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その38


 その男はゆっくりと階段を降りながら話し始めた。


「なぜ、あなた方がその幽霊と一緒にいるのですか? 私の依頼はこの家の幽霊をどうにかすると言うものだったはずですが」


 3人はこの声を知っている。


「別に幽霊を駆除しろなんて言われた覚えはないわよ。ローデラ」


 部屋へ入ってきたその男は確かに依頼人のローデラだった。初めて彼と会ったときのような品格もあるが、それと同様に彼からは怒りと凶暴さが感じられた。


「むっ、お前は確か・・・」


 アレックスはローデラを見ると眉をひそめる。


「覚えていましたか」


 ローデラもアレックスを知っており、どうやら面識があるようだった。


「生きていたのか」


 アレックスは険しい顔になる。


「再生するのに100年以上かかりましたがね。あなたに復讐をしようと思ってましたが、人間は思っていた以上に脆いようですね。幽体になっているとは思いませんでしたが」


 幽体になったアレックスを見て笑うローデラ。気のせいだろうか、彼の顔は先ほどより青白くなっている。


 2人が距離をとりつつ話すのを聞いて、メイシンは何となくローデラの正体を察した。


「ねぇ、まさかこいつ・・・」


「あぁ、私が大昔に倒した怪物だ、間違いない。そして恐らくここを襲ったのもこいつだ」


 

「あなたがいなかったので代わりにまだ居ついていた子孫を追い払ったまでです。しかし、あなたがこうして現れた今、見過ごすわけにはいかない」


 ローデラのコメカミから血管が浮きでてくる。


「フッ、今の私に触ることもできないはずだ。それに、あの時2人がかりで私に負けたのに1人で勝てるとは思えないが」


 笑うアレックスの予想に反し、ローデラも余裕の笑みを浮かべた。


「いつ私が1人だと言った?」


 次の瞬間、アレックス達の背後にある鏡の表面が揺れだした。グードがその異変に気づき振り返ると、鏡から巨大な手が現れた。丸太のように太く、緑色の皮膚は鱗のようなものに覆われた手はアレックスに向かって伸びる。


「危ない!」


 グードは飛び出すようにアレックスの前に立つと、巨大な手に鷲掴みにされた。


「ウソ!?」


 驚くメイシンとアレックス。対してローデラは舌打ちを放った。


 その大きな手は一瞬にしてグードと共に鏡の中へと吸い込まれていった。


「ウソでしょ!?」


 焦ったメイシンは走るようにして鏡の前に行き、鏡面に両手をついて必死にグードを探そうな覗く。しかしそこには彼女と部屋が映し出されているだけだった。


「あの野郎、しくじりましたね」


 ローデラは眉間にシワを寄せて再度舌打ちをした。


「ちょっと、何したのよ!」


 怒ったメイシンはローデラに怒鳴りつける。


「鏡の中へ入った、それだけです」


 淡々と答えるローデラだが、彼の表情からはイラつきが隠しきれていなかった。今度はアレックスが口を開く。


「あいつも生きていたのか」


「なぜか鏡からほとんど出てこれないんですがね。呪いにかけられたとか。おそらく今引き摺り込まれた彼も出てこれないでしょうね」


「そんな・・・!」


 まるで絶望したかのような表情になるメイシン。するとまたあの巨大な腕が現れた。


「さぁ、次こそ捕まえろ!」


 手はアレックスを探すように左右へ暴れる。


「私がいくわ」


 メイシンが前に出ようとする。


「待て、私が行こう」


 アレックスが制止するようにメイシンの前に腕を伸ばした。


「あの腕の狙いは私だ。今あなたが捕まってもまた私を捕まえようとするだろう。それに・・・」


 アレックスは横目でローデラを見る。


「あいつが怪しい。ここへ来て突っ立っているだけで何もしない。絶対に何かするはずだ。それの阻止を願いたい。君の仲間は私が連れて帰る」


「・・・信じていいの? そもそもあんたどうやって戦うのよ?」


 巨大な腕はアレックスの声を聞いて彼女の場所を特定し、狙いを定めた。


 アレックスは周囲を見渡す。すると、床に転がっているバスターの体を見つけた。


「ちょっと借りるよ」


 そう言うと彼女はバスターの体の中へと入った。一瞬間が開くと、バスターの体が起き上がる。


 巨大な手はバスターに向かって勢いよく伸び出した。


「うん、悪くない」


 起き上がったバスターは自分の体を見つめて、手のひらを動かす。


 その瞬間、バスターの体は巨大な手に捕まった。それを見てローデラはまた笑みを浮かべる。


「それでは、頼むぞ」


 メイシンが呆然とする中、バスターの体はグードと同じように鏡の中へと消えた。


 しばらくの間、残った2人を静寂が包む。すると突然、ローデラが鏡に向かってゆっくりと歩き出した。


「いや、助かりました。ここの屋敷の調査を依頼したつもりでしたが、あなた達のおかげで一気に問題が解決しましたよ。あとはこの鏡を完全に封印して終了です。あなた達に頼んでよかった。報酬も増やしておきますね」


 まるで独り言のように鏡だけを見て喋るローデラ。その手にはキッチンのドアに貼られていたものと同様のお札が握られている。


「待ちなさいよ」


 ローデラの足が止まる。その進行方向にメイシンが塞ぐように立っている。


「あんたの仲間のせいで私の仲間があの中に捕まったのよ」


「報酬の取り分が増えるじゃないですか」


 表情を一切変えないで放ったローデラの言葉にメイシンは杖を向ける。


「ふざけないでよ!」


「邪魔を、するんですか?」


 次の瞬間、ローデラの顔からさっきより多くの血管が浮き出て、前方の歯2本が尖りだした。


「ならここで消えてもらおう!」

読んでいただきありがとうございます

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