702手間
三日続けてやってきた森の中をざくざくと土を踏みしめながら上を見上げれば、揺れる木立の隙間から降り注ぐ光が目に眩しく、手でひさしを作り目を細める。木々の葉は青々として目に鮮やかで、それだけこの森にはマナが満ち満ちているのだろう。
当ても無くぶらぶらと歩くだけで英気が養われそうなのだが、ともに散歩をしようと誘ったアニスはおろか、あのデイワズ前伯爵にまでそれはどうだろうというような顔をされてしまった。
確かに森の中は危険だ、豚鬼をはじめとした魔物だけでなく、狼や熊などの動物たちに襲われる事だってある、方向感覚に優れない者であれば森の木々そのものが危険かもしれない。
しかしワシにかかれば万難は排除されたも同然、大抵の魔物はワシを恐れて近づかないだろうし、獣たちはワシを害そうとは思わないだろう、そして森の中で遭難などワシら獣人にとってはまずありえないことだ。
「じゃというのに、ワシの散歩に付いて来てくれたのはおぬしとスズリだけじゃよ」
きゃんきゃんとはしゃぎながらワシの周りを走る子オオカミを見ながら愚痴をこぼす、スズリはワシの尻尾の中に住んでいるようなものなので厳密に言えば付いて来てくれたのは子オオカミだけ。
フレデリックや騎士たち、そしてアニスは森の入り口、狩りの拠点にてお留守番中だ。一人と一匹で散歩とは中々寂しいが逆に考えれば一人で出歩く許可が出たという事なので、今後町とかに出ることが出来るかもしれないと前向きに考える。
「さてと、そろそろご飯でも食べるかの?」
誰も居ないことを確認してからワシは腕輪からアニスが用意してくれたバスケットに入ったランチと座るために薄手の洗いやすい絨毯を敷くとそこへ腰を下ろす。
「おぉ、これは美味しそうじゃな!」
入っていたのはお肉と野菜が挟まったサンドイッチと子オオカミ様に細かくほぐされた何かのお肉、そしてお茶が入った水筒とミルクが入った水筒。
子オオカミ用のお肉が入ったお皿を取り出しておいてやり、そこにミルクを注ぎ込めば待ってましたとばかりにまだミルクを注いでるにも関わらず子オオカミがお皿へと顔を突っ込んでくる。
子オオカミの頭にかからないように気をつけながらミルクを注ぎ終わると、ではワシもとサンドイッチにかぶりつき、うららかな日差しのもとのんびりと過ごすのだった……。




