表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星屑シネマの七番スクリーン  作者: パラレルワールドの住人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/13

星屑シネマ ― 拍手の亡霊

さあ、本日も当館にお越しいただきありがとうございます。

本日はパラレルワールドをみることで良いことだけが起こるとは限らないとだけ言っておきましょう。


雨の夜、その映画館は現れる。


元・舞台俳優、神崎遼は、濡れたアスファルトの上をふらつくように歩いていた。


酒の匂いをまとい、安いコートのポケットに手を突っ込む。


かつて、光の中心にいた男。


今は、名前を呼ばれることもない。


「……くそ」


誰に向けたのかもわからない悪態を吐く。


そのとき、視界の端にネオンが滲んだ。


「星屑シネマ」


中に入ると、異様な静けさ。


支配人が、いつものようにチケットを差し出す。


『あなたが、夢を叶え続けた人生』


神崎は鼻で笑う。


「そんなもん、あるわけねえだろ」


だが、席に座る。


上映が始まる。


スクリーンに映ったのは——


再びスポットライトの中心に立つ自分。


だが、違う。


前よりも大きい舞台。

前よりも多い観客。

前よりも長く続く拍手。


成功が、途切れない。


主演を張り続け、評価され続け、落ちることがない人生。


次のシーン。


テレビ出演。映画主演。海外公演。


名前は広がり続ける。


誰もが知る存在。


「……なんだよ、それ」


神崎の声がかすれる。


さらに進む。


年を取ってもなお、主役であり続ける自分。


若手に席を譲ることもなく、常に中心にいる。


衰えすら、演技でねじ伏せているような姿。


観客は、ずっと拍手を送り続ける。


神崎は、前のめりになる。


目を離せない。


「……俺は、なんでこっちじゃなかった」


喉の奥から、ひび割れた声が漏れる。


だが——


映像はそこで終わらない。


あるシーン。


舞台の裏。


“成功し続けている自分”が、鏡の前に立っている。


完璧な笑顔を作る。


だが、誰もいないところで、その顔が崩れる。


ほんの一瞬だけ。


次の瞬間、また完璧な俳優に戻る。


映像は加速する。


拍手。拍手。拍手。


どこへ行っても、拍手。


終わらない拍手。


だが、その音が——


少しずつ歪んでいく。


拍手が、大きすぎる。


重すぎる。


逃げ場がない。


“成功し続ける自分”は、舞台に立ち続ける。


降りることができない。


降りれば、すべてが終わるから。


顔が引きつる。


笑っているのに、目が死んでいる。


それでも拍手は止まらない。


「……やめろ」


神崎が呟く。


だが、映像は止まらない。


最後のシーン。


真っ白な光の中。


舞台の中央に立つ“自分”。


観客は見えない。


ただ、音だけが響く。


異様な拍手。


終わらない。


終わらない。


終わらない。


“成功し続けた自分”が、ゆっくりと口を動かす。


音はない。


だが、はっきりと読める。


「降ろしてくれ」


暗転。


上映が終わる。


静寂。


だが、神崎の耳にはまだ拍手が残っている。


消えない。


頭の奥で鳴り続ける。


「……ふざけんな」


立ち上がる。


足元がふらつく。


「なんだよ、どっちも地獄じゃねえか」


支配人が言う。


「夢は、形を変えるだけです」


「じゃあどうすりゃいいんだよ!!」


叫ぶ。


声が響く。


誰もいないはずの館内に、拍手が返ってくる。


パン、パン、パン……


神崎が凍りつく。


振り返る。


誰もいない。


それでも、拍手は鳴っている。


「……やめろ」


耳を塞ぐ。


だが、内側から聞こえる。


パン、パン、パン……


「やめろ!!」


気づくと、外に立っていた。


雨は止んでいる。


映画館は消えている。


だが——


拍手は、消えない。


数日後。


小さな劇場。


神崎は舞台に立っている。


客は、数人。


静かな空間。


セリフを言う。


誰も拍手しない。


それでも——


聞こえる。


頭の中で。


あの、終わらない拍手。


神崎は、笑う。


ゆっくりと、壊れたように。


「……まだ、鳴ってる」


幕が下りる。


現実には、誰も拍手していない。


だが彼にとっては——


もう、止まらない。


並行シネマは、その夜もどこかで灯る。


次に壊れる誰かを、静かに待ちながら。

どうでしたかほかの自分の人生が今よりも良いとは限りません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ