676手間
当初ワシが考えていたよりも随分と滞在する期間が伸びてしまったが、ようやく神都への帰路へとつくことが出来た。
孤児院の事に関しては最上の結果では無いだろうが、暗殺集団の壊滅に人を魔物とする魔石を作り出す技術の阻止、そして孤児院とは直接関係ないが豚鬼の群れのせん滅と十分な成果と言えるだろう。
あとは神都にあるというフロスト子爵家に保存されている。こちらの人から言わせれば暗号、ワシから見れたただの日本語で書かれた本を処分出来れば上出来だろう。
ただ新たに浮上した目下の悩みは、とても暇なことだ。と言うのも行きはワシの乗る幌馬車単独だったので、ある程度速度が出せたのだが、帰りは騎士団と同道……というよりもワシの護衛として付いてきたのでその分歩みが遅くなる。
そして何より獣はおろか盗賊などなどが出てくることが無く、安全と言うのが無聊をかこしてしまう、それも当然といえば当然、流石に二百名全員で移動は無理なので先行する部隊、ワシを護衛する部隊、そしてワシの後ろを固める部隊と三つに分かれている。ここに突撃してくるモノなど馬鹿以外の何物でも無いだろう。
もし居るとすればそれはワシらの数を越える群れか、単騎や少数で二百名を超える実力を持つモノだけ、だがまずそれもあり得ない、あったとしても前者であれば発見は容易であろうし、後者であればワシが気付かぬはずがない。
「平和なのはよい事じゃが、暇じゃのぉ」
ワシが乗っている馬車は息と同じ幌馬車で前後の入り口をぴっちりと閉じれるモノ、お蔭で雪も風も吹きこまないがその代わりに風景も眺めれない事が無聊をかこつ最大の原因になっている。
ただ風景を見れたとしても、この辺りはひたすら雪や岩などの殺風景だとアニスは言うが。
「寝て起きたら神都とかダメかのぉ」
「お嬢様、流石にそれは死んでしまいます」
くあぁとあくびを噛み殺しながら言えば、アニスが呆れた風に言うがワシにとってひと月、ふた月寝てすごすくらいわけはない。
無論それを言っても信じてもらえるわけが無いし、実際にするわけにもいかない。昔のことではあるが、ワシが長々と眠っていた時期、ワシの双子の子供カイルとライラが定期的に様子を見に来ていたそうなのだが、初めて来たときに呼吸や脈拍も殆ど無く体温も低くライラはワシが死んだと大いに慌てたそうだ、その時は冬眠などでそうなるという事を知っていたカイルが居たので大事には至らなかったそうだが、流石に今回はそうはいかないだろう。
「言葉通り死んだように眠れば大丈夫なのじゃが、まぁ確かに埃は被りたく無いしのぉ」
「普通、埃が被るほど寝たら死んでしまいますよ……」
流石にワシの前だからかアニスはため息をつくことは無いものの、またも呆れた様子を見せるアニスに苦笑いを返しつつ帰り着くまではダメでも、一日中くらいは良いだろうとゴロンと横になり尻尾を枕や布団にしてくぅくぅと寝息をたてはじめるのだった……。




