1066手間
ハクハクとしばし放心していた懲罰部隊のドワーフたちだが、自身を取り戻しギッと音がしそうなほどワシを睨みつけると、無駄だというのに再びワシに向かい発砲してくる。
もしかしたらまだ理解できていないかもしれない、小指の爪よりも少し大きいくらいの弾丸とはいえ何発も撃たれては、ワシの小さい手では握りこぶしの中から零れてしまう。
握りしめていた弾丸を放し、そこからは飛んでくる弾丸を平手で虫を叩くようにして弾いていると、ふと妙なことに気付く。
彼ら懲罰部隊のドワーフが持つ魔導銃は、ドノヴァンらが持つ魔導銃とは見た目こそ違うが、撃った後に必死になって銃口から弾を先込めしているのだが、何人かはその動作をせずにあまり早い間隔とはいえないが魔導銃を連射しているのだ。
「ふむ? 弾倉付きのモノが作られておるのかの」
ドノヴァンたちよりもかなり前から魔導銃を開発していたのだ、その研究もドノヴァンたちよりも一歩も二歩も進んでいてもおかしくはない。
ワシの殆ど独り言のような語りかけではあったが、魔導銃を連射しているドワーフの一人が驚いたような声をあげた。
「語るに落ちる以前の問題じゃのぉ」
「くそっ、ようやく俺たちにも数丁周って来る程度だってのに、何であの古臭いバカどもが知ってるんだ」
「小物はこう、何で余計なことを喋りたがるんじゃろうなぁ」
まるで台本にでも書かれていたかのように重要なことをベラベラと喋る奴に、ワシが思わず呆れた風にこぼせばそれが癪に障ったのか、連射速度こそ変わらないが魔導銃に込めるマナを増やしたのだろう、飛んでくる弾丸の威力と速度が増す。
とはいえいくら弾丸の勢いが強くなろうとも、弾丸そのものにろくにマナが込められていない攻撃などワシにかすり傷一つ付けることは不可能だ。
そもそも、ワシが素手で弾丸を弾いている時点で、当たったところで無意味だということに気付かないのだろうか。
いや、弾丸を剣と例えるならば剣を素手で受け止めることは達人でも出来ないだろうが、素手で剣を逸らすことくらいは達人であれば可能だろう。
だから素手で剣を逸らせる者が居たからといって、その者が即ち剣を素手で受け止めれると思うわけがないのも道理か。
「ま、それでも服にこれ以上穴が開くのは嫌じゃからの」
体に飛んでくる弾丸だけ弾き、頭にくる弾丸だけ故意に受ける。
こめかみの少し上辺りに弾丸が当たり、撃ったであろうドワーフが「よっしゃ!」と声をあげる。
しかし、ワシは少々首を動かした程度で、血の一滴を流すことはおろかかすり傷一つ負うことはない、ましてや頭が吹き飛ぶことなどあり得ない。
「マナが篭っておらぬ攻撃にしては、まぁ、そこそこの威力がある方ではないかの?」
「なっ」
先ほどまで瀑布の傍に居るかと思うほどの音がピタリと鳴りやみ、懲罰部隊のドワーフたちは唖然とした様子で口々にあり得ないと呟き、力が抜けたのか持っていた魔導銃をだらりと下へと向ける。
防ぐことまではあり得ないと思いつつもまだしも理解の範疇だったのだろう、しかし、防御することなく弾丸を受けて無傷というのは流石に理解が及ばなかったのか、すっかりと戦意を喪失してしまったようだ。
厳密に言えば、ワシは有り余るほどのマナを利用して常に防御をしているようなものだが、大抵の者にとって防御とは何らかの行動が伴うものだ、何もしていないように見えて実は防御しているなどと理解できるのは、極々一部の者たちだけだろう。
「さておぬしらの攻撃は全て無駄とわかったかの? ここいらで降伏してくれるとワシも手間が無くて良いのじゃがのぉ」
「ぐっ、ぐぅう」
先ほどまでの攻撃などまるでなかった風に喋るワシに、失っていた戦意を僅かにでも取り戻したのか、何人かが銃口を再びワシへと突きつける。
しかし、その腰は引けて、いや勝てぬと判断し逃げることを選んだのだろう、じりじりと後退し始めた。
しかも後ろの方にいた何人かは、ワシに背を向け暗闇の中をこっそりと扉に向かい始めてるではないか。
当然逃がす筈は無く、扉を塞ぐようにして蒼い炎の壁を出現させる、しかし逃げ場を無くしたことで破れかぶれになって攻撃されても面倒だと、次いでとばかりに壁際に居た懲罰部隊をすっかりと隔離するようにワシと彼らの間にも同じ様に青い炎の壁を出現させる。
「知らんかったかの…? ワシからは逃げられんのじゃ…!!!」
流石に逃げ場も潰されさしもの彼らも、もうダメだと気付いたのだろう、次々にがちゃりがちゃりと魔導銃を取り落とし、両膝を地面につき何も持ってないと示すように両手を上げるのを見て、ワシはふふんと得意げにこれでもかと胸を張るのだった……




