1065手間
響く足音がドワーフたちにも聞こえるほど近くなり、否が応でもドワーフたちの緊張感が高まる。
しばらくすると足音が止まり、布か何かでも光源に被せているのか、ひどくぼんやりとした光が真っ暗な広場をゆらゆらと照らしはじめた。
ワシやドノヴァン、長老とその他数名のドワーフは赤蜘蛛が入って来た扉の真上の回廊に身を潜めているので、同じ扉から中を窺っているらしき者たちの姿は見えない。
しかし、いくら真っ暗で何も見えないとはいえ、聞き耳を立てるなど中の様子をじっくりと観察する前に光を使うなど、よほど自分の力に自信があるか間抜けであろうことは想像に難くない。
「オイオイ、誰もいねぇじゃねえか」
「蜘蛛も死んでるしもう引き上げちまったのか?」
「ばっか、蜘蛛の死骸放置したまま帰るわけねぇだろ」
「先に突っ込んで行ったバカの銃にビビって逃げたんじゃね」
一応声を潜めているつもりなのだろう、息が抜けるような話し方をしているが、元が大声で話す奴らなのだろう全く声を隠せていない。
しかも話している内容や喋り方がまるっきりチンピラや下っ端のそれだ、奴らが懲罰部隊というのもさもありなん。
ただバカはバカでも考え無しのバカでは無い様で、移動し始めたようなのだが広場の中央を突っ切ることはせず、壁沿いにそろりそろりと動いている。
壁沿い、つまり回廊の下に隠れるように移動しているせいでワシらからその姿は見えない、ただ、まだ話している上に灯りを消してないので場所は丸わかりだが。
しかしこれでは一方からしか射撃できない、出来れば包囲して投降を促したいところなのだが、四方八方から包囲されているのならばともかく一方だけでは反撃してくるかもしれない。
それでは双方に少なくない被害が出るだろう、相手側の被害は正直どうでもいいが情報源が少なくなるというのは困る。
懲罰部隊故にそこまで大したモノは持ってい無いだろうが、最新式、かどうかは分からないが魔導銃というおもちゃを持たされているのだ、完全なる捨て駒という訳でも無いだろうしそれなりに有用なモノは持っているかもしれない。
なればやることは一つ、いつも通りだ。
「ワシが行く」
息を呑む音にすらかき消されそうなほど小さな声で一言ドノヴァンに告げ、彼が何やら動くよりも早くワシは手すりの上に飛び乗り、そのまま手すりの上を駆けて懲罰部隊の真上まで移動する。
音も無く駆けるワシに驚くドワーフたちであるが、獣人からすれば音も無く動くなど子供でも出来ること。
手すりの影に隠れているドワーフたちがワシが通り過ぎるまで気付かなかったのだから、当然下でまだ喋りながら移動してる懲罰部隊のドワーフが気付く訳も無し。
左腕を晶石の魔手にして、薙刀を出現させながら手すりから飛び降りる。
「そこまでじゃ、大人しく投降するがよい」
「こいつッ、どこから!」
音も無く現れたワシに驚きながらも、各々が手にした魔導銃をワシへと向ける辺り懲罰部隊ではあるが、なかなかに練度は高いのかもしれない。
そしてワシに近い五人が誰何も警告も何も無くワシを倒そうと、魔導銃が高らかに咆哮をあげる。
しかし、最初からワシを狙っているのならば何するものぞ、薙刀の間合いよりもやや遠い距離から放たれた弾丸はその姿を消す。
「ワシに当てたくば、完全に意識の外か、動けぬ様にしてからでなくばのぉ」
ワシが言うより早いか、次いで他の者たちが発砲するが、やはりその弾丸は効果を発揮することなく消えてゆく。
「遅い遅い、雷の如くでなければその程度、見切るのなぞ容易いからの」
「こんな距離で外すはずが……」
何が起こったのか理解できていないドワーフたちに向かい、ワシはぎゅっと握った右手を突き出しゆっくりと手を開けば、パラパラと丸い金属の弾が零れ落ちる。
そこでようやく何が起こったのか理解できたのだろう、しかし声にはならずはくはくと口を開け閉めするだけのドワーフたちにワシはニヤリと笑いかけるのだった……




