1056手間
地下に居るからか、雷など見たことないであろう長老は興味深げにワシの手と手の間に迸る紫電を眺めているが、触れるのは危険ということは分かるのだろう、眺めるだけに留めている。
だがこれ以上見せていると好奇心に負けて触れてきそうなので、両手を握りこみ迸る紫電を消す。
「ところで、いつまでもここで悠長にしておっても良いのかえ?」
「あぁ、問題ない。外には赤蜘蛛退治に使う広場があるんだが、そこに誘導する手筈をいま整えているところだ」
「ふむ、なるほどのぉ」
話を聞く限りワシらが魔物に対峙してきたのと同様、長く悩まされている問題なのだろうし、その辺りに手抜かりは無いか。
現に他に集まっているドワーフたちも、ワシのことで驚いてはいるものの必要以上に焦っている様子は無い。
「とはいえ、そろそろ出発した方が良いだろう」
ふむと長老が一つ呟くと、先程までの気の抜けた様子とは一転した、髭で見えないが恐らく鋭い表情でドノヴァンが出発の号令を発する。
その号令を聞いた広場に集まったドワーフたちが、各々持った武器を掲げて野太い鬨の声をあげる。
そしてドワーフの何人かが門の左右、やや離れたところにある小屋にはいると巨大な門が、大きさの割にやや小さな重いものを引き摺る音ともに左右に開いて行く。
「では、行こうか」
「んむ」
門を開けると同時に静かになったドワーフたちが、ぞろぞろと開いた門から隊列なぞ知ったことかといった様子で我先にと出て行く。
その後に続き、ワシらも出ればワシの背後でゴゴゴゴと門が閉まってゆく。
ゴコンと重い音を立て、完全に門が閉まるが周囲が暗闇に閉ざされることはなく、先に出ていたドワーフたちが持つカンテラが周囲をゆるゆると照らし出す。
決して煌々と周囲を照らす光量ではないが、誰一人気にした様子がないのは、ワシら獣人と同様にドワーフたちも暗闇に強い目をしているのだろう。
「地上の民は暗闇では目が見えないと伝えられていたが、ふむ、どうやら違うようだな」
「いや、ワシをはじめとした獣人は暗闇でも目が見えるがの、地上の大多数を占めるヒューマンはおぬしらに伝わってる通りじゃよ」
「そうか、やはり何事も実際に接したりしなければ分からないことだらけだな」
「そうじゃな」
しみじみと長老が呟き、ワシもそれに同意して鷹揚に頷く。
「そういえば、ランタンを持っておるようじゃが、大丈夫なのかの?」
「大丈夫とはどういうことだ?」
「いや、赤蜘蛛とやらに奇襲を受けんかの?」
「それは大丈夫だ、あいつらは目が見えないからな。その代わりに臭いと音、というか振動か、そして熱に敏感だ。だがそれも狭い場所に限る、どうやってそれらを認識してるかよく分かってないが、広い場所では上手くそれらが機能しないみたいでなあいつらは広い場所に出ると混乱する。で、最初の大丈夫かという質問に答えると、この先はかなり大きな広場になっている、だから大丈夫だ」
「ほほう、なるほどのぉ」
特化したモノは強い、しかしその特化したモノの足元を掬えば途端に弱体化するというのは良くある話で。
なるほど、だからこその余裕かとドワーフたちの集団に続きながら、ワシはうんうんと頷くのだった……




