1073手間
何を焦れたかは知らないが、ワシらの感覚からすればあまりにも悠長でぬるい攻めてを一気に変えてきたと思った矢先、長老の一言で肩透かしを食らった気分だ。
「あいつらが捕まる可能性も考えていたんだろうな、流石にその辺りは教えられてなかったようだ」
「そうかえ、さしずめあやつらはカナリヤ役ということかの」
「ほう、地上にもカナリヤがあるのか」
「む? むしろ地上にしかおらんと思うのじゃが?」
赤蜘蛛をけしかけて、その後から消耗前提の強行偵察を送り出してから本隊が突入してくる。
その偵察部隊が情報を持ち帰れば良し、ワシが居なければ確実に被害は出ていたであろうし、使い潰されたところで向こうには差しさわりの無い奴らなのだろう。
もし全滅したのであれば向こうも対応を変えるのではと思い、まるで鉱山のカナリヤだと思って口にしたのだが、意外なことに長老はカナリヤを知っていた。
しかし、何というかかみ合わない、何というか違うモノを指しているような気がするのだが。
「いやいや、カナリヤ石はこちらにも当然あるぞ」
「石? 鳥ではなく?」
「石だ、ま、石という程小さくは無いがな? それよりも、トリってなんだ?」
「まぁ、そうじゃよな、コウモリすらおらんのじゃからのぉ……」
コウモリすらいない深い深い洞窟なのだから、当然鳥など居る訳がなく、そうなってくるとカナリヤ石というモノが気になって来る。
「そのカナリヤ石というのはどういう物なのじゃ?」
「なに、単純なモノだよ毒の空気に触れると色が変わるだけだ、それが重要なんだけれどもな。そのままじゃ使い辛いから、石英と混ぜて溶かしてランタンやカンテラのシェードに使うんだ。毒の空気に触れると白っぽい色から赤く変わるんだがな、溶かして薄く延ばすとその変化がよく分かるんだよ、シェードに使えば光の色も変化して更に分かりやすい、一度色が変化するともう元には戻らないから使い捨てなのが欠点だがな」
「なるほどのぉ、確かにそれは便利そうじゃ」
なるほど、天然の毒ガス探知機というわけか、採掘を至上の一つとする種族だけあって、むしろ食料確保の手段でもあるのだしその辺りの対策は死活問題であるからそんな面白い特性を持つ石を活用しない訳が無い。
それにしても、カナリヤなど居ないのにそれその物な機能の鉱石にその名前が付いているということは、全くの偶然などではなく遺跡があるということからも、ソレを知っている者がここにも居たのだろう。
「面白い話じゃが、それはまた今度じゃな」
「あ、あぁ、そうだな。といってもあいつらを捕まえた広場にある程度武装した者を常駐させて、その先に常に偵察の者たちを送るくらいしか手は無いがな、幸い赤蜘蛛は死んだし人にだけ注意していればいいからな」
「ふぅむ、警戒するのはそこだけでいいのかえ?」
「あぁ、安全にここに来ようとするならばそこしかない」
「万が一その危険な道を踏破されたらどうなるのじゃ?」
「街が無防備に晒されることになる」
危険な道というのがどれ程の危険度かは分からない、しかし、こちらが待ち構えていると向こうが予測するのは想像に難くない。
なればこそ危険な道を通って奇襲してくる可能性は十分ある、鵯越の逆落とししかり、難所だから大丈夫だと高を括っていると痛い目を見かねない。
それを指摘すればしばらく長老は悩んでいたものの、街に居るいわゆる非戦闘員に被害が出る可能性を考えればと、ワシの指摘した危険な道も警戒すると約束してくれたのだった……




