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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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3617手間

 心ここにあらずと言った様子の男爵の前で、クリスはふむと考え込む。


「辺境伯となるのであれば、ここでは少々手狭だな」


「私にはこの大きさでも分不相応でございますが……」


「男爵や子爵ならばこの程度でも良いが、辺境伯ならば屋敷の方が分不相応となる」


 クリスは男爵や子爵程度までならば、この屋敷でもギリギリ格は足りるが、辺境伯ともなればこの程度の屋敷に住んでいては吝嗇が過ぎると言われそうだ。

 とはいえクリスの言う男爵や子爵は、神都に住んでいるような身分こそ下位ではあるが、昔から居る格式高い者たちであろうし、地方を治めているような下位貴族とはそれこそ伯爵と男爵くらい規模が違ってくるとは思うので、男爵の言う分不相応という言葉も間違いではない、もちろん現時点ではと付くが。


「それに辺境伯の身であれば、専属の文官などを雇わねばならぬだろうし、この広さでは心もとない」


「専属の文官、ですか?」


「あぁ、本来は領を治めなければならない地位だ、その為に専属の文官などを雇わなければならないと決まっている」


「なるほど……」


 クリスは男爵に屋敷を広くする意味の一つに、格だけでなく人を多く雇わねばならぬからと言えば、男爵はその中の専属の文官という言葉に反応する。

 クリス曰く、辺境伯は本来であれば領地一つを治める地位にあり、その為に専属の文官など領を運営する為に不可欠な者たちを雇わなければならない最少人数が法で決まっているらしい。

 更に男爵の身では専属の文官などを雇う事は給料的にも法的にも厳しく、彼がやつれるほどに多忙なのは恐らくそのせいだろうと、クリスはワシにだけ聞こえる大きさの声で呟く。


「あとは騎士団を駐在させることになるから、屋敷にそれ用の場所を確保する必要もある」


「騎士団もですか」


「もちろんだとも」


「それは非常に助かるかと」


「どちらも陛下の承認が必要になるが、陞爵と合わせ決定事項だと思って行動するように」


「かしこまりました」


 専属の文官と騎士団の二つの分銅が天秤に乗った事で一気に気持ちが傾いたのか、先程までの様子とは違い陞爵に随分と前向きになったがそれもそうだろう。

 港町の様な人や物が多く行きかう場所では騎士団の有無が治安の良し悪しに大きくかかわってくる、それを自分自身も文官である彼も良くよく分かっているのだ、やはり人を動かすのは名誉よりも実利である。


「ですが、新しく御屋敷を建てるとしますと、この屋敷はどういたしましょうか」


「取り壊すなり貴賓館とするなり、好きにすればよい」


 どうやら新しい屋敷を造る事にも既に前向きになっているようで、移った後のこの屋敷をどうするかとクリスに聞いているが、先程までとは違い若干投げやり気味に好きにすればいいと手をひらひらと振るのだった……

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