3610手間
ワシとドワーフたちが話し始めた為、手が止まっていたクリスが話がひと段落した隙を見計らい、ようやく魚卵の燻製を口にする。
「なるほど、確かにこの風味や食感は好みが分かれそうだね」
「じゃあ、次はこっちを食べてみてくれ」
「こっちはセルカも食べてはいないんだったかな?」
「そうじゃな、炙ったものは食べておらぬ」
「なら一緒に食べないか?」
「ふむ、そうじゃな」
クリスの提案に、慌てて侍女が厨房へと向かう。
すでにクリスに饗されている皿から食べても良いのだが、流石にそれは王族としてはまずいので、どうせ表面を軽く炙るだけだすぐに持ってくるであろうし、先にクリスに燻製の感想を聞く。
「そうだね…… これは渋みの少ない果実酒と合わせるのが良さそうかな。ねっとりとした食感は苦手な者も多いだろうし、チーズのように削ってかければ、好む者は多いと思うよ」
「ふむ、やはりクリスもそう思うかえ」
「あと、最近は魚介類独特の匂いにも慣れてきたから問題ないけれども、慣れない者にはきついかもしれないな」
「それなら炙ったやつがいいかもな、こっちは少し匂いが軽減さるはずだ」
「そうか、それは楽しみだ」
そんな風に話している内に、侍女がワシの分の炙った魚卵の燻製を持って来たので、さっそくクリスと共に試食する。
「これは、確かに魚の臭みが軽減されているが」
「なるほど、これは更に好みが分かれそうじゃのぉ」
味そのものは魚の臭みが軽減され、食べ慣れていない者にも食べやすくはなっているだろうが、それ以上に食感の変化で更にはっきりと好みが分かれそうに思える。
「このとろりとした食感は、駄目な者は絶対に駄目だろうな」
「あぁ、ドワーフでもそこが論点に良くなってる。実は炙りが好きなドワーフは少数派なんだ、ただ少数派故になかなか過激な奴も多くてなぁ……」
「なるほどのぉ」
「とはいえ、これは流行るという事は無さそうかな」
「だろうな、これ自体作るのに結構手間がかかるし、流行るほど出回るのは困る」
作り方自体は単純ではあるが、下拵えの手間がなかなかにかかるらしく、収入の為に売れるのは構わないが需要が増えすぎるのも問題だから流行りとまではいかない方がありがたいと、ドワーフたちが頷く中、ぼそりと呟かれた自分たちが食べる分がなくなるしなという声はワシにだけ届いているのだった……




