705手間
舞い散る花びらが珍しいのか、今にも飛び出さんばかりに身を乗り出そうとする子オオカミに苦笑を浮かべ、仕方ないなとそっと胸元からだしてやり地面へと降ろす。
その途端、引き絞られた弓から放たれる矢のような勢いで子オオカミは花畑へと突撃すると今までずっとじっとしていたからか、ころころとその場で転がり始めたと思ったら次は花にパンチしはじめたりと全力で遊び始めたのをみて相好を崩す。
「さて、ワシはちと用があるからここで遊んでおくのじゃぞ? それとこの灯篭からあまり離れんようにの、それと何ぞあれば遠吠えで呼ぶのじゃぞ?」
ワシが話しかけてる間も遊ぶことを止めないので聞いてるのかどうかわからないが、わかったと元気に返事したのでたぶん大丈夫だろう。
返事をする時にちょっとだけこっちを向いたがすぐにまた遊び始めたのをみて少し目尻を下げるが、すぐに引き締め、森の中に向かって歩きだす。
ざしざしと不機嫌を隠すことなく下生えを踏みつけ、ある程度森の中に進んだところで歩みを止め虫を払うような仕草で手を払うとカランと足下に落ちるは子供が手慰みで作ったような歪な矢。
「無粋、実に無粋じゃのぉ。何もせんのならば見逃すもやぶさかでは無かったのじゃが……」
一度言葉を切り深くため息をつけば、木々の影からゲギャゲギャと下品な音で鳴きながら十匹ほどの小角鬼が現れた。
「襲ってくるというのであれば容赦はせぬぞ」
最後の警告を威圧を込めて突きつければ一瞬小角鬼どもは怯んだものの、グギャ! と一際大きな鳴き声を上げると手に持った得物振りかざしワシへと襲い来る。
「敵わぬ相手にも挑むその意気やよし、と言いたい所じゃが……そのような意気地はおぬしらに無いじゃろうしただの阿呆かの」
何となくパチンと指を鳴らせばゴウッと小角鬼どもは蒼い炎に包まれ、数瞬のちにはそこには初めから何も居なかったかのように小角鬼の姿は消えてなくなった。
「ふぅむ、あの小角鬼ども、痩せてはおらんかったし近くに巣でもあるのかの」
ならば子オオカミが遊ぶのに飽きる前にさっさと片付けてしまうかと、小角鬼どもがやってきた方に走り出すのだった……。




