1064手間
ワシらは回廊へと上り、持っていたカンテラ灯りを消して回廊の手すりの影に身を潜めじっと機を待つ。
盾持ちは回廊へと上る階段を塞ぎ、槍持ちは間抜けにも上ろうとした者を仕留める為に階段をぐるりと取り囲む。
魔導銃を持った者たちは、回廊の長辺二つに散らばり油断した者を打ち据える算段だ。
奴らも魔導銃を持っているので一方的な優位にはならないが、回廊の手すりは隙間の塀のように隙間の無い構造なので、頭を撃ち抜かれない限りは安全だ。
「本当に後続の者が来るのかのぉ」
「さっき、ごう、尋問した結果、奴らはかなり焦っているらしいからな、確実に来る」
囁くような小さな声で隣にいるドノヴァンに話しかければ、彼は何やら物騒なことを言いかけたが、一度小さく咳払いをすると言い直して後続の者は来ると断言した。
ワシはわざわざ言い直さなくてもいいのにと思いながら、それよりもドノヴァンが断言した根拠が気になる。
「何故断言できるのじゃ?」
「奴ら、赤蜘蛛の後に続いてこっちを攻撃しろと指示されていたらしい」
「ふむ、確かに指示されておったのならば来る可能性は高いじゃろうが、それでも断言できる根拠にはならんじゃろう」
何も指示されていないよりも指示されていたのならば来る可能性はあるが、それでもやはりまだ断言するには至らず、可能性が非常に高い止まりでしかない。
「奴らは、なんて言ったかな…… そう、懲罰部隊だ」
「懲罰部隊とな?」
咄嗟に名前が出てこなかったのか、ドノヴァンが少し天を仰ぐように視線を動かして思い出したのだろう、ポンと手を叩こうとしてすんでのところで手を止め、思い出した名前を呟く。
「赤蜘蛛をけしかけてから、その後追撃するという指示を受けていたらしい。何をやったか知らないが、指示を達成できれば良し、指示を達成できなければ戻ったところで処刑だそうだ」
「向こうは人手が足らぬというのに、よくもそう思い切ったことをするもんじゃな」
「それだけのことをしでかしたのだろう、だからこそ確実に来ると断言できる」
懲罰部隊と聞き刑を軽くするためならば、確かに真面目に指示をこなすだろうと思っていたが、やるかやられるかの極端なモノだとは思いもしなかった。
要は捨て駒扱いではあるが、やらねば後が無く捨て鉢になってやって来る可能性もある。
「じゃが、それならばこちらに寝返るようにすることも出来るのではないかえ?」
「それは無理だろうな、どうやら向こうは余程俺たちを舐めくさっているらしく、俺たちが早晩滅ぶと思っているらしくてな、落盤間近な坑道には居たくないそうだ」
流石にその程度考え付いていたのか、もう捕虜にした奴に聞いたらしい。
だがその返事はつれないもので、恐らくは泥船に乗ったなどと同じニュアンスであろう言葉を返されたと。
しかし、ドノヴァンたちは滅びを受け入れていたように思うのだが、その声には隠しようのない苛立ちというか怒りを感じた。
あれだろうか、自虐するのは構わないが人に言われると腹が立つという……。
そんなことを考えていると、ワシの耳に微かではあるが複数の足音が聞こえトントンとドノヴァンの肩を叩く。
ワシの意図を察したドノヴァンは、ワシと同じ様に二人のドワーフの肩を叩くと、彼らは身を屈めたまま移動しまた他のドワーフたちに知らせに行く。
そうしてワシの耳に届く足音が徐々に徐々に大きくなる中、ドワーフたちの緊張も高まってゆくのだった……




