730手間
頭痛を堪えるように額を押さえていると温かいお茶を出しながら、アニスがワシを心配そうに覗き込んでくる。
「お嬢様、体調が優れないので?」
「いや、そうではない。書いてある内容が想像以上にろくでもない事じゃったのでのぉ」
額から手を離し淹れてもらったお茶を啜りながら再度本の内容に目を通す。本の内容は大きく分けて二つ、正確には二つあった本を一つにまとめたと言えばいいだろうか。
ボロボロの原本では分からなかったが、こうやってまともに読める本であれば、内容云々が分からずとも全く別の人が書いたのであろうことは分かる。
一つ目がクロスボウをはじめとした兵器などの作成方法や扱い方を淡々と書いたもの、そしてもう一つは人工宝珠の研究を書き記した、恐らくは思いつくままに書いたのだろう、文章から書き手の感情を感じる。
「うぅむ、ここから粗悪品も良いところじゃが、アレを作り出すとはあやつは紛うことなき天才じゃな」
「天才……ですか」
「んむ、断片的で詳しい作り方なぞ書かれてはおらぬというに、とはいえこれに手を出すとは狂人としか言いようがないがの」
一番の狂人はこれを書いた奴であろうことは間違いないが、この研究をなぞろうと思う輩も劣らずの狂人であろう。
犯罪者や奴隷を対象とした人体実験の経過観察に手を変え品を変えの実験レポート、書き記された材料の中に……材料と表記されていること自体腹立たしいが、水子という文字を見つけた時は流石に我が目を疑った……。
それだけで如何にこの文章が狂気に走ったものか窺い知れるというもの、全て終わった事ではあるがあの男がこの水子という言葉を理解できていなかったことを祈るばかりだ。
「ほんに、ろくでもない……。アニスや、何ぞ本をばらす為の道具があれば持ってきてほしいのじゃが」
「かしこまりました、詳しいであろう方に聞いてきますので少々お時間いただきたく」
「んむ、頼むのじゃ」
人工宝珠の研究内容に関しては塵も残さず消し去るとして、アニスが帰って来るまでに兵器類が書かれている中で、世に出して大丈夫なものをピックアップしておくかとお茶を啜りもう一度本に目を通し始めるのだった……。




