707手間
木々より高く跳びそこから小角鬼の集落を睥睨すると、素早く狐火で集落をぐるりと取り囲む。アメーバのように歪な形の集落なのでぐるりと囲むのに森も巻き込まれたが、今回の狐火で森が焼けることは無い。
熱の無い行き逢いの炎、御先の火は触れたもののマナを奪う、怪異たる狐火の本領発揮といったところか。そのせいで狐火に触れた木が枯れているが致し方ない。
今はそれよりも掘っ立て小屋の中身だ、小角鬼どもは急に現れた炎の壁に呆けるか恐慌に陥っている、調べるならば今を置いて好機はないだろう。
ズダンッと地面に降り立つと一番近い掘っ立て小屋の中を覗く、幸いなことに扉などという上等なモノは無く仕切りとしての布もかけられていないので手間が無いのがいい。
「うぐっ……相変わらず、こやつらは食うもの選ばずというか……」
最初に覗いた掘っ立て小屋は食糧庫と言えば聞こえはいいが、実際はとりあず小角鬼どもが食べられるものを突っ込んでそのままのゴミ部屋。丸のままの鹿やもうすでに腐って骨が露出し何のモノか分からない肉などが詰め込まれており酷い臭いだ。寒いこの地方でこれなのだ、もし温かいところだったらと思うとゾッとする。
ワシは左手で鼻をつまんだまま、ワシに気付き襲い掛かってきた小角鬼どもを切り伏せ、酷い臭いのする小屋を燃やし次の小屋へと向かう。
あんなモノでも小角鬼どもにとっては貴重な食料なのか、ワシを襲うことすら忘れて小屋の周囲でゲギャグギャと慌てふためいている。
ただ消火する術が無いのか慌てふためくだけなので、その騒ぎで火事に気付いた小角鬼が慌てをくりかえしてなかなかひどいことになっている。
小角鬼にとっては災難だろうが、ワシはこれ幸いと次々に掘っ立て小屋の中身を確認しては火を放つを繰り返せば、たちまち小角鬼どもの集落は阿鼻叫喚の巷と化す。
「ふぅむ、手間はかかったが誰も囚われておらんで良かったのじゃ」
最後の小屋の中身を確認して中に人が居ないのを確認すると今までと同じ様に火を点ける。
外には触れれば致死の炎の壁、中では貯めに貯めた食料などが全て焼け落ちて小角鬼どもの絶望は如何ほどのものか、ひとえに小角鬼どもの運が無かったと言えるだろう。
よりにもよってワシに見つかったのだから、ワシが見つけずともいずれは森の管理人が小角鬼どもの増殖に気付き、騎士団か兵を呼んだだろうしそれで壊滅的被害を受けもしただろう。しかし全滅はしなかったはずだ、ワシに見つからなければ……。
「さて用事は済んだのじゃ、あの子が寂しがって鳴いておるかもしれんからの。さらばじゃっ!」
やけになって襲い掛かって来る何匹かの小角鬼を切り伏せると、炎の壁を飛び越えて森の中へと戻る。
地面に降り立ちパンッと手を叩けば、今まで不動だった炎の壁が渦を巻くように回転しながら中央へと収縮し始める。当然、それに気付いた小角鬼どもは炎の中で大慌て中には触れれば死ぬと分かっているのに果敢に炎の壁に飛び込んでゆくモノまで居る。
「ワシも鬼では無いからの、後はさぱっと消えるがよい」
炎の壁がある程度収縮した所で触れたものを燃やす普通の炎に変え、竜巻の様な勢いで炎が細くなってゆき晴れ渡る空に同化するように消えてゆく。
その跡にはマナが枯渇しその場に倒れるように崩れ落ちている小角鬼どもが囲む何も無い広場が広がっているのだった……。




