716手間
馬車が止まったことを告げるように馬が嘶き、少しして馬車の扉が開かれる。
子オオカミが入ったバスケットを持ってアニスが先に馬車から降りた後に、フレデリックが差し伸べてきた手を取ってワシも馬車を降りる。
用意されたステップを使い外に出ると真っ先に目に入ったのは満面の笑みで待っていたクリスの姿、ワシもつられて笑顔になりステップを降り切るとフレデリックの手を放しクリスの下に向かう。
「おかえりセルカ、変わりない様でよかったよ」
「んむ、ただいまなのじゃ。クリスはちと背が伸びたかの?」
流麗な容姿の王子さまだったのが、凛々しい王太子に成長したと言えば良いのだろうか、有り体に言えば綺麗な見た目そのままに男前が上がった……気がする。
「身長自体はセルカが出発する前から変わって無いはずだけども、少し筋肉が付いたからその成果かもね」
「ほほう、それは良いのぉ」
人の筋肉を見て舌なめずりするような趣味は持ち合わせていないが、やはり努力して勝ち得た姿はカッコイイしそれがクリスであるなら尚の事。
「セルカだから長旅の疲れなんて無いだろうけども、立ち話も何だし中に入ろうか」
「んむ」
クリスが差し伸べてきた手を握りクリスの歩みに合わせて共に進む、久々に握られた手はエスコートと言うには些か力強い。むしろ捕縛など絶対に逃がさないという意思を感じるほどだが、それだけクリスが鍛えて来たのだろうと頬を緩める。
やってきたのは数ある宮殿の部屋の中でも小ぢんまりとした部屋、しかし決して使用人などが使う部屋では無い事が落ち着いた色合いながらも気品あるソファーやテーブル、華美では無いが精緻な彫刻が入った柱や暖炉などからもわかる。
「こんな部屋もあったんじゃなぁ」
「一人落ち着いて勉強するには丁度良くてね。さて、先触れから大まかには聞いてるけど、セルカから何があったか話してくれないかな?」
「うむ、もちろんじゃ!」
侍女にお茶やお菓子を用意させたクリスがニコニコと聞いてくるので、ワシも気を良くして身振り手振りを加えこの数か月であったことをクリスに話すのだった……。




