678手間
ズボンやシャツといった動きやすい服装に身を包み、上機嫌で森の前に立つワシと世話役のアニス、そして護衛としてフレデリックを筆頭に六名の騎士、休暇のはずなのに悪いなと思ったのだがフレデリック曰く、元々今日の護衛予定の奴らだというので、それもそうかと納得する。
全員が一斉に休んでしまえば誰が物資の手配や馬などの世話をするというのか、休暇が一日であれば日の出日の入り、昼を境に三班に。二日あれば一日目と二日目で二班にと分けているそうだ。
「申し訳ございませんお嬢様。本日はこの雪でも動ける馬が、全て貸し出されておりまして……」
更にワシらの横に居るはこの森の管理人の一人だという冴えない中間管理職といった様子のおじさん、この町では狩りを娯楽として売り出しているだけあって馬や猟犬、弓矢、果ては成果まで用意しているという。
ただ今日は団体さんという訳でも無いのだろうが、ワシらの他に客がいるらしく彼らが馬を借りていてワシらに回す馬が無いそうだ。
無論自前の馬が使えればそれを使っても良いのだが、馬を休憩させる為の余暇だというのにわざわざ酷使する訳にもいかず、馬を借りようとなったのだがそれが居ないので管理人は平身低頭という訳だ。
「急に来たのじゃから致しかたあるまいて、それに森の中を馬で行くというのはどうものぉ……」
ワシの居るところから見る限り、馬を貸し出すだけあって森の木々の間は馬で駆けるに十分な間隔を持って生えており、下生えも綺麗に刈られ馬で駆けまわっても安全であるのは分かる。
しかしこう言っては何だが、森の中で馬を使い狩りをすると言うのは違和感がある。個人的な意見ではあるが、馬や猟犬を使い追いかけ回しての狩りは平原のモノであり、森の中の狩りは一所に留まり待ち伏せか、痕跡を追っての静かな狩りというイメージがある。
「大人しい鹿であれば馬が無くとも射止められるとは思いますが、差し出がましいようですが本当にその弓でよろしいので?」
「んむ、大丈夫じゃ」
弓と弦の間に腕を通した状態でポンと弓を叩き、管理人に向かいニカリと笑いかける。彼が心配してるのは、ワシが持つ弓が扱いが難しいと言われるコンポジットボウと言われる種類のモノだからだ。
コンポジットボウは複合弓や合成弓とも言われるように、木製の弓に動物の腱や金属の板などを張り合わせた威力の高い弓。
大きさとしては馬上での取り回しが良い短弓なのだが、肘まで引くだけで同じ位置まで引いた長弓と互角かそれ以上の威力を持つと言われているが管理人が言うようにその分引くのに力が要るなど扱いが難しい。とは言えワシに掛かればその辺りはさして問題が無い。
「ところでおぬしら全員付いて来るつもりかの?」
「いえ、二名ほどアニスの護衛として置いてきますので、ついて行くのは私とこの三名になります」
「そうかえ、まぁワシの後ろで大人しゅうしておるのじゃぞ」
「もちろん、セルカ様のお邪魔はいたしません」
にこにことフレデリックが胸に手をあて宣言し後ろに控えるついて来る騎士三名も頷くが、これは狩りなのだ。ついて来る時点で邪魔以外の何物でもないのだが……。
ここで駄々をこねて狩り自体を無しにされても困る。内心何も獲れんかもしれんなとため息をつきつつ、そうかえと頷くのだった……。




