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星屑シネマの七番スクリーン  作者: パラレルワールドの住人


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7/13

星屑のシネマ ― 再生ボタンを押した夜

今回は、継続している人のほんの少しの変化というものをご覧ください。

仕事帰りの夜。


ネクタイをゆるめ、コンビニの袋をぶら下げながら歩く。


田中慎也、32歳。サラリーマン。


特別な失敗もない。

特別な成功もない。


ただ、同じような毎日を繰り返している。


「……このまま、終わるのかな」


ふと、そんなことを考える。


そのとき、空を見上げる。


雨なのに星が、やけに多い。


視線を戻すと、見慣れない建物があった。


「星屑のシネマ」


なんとなく、中へ入る。


館内の天井には、小さな光が無数に散っている。


まるで夜空の中にいるみたいだった。


支配人が、静かにチケットを差し出す。


『あなたが、始めた人生』


「……何をだよ」


小さく笑いながら席に座る。


上映が始まる。


映し出されたのは、自分の部屋。


見慣れたワンルーム。


だが——


机の上に、見慣れないものがある。


スマホスタンド。

安いマイク。

リングライト。


“もう一人の自分”が、カメラの前に座っている。


「どうも、田中です」


ぎこちない声。


少し照れた笑い。


動画配信。


「……は?」


再生数は、数十回。


コメントもほとんどない。


「誰も見てねえじゃん」


思わず呟く。


だが、“向こうの自分”は続ける。


次の日も。

その次の日も。


仕事から帰って、撮って、上げる。


疲れていても。

誰にも見られていなくても。


続ける。


時間が進む。


少しずつ、再生数が増える。


100回。

300回。

1000回。


コメントがつく。


「なんか好き」

「地味に面白い」


“向こうの自分”が、そのコメントを何度も読み返す。


その顔が、少しだけ変わる。


さらに時間が進む。


劇的なバズはない。


有名にもならない。


でも——


気づけば、待ってくれている人がいる。


仕事帰り、急いで帰る。


誰かが待っているから。


カメラの前で話す。


最初より、少し自然に。


「今日も一日、お疲れさまでした」


その言葉に、コメントが流れる。


「自分も頑張る」

「なんか元気出た」


田中は、息を止める。


“ただの自分”の言葉が、誰かに届いている。


映像はさらに進む。


会社は、辞めていない。


相変わらずサラリーマンのまま。


でも——


夜の時間だけが、違う。


「……楽しそうだな」


ぽつりと漏れる。


上映が終わる。


館内の星が、少しだけ強く瞬く。


支配人が言う。


「特別な才能は、ありません」


「……だろうな」


「ですが、“続けた”という事実があります」


沈黙。


田中は、何も言えない。


外に出ると、夜空が広がっている。


ポケットからスマホを取り出す。


何も変わらないホーム画面。


カメラアプリ。


動画アプリ。


指が、少しだけ動く。


「……今さらな」


小さく笑う。


でも、さっきの光景が頭から離れない。


再生数の数字。

コメントの一言。

「今日もお疲れさま」という声。


田中は、空を見上げる。


星が、ひとつ流れる。


願うこともできる。


やらない理由を並べることもできる。


しばらくして——


スマホを、ゆっくりと持ち直す。


画面が、こちらを映す。


疲れた顔の、自分。


「……どうも」


そこまで言って、止まる。


苦笑する。


「いや……やっぱ無理か」


そう言って、スマホを下ろす。


少しだけ間。


もう一度、持ち上げる。


今度は、さっきよりほんの少しだけ、真っ直ぐ見る。


「……どうも、田中です」


録画が始まっているのか、いないのか。


その夜、誰にも分からなかった。


ただ、星だけが静かに瞬いていた。


星屑のシネマは、またどこかで現れる。


“何も始めなかった人生”と、

“始めてしまった人生”の、ほんのわずかな違いを映すために。

継続とは、お金以上の物をもしかしたら与えてくれる物なのかもしれませんね。

まぁ、私も継続を続けるよりすぐ投げ出したくなる人間なんですけどね(笑)

今夜は、あなたの前に星屑のシネマは現れるかもしれません。

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