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星屑シネマの七番スクリーン  作者: パラレルワールドの住人


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5/12

星屑のシネマ ― 夢を置いてきた夜

この度は足元が悪い中ご来館ありがとうございます。


本日上映されるのは、皆様にももしかしたら思うところがあるかもしれません。

雨の降る夜だけ、路地裏に現れる映画館がある。


古びた赤レンガの壁。


金色の文字で、かすれながらも確かにこう書かれている。




星屑シネマ




都内のどこにあるのか、地図には載っていない。


けれど、人生で一度だけ「別の選択をした自分」を強く思い浮かべた人の前に、その映画館はひっそり姿を見せるのだという。


三浦航平、29歳。


かつて、夢を追っていた。


音楽で食っていく。

そう決めて、何年もバイトと練習を繰り返した。


ライブハウス、小さな拍手、わずかな期待。


だが——


何も変わらなかった。


気づけば、仲間はやめていった。


年齢だけが進んだ。


「……もう無理だろ」


そう言って、ギターをケースにしまったのが半年前。


今は、ただの会社員。


その帰り道。


ふと、見慣れない建物に気づく。


「星屑のシネマ」


なぜか、懐かしい感じがした。


中に入ると、天井に無数の光。


まるで夜空の中にいるみたいだった。


支配人が、静かにチケットを渡す。


『あなたが、夢を追わなかった人生』


三浦は、少しだけ笑う。


「……そっちの方が、マシだったかもな」


席に座る。


上映が始まる。


映し出されたのは、若い頃の自分。


だが、違う。


音楽をやっていない。


専門学校を出て、そのまま就職。


まっすぐ働き続けている。


「……へえ」


ライブハウスもない。

徹夜の練習もない。

焦りも、期待もない。


その代わりにあるのは——


安定した生活。


決まった給料。


少しずつ積み上がる日常。


同僚と飲みに行く。

くだらない話で笑う。

週末は、なんとなく出かける。


派手さはない。


でも、壊れてもいない。


三浦は、黙って見続ける。


さらに時間が進む。


恋人ができる。


特別な出会いじゃない。


それでも、一緒に過ごす時間は穏やかだった。


ある夜。


ベランダで、空を見上げる“もう一人の自分”。


ぽつりと呟く。


「なんか……これでよかったのかな」


三浦の胸が、少しだけざわつく。


“そっち側”でも、迷っている。


映像は続く。


年を重ねた自分。


大きな成功はない。


でも、大きな後悔もない。


その顔は——


少しだけ、物足りなさを抱えながらも、穏やかだった。


上映が終わる。


館内の星が、静かに瞬く。


三浦は、しばらく動けなかった。


「……どっちも、微妙だな」


苦笑する。


夢を追った人生。


夢を追わなかった人生。


どちらも、完璧じゃない。


支配人が静かに言う。


「彼は、“あなたの夜”を知りません」


「……夜?」


「眠れない夜。焦り。期待。挫折」


三浦は、視線を落とす。


確かに、それは自分だけのものだった。


「ですが——」


支配人は続ける。


「あなたは、“彼の静かな夜”を知りません」


何も起こらない夜。


何も失わない代わりに、何も掴まない夜。


三浦は、何も言えない。


外に出ると、夜空は変わらず綺麗だった。


ポケットに手を入れる。


指先に、固い感触。


ギターのピック。


いつの間にか、持っていた。


しばらく見つめる。


「……今さらな」


小さく笑う。


空を見上げる。


星が、ひとつ流れる。


願うこともできる。


願わないこともできる。


三浦は、ピックを握りしめる。


そして、歩き出す。


家に帰るのか。


どこか別の場所に向かうのか。


その足取りは、いつもと同じようで、

ほんの少しだけ違っているようにも見えた。


星屑のシネマは、またどこかで現れる。


夢を追った人間と、

夢を追わなかった人間。


その“どちらでもない今”に立つ誰かのために。

最後まで見ていただきありがとうございました。

この人生はいかがでしたでしょうか。

またよろしければ皆様の見てみたい人生をいつか聞いてみたいものです。

またのお越しをお待ちしております。

星屑のシネマ支配人より

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