。遺族からしたらお布施もいらんし、ええ商売や」
「商売って事は利益の為だけど、利益上がってるの?太いスポンサーの援助だけじゃない?」
ユイが冷たく言い放つ。
「ぐっ……スポンサーって殿さんの事か?痛い所を。利益か……利益はみんなの笑顔!」
「ダサっ!」
「うん、恥ずかしいね」
「記録しておきます!」
「ソラさんってそんな感じの事を言うんですね」
「笑顔、大事」
シカちゃん……ありがとう!
「ソラ、目的はお金じゃないのよ。仏教でいうなら徳を積んでいるってとこじゃないの?」
「徳なぁ……アデヤ教の聖女に言われるとはちょっと複雑やけど。徳とか別にいらんな。人として普通やん。困っている人、霊、妖怪おったら助けるやろ?そんだけじゃ」
全員一斉に首を横に振る。ええやん、僕はそうなんだから。
「お~い、お前ら!わし置いといてなにしよるんなら!」
あ、一本さん片足で追いついて来た。ガッツあるなぁ。
「ちゃんとアデヤ像直してきた?」
「ああ、お前がうるさいからちゃんと直したわ!涙はもうでん」
「涙は?」
「せっかく作った仕掛けもったいないから、今度は胸の先から……」
あ?と言って一本さんの足を掴んで逆さまにぶら下げた。このままスイングして谷に落としてやる。
「冗談じゃ、冗談!ちゃんと外した。ほれ、ほれ」
とチューブ状の物と水を貯めておく壺のような物を慌てて懐から取り出して見せる一本さん。
「ソラ君、一応、神様だから」
とウミが取りなす。しゃーないな。
「お前、神に対して無礼にもほどがあるぞ」
「あ?」
「いや、何でもない」
「で、なんで追いついて来たん?町におったらええやん。俺らに用事あったら迎えに行くし」
「いや、ここ百年退屈しとったが、お前らに出会えて毎日あれこれ作って楽しいからの。一緒について行こうかと思って」
「え?これ以上、旅の連れ増えたら面倒やん。一本足やしそれこそ足手まといになりそうやからいらん」
「ソラさん、一本さんって作業終わって片足で追いついて来たんですよね?私たち須崎を発ってから休憩なしでここですよ」
サトちゃんが言うのももっともだな。確かに速いわ。
「ソラ君、一本さんいたら本当に助かるよ。ソロとユキさんの家、スマホで撮ったから見てみる?」
とウミが画面を見せてきた。
「すげぇ!ホンマに御殿じゃん。これをちゃちゃっと作ったの?小屋でええ言うたのに。コーチの武家屋敷より立派じゃん!しかしみんなで写真撮ったのに真ん中で一本さんがウインクしてるのムカつくな。一つ目やから単にせっかくとった集合写真で目を閉じてる残念な写真」
「ふふ、すごいじゃろ?わしの式神は木材、金物、焼き物、織物、全部おるからの。なんせ神じゃし」
「うん、便利なツールとして置いとくのもありか。一本さんって写真にも写るって事はそれなりに能力ありそうやし。ずばり変化できるやろ!」
「そりゃ神やからの。面倒じゃからこの姿でおるけど」
「ほな、旅の最中は金槌で」
「な?」
「金槌で!」
「なんで金槌に?」
「コンパクトで持ち運びしやすい。石割ったり、ちょっと釘打つ時とか便利」
「お前、神で釘打つとか正気か?」
「ほかにも色々使い道あるけど嫌なら来んでもええで」
「わかった、お前ホンマにろくでも無いヤツやの」
「さっそく悪口か?」
「誉め言葉と思え!」
「わかった、そう捉えとくわ。ほな、金槌になって。俺が運ぶ」
「ソラ君が運ぶの?僕のリュックに入るよ」
「神さん、カバンの底に入れられるかい。俺が持っとくよ」
「ソラ君のその線引き、全然わかんないよ。丁重なんだか雑なんだか」
「いつでも丁重じゃ!サトちゃんその紐ちょっと頂戴」
「え?手首に巻いてるパラコードですか?」
「そうそうちょっとだけでええから」
サトちゃんがゆめタウンの手芸屋で買って編み込んでブレスレットにしていた紐を少し切ってもらい、一本さんが変化した金槌に括り付けてリュックの横にぶら下げた。
「やっぱり僕にはソラ君の線引きわかんないわ」
ええねん、カバンの底にしまうより、空気に触れて、太陽を浴びて、みんなと一緒に旅するにはこっちの方が一本さんも楽しいやろ。
「よっしゃ!もうすぐ岩本寺やな。今度こそサクッと終わらすぞ!アオが確認してくれてるやろうし!」
「の……喉が締まる……」
あ、紐でしばったとこ首やったんか?もっと考えて変化せんといかんな、一本さん。
*(110話へ続く)*




