1057手間
洞窟というにはやや整った、坑道のような通路をドワーフたちの最後尾を歩きながら、長老に今回の作戦とやらを聞かされる。
「盾持ちを前面に出し、奴らが広場に入り混乱したところを魔導銃で出来る限り頭数を減らす。ギリギリまで減らしたら盾に隠れつつ槍で奴らの動きを止め、槌持ちが頭を潰してトドメを刺す。槌の役目をを一緒にやってもらうことになるが、絶対に腹だけは潰すな」
「ほう、それは何故じゃ?」
「あいつらは腹に臭い袋がある、潰したら飛び散って危険だからな」
「ふむ、しかし戦ってる最中に、その臭いとやらを付けられはせんかの?」
「それは大丈夫だ、あいつらは尻から汁を飛ばすんだが、デカいせいか正面には飛ばせないんだ。あと頭が悪いから戦ってる最中は獲物に夢中で、攻撃以外の行動をしてこないんだ」
「なるほど、それなら安心じゃな」
何とも間抜けな話だが、前者は戦う者にとってはありがたい限りだろう、だが後者の特徴は頭が悪いというよりも、赤蜘蛛とやらの凶暴な性質を表しているのでは無いだろうか。
とまれ、頭を潰し腹は狙わないということ以外は特に突飛なことをする訳でも無い、実に堅実な戦法と言えるだろう。
だからこそワシを連れて行くことにさしたる逡巡も無かったのだろう、というよりも隣のドワーフとのいざこざの死傷者で人手が足りなく、猫の手もとい狐の手でも借りたい状況だったのかもしれない。
「安心かどうかはともかく、本当にいいのか? 奴らの甲殻は生半可な刃物は通じないほど硬い、いくら丈夫らしいとはいえ流石に素手で殴るのはお勧めできないが」
「大丈夫じゃ、ワシの体は稀代の名剣でも傷一つ付かぬからの」
「うちらの中にも偶に驚く位に丈夫な奴が産まれてくるが、流石に刃物で傷はつくぞ?」
やはり元々マナが多い種族だからだろう、長老の巨躯を筆頭とした特筆した能力を持った者が産まれるからか、ワシが丈夫ということは疑っていないようだが、どこまで丈夫かは流石に疑っているようだ。
とはいえわざわざここで刃物で体を傷付ける必要も無し、わざと蜘蛛の攻撃を受ける趣味も無いので、証明してまで信じてもらおうという考えはない。
「じゃが、ふむ、そうじゃな。魔導銃の斉射にワシも混じって法術を撃とうかの、あれは近くの者に飛び散る性質があるからの、至近距離で撃つのは危ないからのぉ」
「そうなのか、ふむ、わかった」
ワシの雷は法術によるものなので、ある程度、いや完璧な制御が効く。
しかし、敵味方、着ている鎧や武器などを一々識別してというのは面倒極まりない。
ならば魔導銃と一緒に撃ち込むのが良いだろう、何せそうすれば確実にそれだけで片が付く。
何せ雷だ、火や氷と違ってそうやすやすと防がれる類のモノではない。
たとえ赤蜘蛛の甲殻が絶縁体であろうとも、ワシのマナをもってすればその上からねじ込むことも容易い。
むしろそうしなければドワーフに多少であろうとも犠牲が出る可能性がある、ここまで用意周到にしているのならばとも思うかもしれないが、逆に言えばここまで用意周到にしなければならない相手ということだ。
相手に不利な地形を用意し、遠距離からの先制攻撃からの一連の流れ、その流れを作る為にドワーフたちの中には決死の覚悟を秘めている者もいるかもしれない、しかしワシが居るならば彼らに怪我などはさせない。
ワシが一人勝手にやる気に満ち、ふんふんと鼻息荒いことに、ワシの内心など知る由も無い長老とドノヴァンが揃って首を傾げる。
そうして少し他のことも長老と話していると、いつの間にやら赤蜘蛛を迎え撃つ為の場所にワシらはたどり着くのだった……




