1061手間
雷の残響が収まる頃、ようやく呆けていたドワーフたちが動き出し、回廊の手すりに立つワシを仰ぎ見る。
そこへドスドスといつの間にやら上って来ていたのか、長老が走ってきた。
「何だ今のは!」
「なんだも何もワシの法術じゃ」
「いやいや、法術であの威力は出ないだろう、魔法ならあり得るのかも知れんが、見たことが無いからな」
「ほほう、法術と魔法の違いが分かるのかえ」
「体内にあるマナを使うのが法術で、空気中にあるマナを使うのが魔法だろう? 前者は感覚で分かるが、生憎と物に込められたマナは見えるが、空気中にあるマナは見えんからな、後者はそれが正しいとははっきり言えん」
「んむんむ、概ねそんなところじゃな」
驚くべきことに長老は法術と魔法を、しっかりと違うモノと認識していた。
そういえば、法術で雷を生み出すことには驚いてはいたが、法術自体には疑問を覚えていなかったなと思い出す。
「その言い方だと、間違っているということか?」
「間違ってはおらんのじゃ、法術はその通りであるし、魔法も主に空気中のマナを使うだけのことじゃな」
「うむむ、詳しく聞きたいが今はあれだな」
長老はあご髭をしごきながら名残惜しそうに、ワシから視線を逸らしワシもその方を見れば、おっかなびっくり動かなくなった赤蜘蛛に近づき、手に持った槍で突くドワーフたちの姿があった。
「ふむ、ワシが全て雷で焼いてしもうたが、何ぞ使う予定でもあったかの?」
「いや、あれらに利用価値はない。いや、研究すればあるかもしれないが研究するにはあまりにもリスクが大きすぎる、万が一臭い袋以外にもやつらを呼び寄せる何かがあったらと考えるとな」
「なるほどのぉ」
確かにリスクに見合ったリターンが得られる確証があるならばともかく、それも無しに街一つ潰す可能性のあるリスクを抱え込むなど言語道断だ。
「それと、奴らの甲殻は金属や石程ではないがなかなかの強度がある、昔はその甲殻をどうにか利用できないかと考えたらしいが、死ぬとかなり脆く柔らかくなるらしくてな」
「ふむ、恐らくじゃが生きてる内は己のマナで甲殻を強化しておるのじゃろうな、ワシが丈夫で力が強いのも同じ理由じゃ」
「ほほう、それは興味深い」
赤蜘蛛を眺めながら話すワシを、ちらと見た長老の目がキランと光ったような気がするが、猫でもあるまいしワシの気のせいだろう。
その時、ちょうど赤蜘蛛の死亡を確認し終えたのだろう、安心したように槍を振るドワーフの後ろ、赤蜘蛛が入って来た扉の影に何やらコソコソと何かを確認するように周囲を見回すドワーフの姿を見つけるのだった……




