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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
3637/3639

3614手間

 門を潜ればすぐにここに来た商人たちに向けた宿であろうか、馬や荷馬車を停める為の馬房などを備えた大きな建物が幾つか並び、それだけこの町が賑わっていることを示している。

 その奥には他所からこの町にやって来た者向けの小綺麗な商店が続き、馬車が余裕ですれ違える広さの道路も、大小の岩を砕きセメントで固めたモノでしっかりと舗装されている。

 

「前来た時とは見違えたのぉ」


「確かに、前はまだ遺構の名残が感じられたが、今は全くそんな場所に建っているとは思えないな」


 少なくとも車窓からは崩れた家の跡地などは見当たらない。

 何より人通りが多く、人の出入りを制限していたとはいえ閑散としていたあの頃とは雲泥の差だ。


「税収などで賑わっておるのは知っておったが、ここまでとはのぉ」


「ここでしか手に入らない物は多いからね」


 海産物はもちろん、その海産物に釣られてやってきたドワーフたちが作る細工物、その中でも彼らがあまり良くないと思った物に関しては自由に売っても良いとワシが許可を出したので、それを目当てにやってきている者も多いのだ。

 ドワーフにとっては微妙な品だとしても、大抵の者にとっては十分以上に魅力的な品だ、特に裕福な平民にとってはこれ以上ない物であろう。


「さて、新しい館は前とは別の場所に移したのじゃったな」


「丘の上に移したのは知っているが」


 町長の館を町の規模に合わせて増築する際に、どうせ増築では足りないだろうからと、空いている土地にその当時の町の規模からは考えられないくらいに大きな館を建てたのだ。

 その時はただ単にドワーフたちが大きな建物を造りたかっただけのようだったが、今となれば先見の明があったと言わざるを得ないだろう。


「ほう、これはなかなかに良い風景じゃな」


「これを見る為だけに、ここに来る価値がありそうだな」


 新しい館は小高い丘の上にあるので、そこに行く道中、必然的に町を見下ろすことになるのだが、下り坂に張り付くように幾つもの白い建物が並び、更に視線を先へと進めれば碧い海が銀の光を反射して、その光の中を幾つもの船がゆらゆらと浮かんでいる。

 風光明媚というのは正にこういう事を言うのだろうというのを、よくよく表しているかのような風景が広がっている。


「この風景を毎日見られるとなると、なかなか贅沢な場所に住んでおるのぉ」


「流石に毎日見れば見飽きるだろうし、この規模の町を回してるんだ、忙しくてそれどころじゃないんじゃないかな」


「確かにの」


 町が発展すればするほど、そこを統治する者が処理すべきことは増えてゆく。

 となれば当然日々忙殺され、このような風光明媚な場所に居ながらそれに浸ることも出来ないだろうと、クリスは苦笑いしつつも憐れみの篭った声でそうつぶやくのだった……

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