3615手間
眼下に町を一望する小高い丘の上に建っていたのは、門から庭を通って車寄せと玄関があり、そこから左右に屋敷が伸びて端が数部屋分手前に居り曲がった三階建ての貴族の屋敷にありがちな一般的な形状の建物。
しかし、その屋根は地下のドワーフたちの屋敷のように平らであり、外観は町の他の建物同様に真っ白なので、実に目を引く建造物となっている。
「なるほど、これは一部界隈で流行りそうではあるが……」
「あの形状の屋根は、あまり雪が降らぬこの地域でなければ無理じゃろうな」
恐らく間取りこそ一般的な貴族の屋敷と相違なく、珍しさなど一切ないものであろうが、その外観は如何にも新しい物好きが飛びつきそうだ。
だが平らな屋根では雨はともかく、雪が常に降り続ける地域では致命的であり、何より白い外観は潮風などによる塩害浸蝕を防ぐこの地域でしか採れぬ材料を用いた塗装だったはずだ。
「やはり、この地域は観光が一般的になれば、更に重要度が増しそうだな」
「それを考えると、この大きさでも物足りない気がするのぉ」
一般的で裕福な平民や、下位の貴族からすれば十分すぎるほどに立派な建物であろうが、ワシらからすると一般的なと言わざるを得ない大きさだ。
将来的な発展を見込むのであればもっと大きな屋敷の方が良いだろうが、確かこの町を任せた文官は、前に与えた家でも大きすぎると恐縮していたような覚えがある。
「だったらこの屋敷を与えられて、かなり胃が痛い思いをしていそうだが、発展の度合いを鑑みるならば、もっと上位の者に変えてやるか?」
「いや、この発展を支えたのは、間違いなくその者の功績じゃろう。発展したからと言って取り上げるような真似は、流石にどうかと思うがの。それに港町を回す能力を持った者を他に移すのは勿体なかろう」
「確かに、それもそうだね。ならばその功績に相応しい地位を与えるか。」
「その方が良いじゃろうな」
それはそれで彼の胃に被害が行きそうだが、有能な人材を正当に評価しているだけなので、己の有能さを示した自業自得とも言えよう。
分不相応だと思うのであれば、そもそも最初から辞退するか、もっと仕事ができる者に立場を譲ればよかっただけだ。
「確か…… 彼は男爵だったよね」
「親から爵位を一つ譲られたと言っておったかな」
「ならば子爵か?」
「これから更に発展してゆく港町を治めるのであれば、子爵では力不足ではないかの」
「ならば伯爵辺り…… いや、いっそ辺境伯を与えるべきか」
「ふむ、海辺であるしの、王国はともかく帝国側からのちょっかいがある可能性を考えると、その方が良かろう」
彼の者の胃がねじ切れそうな話を、まるで手土産を見繕うかのように話し合っている内に、景色を見せる為かそれとも存外急峻な坂道を登るのに馬車を曳く馬が頑張っていたのか、ゆっくりと進んでいた馬車はようやく屋敷の前へと辿り着き、門を警備していた騎士の緊張した様子と共に迎え入れられ、これまたゆっくりと潮風のせいか簡素な庭を進むのだった……




