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星屑シネマの七番スクリーン  作者: パラレルワールドの住人


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11/12

星屑のシネマ ― 遅れてきた帰り道

本日上映は、安心から後回しにしてしまう大切なことの物語です。


深夜のオフィス。


蛍光灯の白い光だけが残るフロアで、

キーボードの音がぽつぽつと響いている。


黒崎浩一、45歳。


管理職。


仕事に追われる毎日。


「これ、明日までに頼む」


部下にそう言いながら、自分も席に戻る。


スマホが震える。


画面には「妻」。


一瞬だけ見る。


そして、伏せる。


「……あとでいいか」


気づけば、日付が変わっていた。


会社を出る。


夜空を見上げる。


星が、やけに多い。


その下に、見慣れない建物があった。


「星屑のシネマ」


なぜか、足が止まる。


中へ入る。


館内は静かで、天井に無数の光。


まるで夜空の中にいるようだった。


支配人が、チケットを差し出す。


『あなたが、帰った人生』


黒崎は眉をひそめる。


「……帰った?」


席に座る。


上映が始まる。


最初に映ったのは、同じオフィス。


同じ自分。


違うのは——


スマホが鳴ったとき。


“向こうの自分”が、手を止める。


少し迷って、電話に出る。


「……ああ、どうした?」


その一言。


何でもない会話。


でも——


そのあと、“向こうの自分”はパソコンを閉じる。


「今日はここまでにする」


部下が驚く。


「え、もうですか?」


「ああ。続きは明日やる」


黒崎は、画面を見つめる。


「……無理だろ」


だが映像は進む。


帰宅。


玄関のドアを開ける。


「ただいま」


少し遅い時間。


それでも、明かりがついている。


リビングに、妻と子ども。


「おかえり」


その声に、“向こうの自分”が少しだけ戸惑う。


テーブルには、少し冷めた夕飯。


「温め直すね」


何気ないやり取り。


だが——


その空気は、途切れていない。


時間が進む。


何度も、仕事を切り上げて帰る日々。


最初はぎこちない。


会話も少ない。


でも、少しずつ戻っていく。


子どもの話を聞く。


妻と他愛ない会話をする。


特別なことはない。


だが——


“家の中にいる自分”が、そこにいる。


あるシーン。


休日。


家族で出かける。


特別な場所じゃない。


近くの公園。


子どもが笑う。


その横で、“向こうの自分”が、少しだけぎこちなく笑う。


でも、その顔は——


会社では見たことのないものだった。


最後のシーン。


夜。


リビングで、テレビを見ながら、家族と並んで座っている。


誰も何も話していない。


それでも——


静かで、途切れていない時間。


“向こうの自分”が、ふと呟く。


「……まあ、悪くないな」


映像が終わる。


館内の星が、静かに瞬く。


黒崎は、しばらく動けなかった。


「……仕事、どうしてんだよ」


思わず漏れる。


支配人が言う。


「同じだけ、やっています」


「……は?」


「ただ、“持ち帰らなかった”だけです」


言葉が止まる。


持ち帰っていたのは、仕事だけじゃない。


無視した電話。

後回しにした時間。

見なかった顔。


全部、自分で置いてきたものだった。


外に出ると、夜空が広がっている。


スマホを取り出す。


着信履歴。


妻から。


時間は、少し前。


しばらく見つめる。


「……今さら、か」


小さく呟く。


それでも——


指が、ゆっくりと動く。


かけ直すこともできる。


そのまま閉じることもできる。


夜は静かだ。


遠くで、誰かの笑い声がする。


黒崎は、深く息を吸う。


そして——


スマホを耳に当てる。


「……もしもし」


それが、最初の一歩なのか。


それとも、ただの気まぐれなのか。


まだ、誰にも分からない。


ただ、星だけが静かに瞬いていた。


星屑のシネマは、またどこかで現れる。


取り戻せる時間と、

取り戻せない時間のあいだに立つ誰かのために。

いかがでしたでしょうか。

皆様は、家族、恋人、友人を大切にできているでしょうか?

自分の中で大切に思っていても行動であったり言葉で表現していないと伝わらないものなんです。


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