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その40


 ここは鏡の中の世界。

  

 元の世界と似た地下室が鏡の世界らしく反転した状態で広がっている。

 まるで時が止まったかのような静けさの中、部屋に置かれた鏡が突然、震え出した。ガタガタと音を立てながら鏡の中からバスターの姿を借りたアレックスが吐き出されるように現れた。

 

 アレックスは着地の際についた膝をゆっくりと上げて立ち上がる。


「ここが鏡の世界か、左右が反転している。ものすごく気味が悪いな」


 独り言を呟きながらあたりを見渡すと、アレックスは自分と同様に鏡へと引きずり込まれたグードの姿がないことに気付いた。そのかわり、地下の異様な景色が彼女の前に広がっていた。


 部屋の壁や天井は所々へこみや傷が見られる。明らかに何かが暴れた後だった。


 さらにアレックスの目を引いたのは、壁にぼっかり空いた大きな穴だった。


「なんだ、この穴は・・・」

 

 穴の向こう側は異質な空間が広がっていた。暗い、というよりもまるで空間が歪んでできたような場所に見える。ここは地下室、部屋の向こうに空間などあるはずがなかった。


「そうだ、あの者たちは!?」


 アレックスは思い出したかのように再度辺りを見回す。グードとグードと自身を掴んでここへと引き摺り込んだ者の姿が見えない。その代わりに部屋全体の壁や地面に血がついていることに気がついた。彼女が指で触るとその血はついた。


「血痕、乾いてすらいない。それにここの争った形跡、まさか・・・」


 瞬間、穴から獣の雄叫びと共に轟音が響き渡り、部屋の全てを大きく揺らした。


「まずいな、あのちっこいに何かあったら私もただじゃ済まないぞ」


 アレックスは穴の淵に手をかけ、奥へと続く闇を覗き込んだ。下を覗いても暗くて底がどこにあるのかすら分からない。彼女は闇へ足を探るように一歩踏み出してみる。

 意外にも足はすぐ地についた。思ったより浅かったことに笑みを浮かべる。しかも、暗闇の中でも自分の手や姿が明かりのある部屋となんら変わりなく見える。


 すると、再び獣の叫び声が響き渡りだす。それはアレックスの腕に振動を伝わらせた。


「急がなくては・・・」


 アレックスは音だけを頼りに暗闇の中へと走り出し、やがて闇の中へと消えていった。


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