720手間
鉄の剣が鉄の鎧に激しくぶつかる音がして、当然打たれた方は激しく鳴った音に相応しく、元々体勢を崩していたこともありぐらりとよろけて剣を取り落とし、ガシャンとその場に大の字になって倒れこむ。
なかなか耳に痛い派手な音が鳴り響いたが、その中に肉がひしゃげる様な音や骨が折れる様な嫌な音は混じって無かったので、音は派手だったが相手の怪我は最悪でも多少骨にヒビは入っている程度だろう。
打たれた所に青あざくらいは出来るだろうが、それは戦闘の訓練をしているのだ。日常茶飯事であろうし甘んじて受け入れてもらう他ない。
「ふぅむ……ぼちぼちといったところかのぉ」
「おや、クリス様の勝利ですが喜ばないので?」
クリスの勝利にどう贔屓目に見ても喜んでいる風ではないワシに向かい、意外そうにフレデリックが問いかけてくる。
素人目で見れば防戦一方からの隙を突いての一発大逆転、諸手を上げて喜んでもそうおかしくはないように見えるが実際は違う。
防御に集中し相手の隙を作り一撃を叩きこんでの勝利、しかしそこには相手の油断と言うのが多分に含まれている。無論相手の油断を誘うのも戦術の内ではあるのだが、あえて油断を誘ったのではなく防御に集中したのを相手が勝手に旗色が悪いとみて調子に乗っただけ、言ってしまえば相手が油断してしまうほど防御に集中してしまったという事。
それが悪いとは言わない、勝つことよりも己が身の安全を図ることが肝要な王太子であれば防御を主体にするのも当然の選択肢だ。
「ワシが受け流せなどと言ったのもあるじゃろうが……何と言えば良いかのぉ、詰めが甘い? うぅむ、ちと違うかのぉ、この程度で満足してもらっては困る? んぅむ」
ワシが今の気持ちを上手く言葉に出来ずにいると、フレデリックはワシの言わんとしてることを理解してくれたというよりも同じ気持ちなのだろう、一つ頷いてから口を開く。
「この訓練はなるべく技量が同じ者同士をぶつけるので、どうしても辛勝かはたまた幸運によって勝ちを拾うかの二つに一つです。そこで確かに辛勝ではありますが、体力切れなどでは無く拙いとはいえ技術でもって勝ちを収めたのです、それは称賛するに値するのではないでしょうか」
「ふぅむ、確かにおぬしの言う通りじゃな」
「えぇ、ですが……セルカ様のご懸念でありましょう、ほめてこの程度で満足しもらっては困ると言うのも、近衛である私からしてみれば理解できる話ではあります」
無論ダメだダメだとけなし続けるより褒めて伸ばすのも一つの手であるが……ちょっと褒めるにはまだ一歩足りぬかなと、自分の中で一つ納得し頷くと兜を脱ぎ剣を杖にして一息ついているクリスに近づくのだった……。




