717手間
ソファーに座り太ももに肘を立て組んだ両手に顎を乗せて真剣にワシの話を聞くクリスに気を良くし、話の合間にお茶を飲み喉を潤しながら、この数か月で有ったことを上機嫌で話していく。
「――というわけじゃ!」
最後にパンパカパーンとでも効果音が付きそうな、歓迎するように両手を広げ手を上に掲げたポーズを決めればクリスは先ほどと同じ姿勢のまま、組んだ両手を額に当てて呆れるような頭痛をこらえている様なリアクションを取る。
「はぁ……セルカは相変わらずというか、報告では聞いてたけれどやっぱりあの炎はセルカのものだったんだね」
「む、アレはここからでも見えてたのかえ?」
「幸い神都からは見えてなかったよ、見えてたら大混乱だったろうしね。僕は丁度その時に神都から離れてたからね、滞在してた街から見えたんだよ」
「なるほどのぉ」
クリスが冷えたお茶を下品にならない程度に一気にあおり、ふぅと一息ついてからカップをソーサーに戻す。
「とはいえそれは大して問題じゃない、最近では滅多に無かったらしいけど歴代神王がそういう逸話を幾つも残しているからね。それよりも問題なのは、人を魔物にする禁術の仔細が書かれた本の写しを、フロイス子爵が私蔵しているというのは本当かい?」
「んむ、フロイス子爵の娘に聞いたから本当じゃろう。原本も確保しておるが写本も確保しておく必要があると思うのじゃ。むしろ写本の方が重要かの、原本はボロボロで殆ど読めぬ状態じゃからのぉ」
「そうか、確か書いてある文字も記号か暗号かよく分からない文字だったそうだけど、セルカはよく読めたね?」
「伊達に長くは生きておらんというわけじゃの!」
むふんと胸を張ればクリスは苦笑いを返し、アニスに新たに淹れてもらった温かいお茶を一口すする。
「堅苦しい話はここまでにして……それはなんだい?」
それとクリスが指さす方向を見ればバスケットの中で眠り、いつの間にやら布団のように小さなタオルがかけられた子オオカミの姿。
「これがさっき言うた拾ったオオカミじゃ。群れから逸れたのかそれとも群れが壊滅したのか知らぬが、キツネの親子に紛れておっての、放って置けんから連れて帰ったのじゃ」
「そう、それで猟犬にでもするつもりかい?」
「いや、番犬というかかわいがってやろうかのぉ……とな?」
「まぁ、かわいがりたくなる理由もわからないでもないし、セルカならオオカミだろうが何だろうが懐きそうだしね。ところでこの子の名前はなんて言うんだ?」
「ん? おぉ、そうじゃ。この子に名前は無いからのぉ、折角じゃからクリスにつけて欲しいのじゃ!」
「僕が?」
そんな事を言われるとは思ってなかったのだろう、クリスが目を点にして驚き「だったら」と律義に腕を組んで子オオカミの名前を考えてくれているのだろう、またもお茶が冷えるのを尻目にうんうんと唸りはじめるのだった……。




