721手間
ちらりとフレデリックの方を見れば、彼はその視線だけでワシが何を言わんとしてるか理解したのだろう。こっそりと鼻から抜くようなため息を一つした後に頷き、準騎士たちの傍にいる教官であろう騎士に向かい歩いていく。
そのフレデリックの行動に、一人では起きれないのだろうクリスに倒された奴を起こそうとしてた者までもが手を放し、フレデリックの近くに集まってゆく。
その時ゴッと後頭部から落ちた結構いい音がしたのだが彼は大丈夫なのだろうか、兜を被っているので表情は見えないが今取り落とした奴を、首だけ動かし恨みがましく見ている雰囲気があるので多分大丈夫だろう。
彼らがそんな暴挙に出た理由、それは偏にフレデリックが近衛騎士でありしかもその団長だからだ、もしかしたらそんな人から指導してもらえるのかもと期待に目を輝かせている、何でフレデリックがやってきたのかを薄々理解してるであろうクリスと、地面に叩きつけられた名も知らぬ悲しい男以外は……。
「フレデリック様、是非私どもに剣の指南を!」
「ダメであれば、せめて騎士としての心構えなどを」
アリの群れに角砂糖を落したかのような勢いでフレデリックの周りに準騎士たちが集まって来る。いや、よく見ればしれっとその中に騎士たちまで混じってやがる。
いきなり集まり始めた準騎士たちを宥める風を装ってはいるが、その顔はしっかりとフレデリックの方を向いているのでバレバレだ。
気持ちは分からないでもない、準騎士にしろ騎士にしろ近衛はエリート中のエリートで騎士になりたいもの騎士に身を置く者としては憧れの存在、しかもその団長に教えを乞えればそれだけで箔が付くというもの。
俺は近衛騎士団長に剣を教わったのだと、例え剣の握りを指摘されただけでも言う奴は言うだろう……。
「いえ、此度皆の指南をするのは、あのお方です」
話しかけていた騎士と話が付いたのか、フレデリックは周りの声を無視してくるりと振り返りワシを手で指し示す。
クリスのあぁやっぱりという呆れ顔を筆頭に、準騎士たちは驚きやフレデリックでは無い事への失望など、人によってはあんな小娘が? などという明らかに侮蔑を込めた顔まで居る。
驚きや失望はワシの実力を知らねば当然の反応として、ここに居る者でワシのことを知らぬ者は居ないはずなのに侮蔑の表情は如何なものだろうか。
「さて、ワシが誰かなぞ今更いう必要も無かろう。先ほどフレデリックは指南などと言うたが、ワシは指南するほど剣術を修めておる訳ではない、じゃが……ここに居る全員と戦っても勝つことを断言できるほど強いのじゃ!」
準騎士といえど自分の腕にそれなりに自信はあるのだろう、未熟といえど小娘よりは強いと……ザワリと、特に侮蔑の表情をワシに向けた者たちから大きく響くような反発の感情に、ワシはニヤリと口角を上げるのだった……。




