677手間
辺境の町から神都への旅程はまぁまぁ順調だった。アニスやフレデリックに言わせれば、まぁまぁどころか神に祝福されているが如しの順調さだそうだが。神に祝福されたなどとは、いささか大仰に過ぎるとは思うが確かに魔物などの襲撃も無く、せいぜい天候や雪害での足止めや迂回をした程度なのだからどういう感想を付けようと、順調という言葉は抜けないだろう。
「のう、アニスや。あとどれくらいで神都かの?」
「今朝フレデリック様にお聞きした際と変わりがないようでしたら、明日明後日の休養日を含め七日ほどかと」
アニスの言葉を聞き、ようやくそこまで来たかと短く息を吐く。
二百名を超す騎士団のおかげで道中快適に過ごせるわけだが、移動と言うのは数が増えれば増える程に速度は遅くなる。当然二百ともなれば、もうこれはキャラバンなどではなく行軍と言ってもいい規模だ。必然的にその足は遅くなり、それ以上にそれだけの数の人や馬を賄う食料の消費量も馬鹿にならない。
その為に馬や歩兵の休憩がてら丸一日から二日かけて食料などを買いこむ日を決め、それが明日からという訳だ。
「つまり明日、明後日はまた宿に缶詰めかえ……」
「かんづめですか?」
「あ、あぁ。瓶詰めの親戚……かの?」
思わずポロッと言ってしまったが、アニスが首を傾げて初めて缶を見たことが無いなと気付く。陶器の瓶にコルクなどで蓋をした瓶詰めは存在するので慌てて言い直せばアニスは意味を悟ったのか、なるほどと頷き缶詰めの事はもう忘れたようだ。
「でしたら狩りなど如何でしょうか?」
「狩りじゃと?」
暇つぶしとして出されたアニスの意外な提案に、ワシは目を見張り呟くようにアニス言葉にオウム返しする。
「はい、この辺りは我が国には珍しく広い森があり、鹿の標的としたご猟場として貴族の間で有名なのです」
「ほほう、鹿とな」
アニスの話によれば定期的に魔物や余計な獣を駆除などの管理された森があり、安全で駆除するための人員が森に踏み入る為に多少人なれした狩りやすい環境を、暇を持て余した貴族などに提供してるという。
「しかし、明日いきなり行って出来るものなのかえ?」
「先触れを出せば恐らく大丈夫かと」
「ふむ、それならば頼もうかの」
狩りという事は誰に咎められることも無く森の中を駆けまわれるという事、最近は特に四六時中馬車か宿の中だけで、碌に運動していなかったのでアニスのこの提案はありがたい。
ワシに危ないことをさせたがらないアニスにしては珍しいが、下手にそこを突いて撤回されても面白くない、なれば特に難しく考えず楽しんだ方が得だろうと早く着けとばかりに体を揺すり上機嫌に馬車の中で過ごすのだった……。




