1069手間
つい数瞬前まであった死骸は夢か現かと思うほどきれいさっぱりと消え去り、驚く長老やドノヴァン以上に恐れ戦いているのは懲罰部隊のドワーフたちだろう。
何せいま赤蜘蛛の死骸を消し去った炎がぐるりとまではいかないが、自分たちの目の前を覆っているのだから。
手枷首枷着けられて首筋にひやりと刃を突きつけられたか、括り縄に首を突っ込んだ気分であろうか。
どちらもドワーフは使う以前に知りもしない気はするが、とまれ絶望的状況と思っているのは間違いないだろう。
目は口程に物を言うとはよく言うが、口元が髭で見えないドワーフでは、死んだ魚のような目が特によく目立つ。
「こやつらはどうするかの?」
「どうするってなぁ…… さっきの奴と持ってる情報は大差ないだろうし」
どうも最初に捕まった奴はワシの脅しが効いていたのか、するりするりと目の粗いザルに水を被せたかのように洗いざらい喋ったらしく、ドノヴァンは捕らえられた奴らに情報的価値を感じていないようだ。
しかし、彼らの処遇をどうするかは悩んでいるらしく、ドノヴァンは自分の後頭部をぽんぽんと右手で軽く叩きながら、さてどうしようかと呟いている。
「ふぅむ、おぬしらのところで重犯罪者の処遇はどうしておるのじゃ?」
「重犯罪ってぇと?」
「殺人やら放火やらじゃな」
「んー、そんな犯罪は起きてねぇからなぁ…… 長老は知らないか?」
ドノヴァンがいつ生まれたのかは知らないが、長命なドワーフが犯罪が起きたか把握していない訳では無く、起きてないというのだから相当長いこと平和だったのだろう。
長老もドノヴァンに聞かれ腕を組み考えているが、首を捻っているところから思いついていないのか、なんとも羨ましいことである。
是非とも見習いたいところだが、短命で気質も全く違う者が多いそもそもの母数が桁違いなヒューマンには少々厳しいか。
数が少なく気質も皆殆ど同じなドワーフだからこその平和だったのだろう、それを考えると今ドノヴァンらを攻めているドワーフたちの異質さが際立つ。
「確か…… 二代か三代前の長老の頃くらいだったか、理由は忘れたが殺人が起きたんだったかな」
「それでそいつはどうしたんだ?」
「溶岩中に突き落としたんだったかな? つっても、反省もなんもしてない上に、また同じことしようとしたらしくてな、流石にこれはいかんとふんじばってことらしい」
「そもそも、こいつらは俺たちを殺しに来たんだしそれが妥当か? あ、そういや、あんたの所はどうしてるんだ?」
「ん? ワシのところかえ?」
ドノヴァンや長老だけでなく、近くで聞いていたドワーフたちまで興味があるのか、皆一斉にうんと首を縦に振る。
「ふむ、そうじゃな。盗賊、まぁ、人の物や人そのものを盗んで売りさばいたりすることを生業にしとる者の場合は、その場ですぱっと首を切るのも許可されておるの」
「なんだそれ恐ろしいな、適当にこいつが盗んだって叫べば切れるのか?」
「いやいや、流石にそれはないの、武器やらもって襲ってきた場合のみじゃよ、それ以外の場合は捕縛がせいぜいじゃな、無論、その後の沙汰次第では斧ですぱっと首を落すがのぉ」
「地上怖い、よくそんなんで人が居なくならないな」
「数が全く違うからのぉ、どうしても悪いことを考える者も増えてしまうしのぉ」
もちろんワシが例に出したのは、それこそ極端な話ではあるが、比べるべくもなくワシらの方が情けないのは分かり切ったこと。
そして何とも憐れなことに、ワシとドノヴァンの会話をしっかりと聞いていた懲罰部隊のドワーフたちは、果ては溶岩遊泳か斬首かと死んだ魚の目を塩漬けされた魚の目に変え、ある者は天を仰ぎ、ある者は地に頽れと何とも言えぬ様相を呈しているのだった……




