99話 確認
「こんにちは~」
僕達は須崎の町の中でも北に位置するアデヤ教の教会を訪れた。海に近いエリアは漁師さんの小屋が多いけど、町の北側は商店が目立つな。さすがにここの教会はサトちゃんの実家近くの教会と違って、ちゃんと門は開いていてちょっと安心。でもやっぱりここにたくさん霊は集まってるなぁ。アデヤ教に改宗して以来の自然死や事故死の例も普通にいるけど、やはり目を引くのは漁師姿の霊たちだ。
「はい、よくお越しいただきました。礼拝ですか?ご遠慮なさらずどうぞ奥のアデヤ様の像までお進みください」
言われるがままに、僕とユイとサトちゃんは中に入る。司祭さんが若干眉をひそめたのはサトちゃんのへそ出しルックのせいやな。やはりまだこの世界では早いみたいだ。
「サトちゃん、サトちゃん。移動中はさておき、町に入ったらなんか上に羽織るもんとか持ってたほうが良くない?」
「大丈夫ですよ。夏ですし涼しくていいです。虫刺されもオニヤンマの御守りで大丈夫です!」
いや、お腹が冷えるの心配してないのよ。
「変な形で日焼けとかしたらイヤじゃない?お腹に腹巻きみたいに黒い日焼けがつくよ。服を脱いだ時恥ずかしいよ~」
「人前で脱がないから大丈夫ですよ」
そりゃそうか。
「サトちゃん、今度あっちの世界に行った時にいいもの買ってきてあげるわ。なんと上に着ると逆に涼しくなるの。日焼けもせず、肌に触れるとひんやりするのよ」
「え?そんなのあるんですか!欲しい、欲しい。それあったら羽織ります!」
さすがユイ。しかしお前のノースリーブもいい顔してなかったぞ、司祭さん。
「あ、教会色々行きましたけどここのアデヤさんの像はちょっと違いますね」
シンプルな年季の入った木の彫像なんだけど魂が入っているというかなんというか。
「素晴らしいですね。目の形とか鼻の形とか生きてるみたいです!」
とサトちゃんは言いながらユイと見比べている。なるほど、ユイに似てるな。さすが母娘。
「わ、わかりますか!このアデヤ様像の素晴らしさ!いわくつきの像なんです。もともとは教会から支給された大理石の像だったんですが」
「もともとは量産型の像だったんですね」
「量産型とはちょっと言葉が悪いですが、まぁ他の教会と同じ物でした。ところがです!数十年前の話らしいんですが、私の先々代の司祭の頃に商人がこの像を持ち込んだと言うのです」
「商人が持ち込んだ?すごい彫刻の才能ですね、その人」
「それが違うんです。その商人が商いのためにアーワの国からコーチに来る時に、土砂崩れで山の街道が通れなくなっていたそうで。困った商人はその道をさけて、獣道に分け入ってしまい道に迷ったと言うんです。どうやっても元の道に戻れないと思ったときに怪異に出会ったと言うんですね。昔の妖怪の伝承に出て来るからかさ小僧!そいつが現れて話しかけて来たそうなんです。『暇しとるんじゃ、なにか作らせろ』と。からかさ小僧はなにやら手に道具を持ってたようで、怖いやら心細いやらで商人は心の中で女神アデヤさんに祈ったそうです」
「からかさ小僧?」
サトちゃんが首を傾げる。
「傘の胴体に1つ目、一本足の妖怪や。ぴょんぴょん跳ねて人をびっくりさせるやつ」
「なにか既視感があるわね……」
「その商人が心の中で祈るとからかさ小僧は『相解った!』と言って、どこからか榧の木を取り出して、ノミと金槌でカンカン削り出してあっという間にこの大きなアデヤ様の像を彫り上げたそうです。出来上がった像を商人に背負わせると、『道は式神に言うて直しておいたぞ。まっすぐ上がれば元の道じゃ、カッカッカ』と笑って消えたそうです。この像はからかさ小僧という妖怪が作った像ということで、霊験あらたかと伝わっています」
「ソラさん、それって一本だたらさんの事ですよね?」
「まあ間違えても仕方ないけどなぁ。片目片足ってもうほとんど同じやしなぁ。聞いたら怒るやろうな、『我は神ぞ!』って」
「訂正してあげますか?」
「まあええんちゃう?おもろいやん、妖怪が作った女神像ってのも」
「でも本当に見事ね、あの人の仕事」
「おう、ほんまもんの神業やな、これは。ええもん見れたわ。ソロとユキさんの家も、シカちゃんの神社も絶対間違いないもん作ってくれるな、あの神様」
「本当に、世間は狭いと言うか色んなところで繋がりますね。アオ君の網元さんの話もですけど」
「まあなぁ、運命は信じん。でも自分がやってきたことってのは自分に返ってくるもんよな。あ、ユイ、司祭さんに自己紹介しとけよ、これからきちんと聞きたいから」
「そうね。きちんと筋は通しておかないとダメね。司祭様、お聞き及びかもしれませんが、私、アデヤ教の聖女ユイと申します。突然お邪魔して申し訳ございません」
「聖女様……お待ちしておりました」
「え?なんでなんで?」
思わず横から口を出してしまった。
「聖女様がコーチを出て数名で旅をしていると随分前に教会本部から触れが出ておりました。立ち寄られた際は失礼の無いように応対せよとの達しです。聖女様とソラ様ですね?皆さんを須崎のアデヤ教教会をあげて歓迎いたします」
あれ?なんか調子狂うな。好意的に受け入れられる事無いもんな。僕の名前も割れちゃってる。僕も有名人?いやいや、あだ名隠密さんみたいにはなりたくないな。
「司祭さん、失礼ですけどあなたは見える人ですか?」
単刀直入に聞く。
「と申しますと?」
「霊です」
「別に本部に報告したりしないから、正直に言ってくれたらいいです」
ユイが促す。
「わかりました。見えます!申し訳ございません。司祭という役職に身を置きながらお恥ずかしい」
「司祭さん、今まで苦しかったでしょう?そして今も」
「なぜお分かりになったのですか、私の苦しみを……」
と言い下を俯いて黙ってしまった。
「無理ないですよ。アデヤ教にとっては霊は存在したらダメな存在ですから。なのに見えてしまっている。教義に反しているのにあなたは見えてしまう。実は、さっきここに通してくれたときに、苦しそうに片腕が折れて頭から血を流している漁師の姿をした霊がいたでしょ?僕らの後に入ってきた。司祭さんそれを見て辛そうに目を逸らしたのに気づいたんです」
「ああ……あなたも見えていたのですか?そうです、あの方は浜の近くに住んでいた漁師のモキチさんという方です。信心深い方でほぼ毎日ここに祈りに来てくれていました。子煩悩で二人のお子さんをとても可愛がっていたのです。それが2年前の鯨を追い払う漁に参加されて、乗っていた舟を叩き壊され……。それからも生前同様ここに毎日来られるのです。来てはそのアデヤ様の像にすがるように祈ってらっしゃいますが、何もできません。2年間毎日です。親しくしていた方が苦しげに毎日来ては祈っているのです。血まみれで」
「辛かったね、司祭さん。安心しな。僕もいつの間にか見れるようになったし、聖女ユイも見れる。僕らの仲間の二人も見えます」
「こんな不幸な力を持つ人がそんなに集まるなんて……そんな奇跡が?」
「あのね、司祭さん。そのモキチさんだっけ?それ以外にもたくさんいるよね?怪我だらけの漁師さん。普通に亡くなった町の人も。僕らはその人……霊たちを天に返します。アデヤ教で認めていないので、アデヤさん黙認で僕らは仏式で弔う旅をしています」
「ええ、コーチで盛大な葬送の儀を執り行った話も聞いています。御殿様も一緒に参加されたとも。実は私はあなた方が来るのを心待ちにしておりました。どうか、どうかこの町の可哀想な霊たちを送ってあげてください。教義に反する言動をしている私は処分されるでしょうか?でもそれでも私は、私はこの霊たちを救いたい!」
「司祭さん、さっきも言ったけどアデヤさん黙認だって。いや、ある意味感謝してくれていると思うよ。なあ、ユイ」
「ええ、否定はしないわ。私も仲間だしね、フフフ」
「司祭さん、どこまで伝わってるか知らないけど、この聖女はアデヤさんの実の娘だからね。そして代々真言宗を信じている僕の許嫁です」
「あ~ソラさん自分で言っちゃった~。ウミさんいたら面白かったのにぃ」
サトちゃん?ここは司祭さんの負担を減らそうとしてだねぇ~わかってよ。
「司祭様、お聞きのとおりです。私とソラは許嫁。その二人が霊を見れてその霊の弔いをしている。だからあなたが霊が見えることに罪悪感を感じることなんてこれっぽっちもないの。女神アデヤの娘、聖女ユイとその許嫁が霊の存在を認めている!だからなんの問題もないわ」
「聖女様……ソラ様……」
司祭さんずっと辛かったやろな。苦しそうな知人に何もしてあげられんと。アデヤ教徒なら弔いの仕方もわからんしな。
「司祭様」
「はい、聖女様」
「ありがとう、フフ」
「え?なんのお礼ですか?」
「内緒です」
「ユイちゃん、ソラさんが許嫁って他の人に宣言したのがうれしいんでしょ」
「シィ~!」
なんぞそれ。一体何の確認に来たんだか。
*(100話へ続く)*




