710手間
宿へと戻り子オオカミが入ったままのバスケットをベッドの上に置き、法術なども使って手早く身綺麗にして子オオカミを起こさぬようそっとベッドに乗り、バスケットに顔を向ける形でうつ伏せに寝転がる。
ベッドに肘をつき両手で頭を抱えるような姿勢でバスケットの中を覗けば子オオカミは寝返りをうったのか、今度はうつ伏せになり前足、後ろ足をだらしなく放り出すような形ですやすやと眠っている。
よく遊びよく食べよく眠る、きっとこの子は大きくなるだろうと微笑みながら子オオカミの耳を触れば、くすぐったいのか片方だけぺたんと畳む姿がかわいらしく、ますます相好を崩す。
「将来はどんな子になるのか楽しみじゃのぉ。ふむ、将来と言えば名前もつけてやらねばのぉ……いや、宮殿で飼うのじゃしクリスにつけてもらうのがよいかの」
そもそもペットに名前を付ける習慣があるかどうかさえ分からない、それ以前に愛玩動物という考え方があるかどうか……。
猟犬はこの目で見たしフレデリックも優秀な番犬になりそうだと言っていたので、家畜として動物を飼うということはあるみたいだが。
何にせよ飼うことに反対はされないだろうと、うつ伏せに寝ている子オオカミの背中を耳の後ろ辺りから何度も撫でてやる。子供特有のふわふわとした毛並みは綺麗にしたことでさらに手触りが良くなり、思わずいつまででも撫でていたくなる。
しかし、気持ちよさそうに寝ているところに悪いがいつまでもバスケットの中で寝かせている訳にもいかない、アニスによって既にエサ皿は回収されておりバスケットの底には一応布が敷いてはあるが木の枝で編んだバスケットでは寝心地が悪かろう。
そっと子オオカミのお腹の下に手を入れバスケットから出してベッドの上に置いてやると、流石に起きたのかくあぁと欠伸をしながら立ち上がった子オオカミが、体を弓ぞりに一度伸びをしてからなぁに? とこちらをつぶらな瞳で見上げてくる。
「んむ、このままでは寝心地が悪かろうからの、おぬしの寝床を作ってやろうとな」
子オオカミを撫でながら話しかけ、わんっと嬉しそうに返事したのに目尻を下げると腕輪から小さめのクッションを取り出しバスケットの中に詰める。
「ほれ、これなら寝ておって体が痛くならないじゃろ?」
寝床を作るなどといったがなんてことは無いただクッションを置いただけ、しかし子オオカミはいたく気に入ったのか嬉しそうに尻尾を振ってぽふんとクッションにダイブしていき、あれほど寝ていたというのにまた寝るつもりか、キツネほどでは無いもののころんと丸くなってすやすやと眠り始めてしまった。
子オオカミのそんな姿を見てワシもしばし寝るかなと思い始めた頃、アニスがやってきてあと二日ほどで迎えの馬車が到着すると告げるのだった……。




