723手間
「ありがとうございました……」
そう言って剣にもたれ掛かるように立ち上がった男が、両脇を仲間の準騎士に支えられて去っていく。
若さゆえかどうしても大振りな攻撃を好むらしく、大きく振りかぶる度にスパンスパンとがら空きの胴や脚にワシの持つ剣で一撃を入れていった結果がコレだ。
「基本的におぬしらの相手は魔物か盗賊などじゃろう、当然油断なぞ言語道断じゃが盗賊どもは所詮は盗賊じゃ余程知恵が回るか数でおぬしらが劣らぬ限りは問題がない相手じゃろう。必然的に気をつけるべきは魔物となるわけじゃが……やつらとて阿呆ではない、きっちりとこちらの攻撃を防御するし隙も突いて来るこれは分かるの?」
皆を見回して、準騎士たちが当たり前だろうと頷いているのを確認してワシは話を続ける。
「槍や剣に限らず大振りな攻撃は当然相手に与える効果も大きいじゃろう、当たれば一撃で仕留めれるかもしれぬ。しかしじゃ、大振りという事はそれだけ隙を晒すことになるし相手にどこを攻撃してくるか察知されやすいのじゃ。如何な強力な攻撃とて当たらねばどうと言うことは無いからの。分かりやすい攻撃というのはそれだけ防御も回避も容易い、じゃからまずは相手の隙を作りそこに攻撃を叩きこむのじゃ! ではどうすればよいか、答えは簡単じゃ。手数を増やせばよい、一度に防御し回避できる場所や回数なぞたかが知れておるからの。手数を増やすに細かく打ち込むのも良いじゃろう、じゃがもっと簡単に手数を増やす方法があるが……わかるかの?」
もう一度皆を見ればぶんぶんと準騎士たちは首を横に振る。
「答えは単純明快、人数を増やせばよいのじゃ。一人より二人、二人より三人とな。という訳でほれ、二人ほど出てくるがよい」
えっ、とワシの言葉に驚く準騎士たちだが、既にワシの実力は哀れな男の犠牲により理解できたのだろう、おずおずといった様子だがワシが言った通り二人ほど、一人ずつ少し間を開けて前へと歩み出る。
「んむ、では先ほど言ったことを念頭にかかって来るがよい!」
ワシの合図に一度礼をした準騎士の二人が剣を構えほぼ同時に打ちかかって来る、正眼に構えた剣を手を肩の高さまで上げてそれぞれ左右から袈裟懸けに、剣の軌跡を追えばVの字になるであろう一撃をワシに叩き込む、しかしその前に大きく手を振る様に振り上げたワシの一太刀で二人の剣は弾かれ大きく跳ね上がり踏み込んでいたせいで、大きく腹を晒すような格好に二人はなってしまう。
「細かく打ってきたのも良い、二人同時に合図なくほぼ合わせてきたのも実に見事。しかしじゃ! 同じ場所に打ち込んでは何の意味も無かろうが!!」
大きく手を振り左に流れていた剣を腕力だけで引き戻し、剣の重さとワシの一太刀の衝撃でまだ剣をワシと違い引き戻しきれていない無防備な腹へと、右に左にと剣を振り二人の胴へと一撃ずつくれてやる。
「さっきの者もそうじゃが、んむ。おぬしらも剣を取り落とさぬのは天晴れじゃな」
最初にワシにボコボコにされた者は膝を付こうが無様に転がされようが決して剣だけは手放さなかった、彼らも剣を弾かれこそしたが、しっかりとその両手は剣を握りしめている。
「け、剣を捨てると恐ろしいことになりますので……」
「恐ろしい事とな?」
ワシに打ち据えられた場所を押さえながら、準騎士の一人がそう言ってぶるりとその恐ろしいことを思い出したのかまるで寒波に襲われたかのように震える。
巻き上げなどを駆使すれば剣をその手からはじき出す事も容易いだろう、少々その恐ろしい事が気になって試してみようかと思ったのだが、余程恐ろしい目にあったのだろういまだガタガタと震える準騎士が哀れに思え苦笑を漏らすのだった……。




