102話 different(違う)
「ありゃ?足の調子がおかしいの。えらい足が軽く感じる。杖無しでも歩けるがぞ??」
あ、ユイの祈りが効いとる。
「ヒールか?」
魔法なの?あの何でも治せるやつなの?僕の嫌いなやつ。
「そんな便利な魔法があったら、世界中怪我人、病人がいるわけないでしょ」
バッサリや。まぁ同感。
「どうやったんですか?」
とサトちゃんが小声でユイに聞く。
「祈ってなんとか痛みを少し楽にできるかどうかって程度のものよ。何でもかんでも治せて、死にかけた人も救えるならそこらじゅう人口が増えまくっていきなり食糧難になるわよ」
ん~リアル。ファンタジーとは程遠いなぁ。でもなんらかの力は使えてるもんなあ、ユイもアデヤさんも。ま、そんな力を人が使ってええもんじゃないわな。
「何より、あの杖が危ないでしょ?身を助けるはずのものが人を傷つけるもんになっちゃダメだし」
「そりゃそうだ。武器にしちゃいかんよな」
念の為に取り上げておくか、気が短そうやし。
「おんちゃん、それ預かるわ。歩けるんのやったら逆に今は邪魔やろ?」
「おお、すまんな。え~と……」
「ソラです、ソラ」
「おんしソラ言うんか?うちの孫の上の方は、リク言うんじゃ。リクとソラか面白いのぉ」
「え?リク?それって……ぷぷぷ」
サトちゃん笑っとるな。
「まさかの須崎に陸・海・空勢が勢揃いね、フフフ」
「まだウミが来てないから揃ってない!」
「おう、ソラよ、ここじゃ。ここが娘の家じゃ。娘はもうとっくにモキチの死からは立ち直っとるが、その孫たちがのぉ……」
「ありがとうございます。ちょっとお孫さんの様子に気をつけときますね」
そういって玄関前でおじさんと別れた。
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「こんにちは~」
開いた玄関から中に向かって声をかける。
「はいはい、どなたですろうか?」
と女性の声がする。
「お父さんにここまで連れてきてもらったんです。ちょっとコーチの殿様の使いで」
嘘も方便!
「え?お殿様の?なんですろうか?」
と中から女性が出てきた。サトちゃんよりちょっと年上かな。その後ろから6歳くらいの子と3歳くらいの子が出てきた。
「あら、かわいい子ね。こんにちは?お元気?」
と、ユイが声を掛ける。聖女モード全開で好感度MAX。知らない人が見たらこれが信じちゃうぞ、とか思ったら振り返ってものすごい顔で睨まれた。このビジネス聖女め。
「すみませんね、ちょっとお話を聞かせてもらいたくてきました。鯨の件です」
「鯨の、ですか?私はもう思い出したくないですけんど……」
と言って子供らを振り返るお母さん。
「おんちゃん、誰?」
おんちゃんと来たか……クソ。まあ生きてたら父ちゃんと大差ないか。
「おんちゃんか?おんちゃんはな、コーチのお殿様に言われて来たんじゃ。お前らなんぞ辛いことあったらおんちゃんに全部話せ」
「おんちゃんって……プッ」
こら!サトちゃん、そこ笑うとこちゃう!
「おんちゃんが話聞いてくれるがか?じゃあ母ちゃんおらんとこで喋るちあ」
母ちゃんがおらんとこ?なんでや?
「わかった、どこ行けばええ?」
「人が多いとこがええ」
ん?
「わかった、ほな大通りの茶屋行くぞ。何でも食わしてやる。奥さん、ちょっとお子さんお借りしますね」
「茶屋へ?皆さん本当にうちの父とお知り合いなんですね?夕飯までには子供らあ連れ帰ってくれますろうか?」
「ええ、ご心配なく。もしお疑いでしたらお父さんに『聖女とソラが子供ら連れて行った』と言ってくれたら伝わりますから」
「え?聖女様ですか?この方が」
とユイを見る。おお、満面のビジネススマイル。完璧だ。
「はい、私が聖女ユイです。ご安心ください」
と手を取る。あ~あ、お母さん涙流してるやん。やり過ぎや。
「で……ではお子さんお預かりしますね」
そう言って子どもの手を取って歩こうとすると、僕の手を振り払ってユイの手を握りやがる。下の子はサトちゃんってか。
「おい、坊主!お前がリクやな?」
「おんちゃん、わしの名前知っとるんか?じいちゃんの知り合いっていうのはホンマみたいやな」
「急に態度変わったの。お母ちゃんの前ではいい子のフリか?気に入った!」
「ええ子にしちょらんと母ちゃん心配するからのう。はよう茶屋行こう。怖い」
「怖いって、何がや?」
「ええから、早う!」
と、ユイの手を引いてぐんぐん先に行く。ユイがさらわれてるみたいやん。とりあえずさっさと茶屋に入るか。
「俺、お茶で。坊主は?」
「団子!」
「団子!」
「団子二兄弟か」
冷たい目でこっちを見るユイ。
「なにそれ?」
食いつくガキ二人。
「独り言」
「それであなたたち、怖いって言ってたわね?何が怖いの?おじいちゃん?お母さん?それとも鯨?」
首を振る二人。
「何が怖いんだ?雷さんとかか?」
「雷なんぞ怖ないわ!男やぞ」
「ほんだら何が怖いんや?」
「と……父ちゃん」
父ちゃんやと?まさかこいつら。
「父ちゃん?お前らの父ちゃんか?鯨に殺されたって聞いたけど」
「父ちゃんが、来るがじゃ。毎日わしらの所に」
「なんでや。じいちゃんはもうとっくに生まれ変わってる言うてたぞ」
リトマス試験紙。
「そうよ、アデヤ教徒は亡くなったとしても、すぐに生まれ変わるのよ」
ユイが僕の意図を察して試薬追加。
「聖女様……そうなんです。そうなんですけど父ちゃんが……怪我をした父ちゃんが毎日家に来るんです。『違う、違うんじゃ』言うて……わしら、何が違うかわからんがじゃ」
パターン赤です!酸性です!ビンゴだわ。こいつら見えてるな。
「よし、お前らの言う事全面的に信じた。お前らの言うことは本当だ」
「え、おんちゃん。信じるんか?」
「あ?おう。お前らはウソを言うとらん」
「なんでわかるんじゃ。おんちゃんの言う事をわしら信じられん」
「お前の父ちゃんのモキチさんって、右腕折れてブラブラしてるな?」
「えっ!?なんで?」
「頭を怪我して血を流したままやろ?」
「えっ?えっ?おんちゃん何者なんや?なんでわしらが見えてるもんが見えるが?」
「うわーん」
あ、下の子泣き出した。
「おい、リクよ」
「わしの名前知っちゅうがか?」
「お前の父ちゃんから聞いたわ」
嘘も方便……何回目かな。まあええやろ。神様も許してくれるはず!あ、ユイが頷いてる。許可ゲット。
「信じたか?俺はな、死んでる人が見える」
「そうじゃったがか……凄いのぉ。母ちゃんは見えんのに」
「ところでお前ら、他は見えんのか?父ちゃんだけ見えるんか?」
「ほうじゃ。父ちゃんが家に来た時だけ見えるがじゃ」
ん~茶屋の外を見ると……ぎょうさんいてはるけどなぁ。
「リク、外見てみ?何が見える?」
「ん?向こうの飯屋と魚屋と……服屋とか?あと歩いてる人」
「そうかそうか。怪我した人とかは見えんか?」
「怪我人とかどこもおらんが、なんかおるんか?」
「いやおらんけど」
こいつら父親だけ見えるんやな。この大量の霊が見えてないってことは幸せやな。
「私は今のところ見えていません!」
サトちゃんは見えるときと見えん時があるからな。僕はもう最近は眼鏡なしでも見えちゃう。最初はウミやユイの近くにいるからかと思ったけど、なんか天さんの影響がある気がしてきたぞ。
「ドキッ!」
おい、ユイ、お前自分でドキって言うとるな?理由隠してるなぁ。
「と、とりあえずあなたたち二人がお父さんの姿を見ているのはわかったわ。きっと見えないようにお姉さんが約束するわね」
「聖女様……」
あ、リクのやつ憧れの目でユイを見てるな。そんな目で見つめてもユイはやらんからな。チラっとユイがこっち見て「フフフ」って、喜ぶな、ユイ。
「次はドレスですね、ソラさん」
このタイミングでなんなの、サトちゃん。ライバル登場とか思ってないからな、さすがに。
「しかしモキチさんの『違う』ってのはなんなんかな?リク、わからんの?」
「全くわからん。違う、しか言わんがよ」
「ず~っと言ってるんですよね?亡くなってから……。何か亡くなる前から思ってた事と違うから、それを伝えたくてリク君たちの前に現れて来てるんですかね」
「喋れる霊もいるけど、モキチさんはそうじゃない感じやったよなぁ」
「根拠はないですけど、ソラさんたちと旅をしていて感じたんです。アデヤ教の教えが広まる前の、仏教の時代の霊は比較的会話ができる気がします。でもアデヤ教徒で亡くなった方は、死がわかっていない人が多い気がします。転生できてないから生きていると思っているような……」
「あ、サトちゃんちょっとそれ鋭い観察眼かも」
「そうですか~?照れるなぁ」
「いや、俺も根拠は無いけど」
「リク、お前の言うことは全部信じた。信じた上で言う、母ちゃんには言うな」
「おんちゃん、言われんでもわかっとるが。そんな考えなしに喋らんがぞ」
「ふふふ、大人ね、この子たち」
「あ、そうね」
可愛くないなぁ~。そのくせじいちゃんには元気ないのバレとるし。
「出てくるのが実の父ちゃんでも怖いんか?」
「父ちゃんでも誰でも腕が折れてよそむいてて、頭から血ぃ流してたら誰でも怖いやろ?アホなんか、おんちゃん」
「キィイイイイイ!」
「ソラさん、子供の言うことですからね」
「けっ、ガキども!それ食ったら家に連れて帰るぞ。父ちゃんはなんとかしてやるから安心せい」
「うん、おんちゃん、団子二兄弟一緒に帰るわ、ププ」
まだ覚えとったんか。うん、こいつら全然可愛くない。
*(103話へ続く)*




