731手間
人工宝珠の研究が書かれていた部分と違い兵器などについての記述された部分は、書いた者の狂気を感じないからかそれとも淡々と書かれているからか、特に怒りを覚えることなく静かに読み進める。
中には晶石を利用した爆弾など、決して世に広めてはならないような物もあるが、中には同じく晶石を利用した冷房や暖房など便利な物についての記述もあった、惜しむらくは晶石がこの地では産出しえないので実用化が難しい事くらいだろうか。
「魔石、は駄目じゃな。こちらのは質が悪すぎるのじゃ……せめてもう少し純度が高ければのぉ」
とはいえ無駄にはならないかとこのページも抜きだすことに決め、さてお次はとページをめくろうとした瞬間控えめなノックの音が響く。
「お嬢様、アニスでございます。お部屋に入ってもよろしいでしょうか」
「うむ、入るがよい」
「失礼いたします」
本をばらす道具だけでなく、新たにお茶やお菓子の用意もしてきたのかワゴンを押して入ってきたアニスの影から、もう一人にゅっとワシの部屋に入ってくる人影が。
「おやクリスではないかえ、どうしたのじゃ?」
「ちょっと本の内容が気になってね」
「ふむ……読んでみるかえ?」
ワシの隣に腰かけながら話しかけてきたクリスに本を差し出してみると、うんと頷き早速適当なページを広げその内容に目を走らせ始めた。
カチャカチャとアニスがお茶を用意する音とシュルシュルとページをめくる音、ぱちりぱちりと火がはぜる音だけがしばらく聞こえ、アニスがクリスの前にお茶を置くとそれを待っていたかのようにクリスが本を閉じる。
「ダメだ、さっぱり読めない。そもそもこれ本当に文字なのかい?」
「うむ、この辺りではまず使われておらぬ文字じゃな、遺跡が造られておったような時代には使うものも多かったじゃろうがの」
「そんな古い時代の文字なのか……セルカはよくそんなの読めたね」
「年の功というやつじゃ」
ワシの言葉に苦笑してクリスが本を返しながら「ところで」と聞いてくる。
「この本にはどんなことが書いてあったんだい?」
「ふむ、武器や部屋を暖めたり涼しくしたりする装置の作り方なんぞと、人工宝珠の研究内容じゃな」
「へぇ、人工宝珠ってのも気になるけど部屋を暖める装置ねぇ、それは暖炉とは違うのかい?」
クリスは宝珠という言葉が聞きなれない為か、それとも寒い国の王子様だからか暖房の方に強い興味を示してきた。
「部屋を暖める根本の原理は変わらんの、仕組みと燃料が全く違うだけじゃ」
「ふぅん、何を燃料にするんだい?」
「晶石じゃな」
「晶石?」
「高純度なマナの結晶じゃ」
「マナの結晶……それは魔石の事?」
「似ておるが違うのじゃ、それにここらの魔物の魔石では純度が足りぬ。それこそ匹敵するのは王なんぞの魔石くらいじゃろう」
「むぅ、それじゃあ泥炭の代わりにはなりそうにないねぇ」
「そうじゃなぁ、とは言え完全に無駄にはならんじゃろうから、面倒じゃが翻訳しておくのじゃ」
アニスから本をばらす為の道具を受け取り、細長いケーキサーバーの様なナイフを綴じ目と背表紙の間に差し込みつつ、それはそれで大変そうだとため息を漏らすのだった……。




