1050手間
未だぶつぶつと呟きトリップから戻らぬ長老を尻目に、ワシはドノヴァンからここ数巡りの相手方の動きを聞く。
「ふむ、小競り合いというても、お互いに魔導銃を幾らか撃ちあうだけ、というところなのかの?」
「概ねその通りだ、設置型の盾に隠れて弾切れになるまで撃って引く、不用意に盾の外に身を晒したバカが弾に当たるくらいで、そう怪我人が出る訳でもない。ただ、業腹なことに向こうの魔導銃の方が性能がいいのと、こちらより頻繁に偵察というかこちらにちょっかいを掛けてくるせいで、じわじわと追い詰められているような状況なんだ」
「しかし、ワシがこう無責任に言うのもなんじゃが、逃げようとは思わなかったのかえ?」
「前も言ったが、この周囲の岩は硬くてな、穴掘って奇襲されることも無い代わりに穴掘って退路を確保することが出来ないんだ、それに他の所に行こうにも洞窟は全部隣のとこの近くを通るせいで、住民をそこから逃がすってことも出来ない、少数ならばともかく住民全員をとなるとな」
なるほど、何で向こうが積極的に攻めてこないかと疑問に思っていたが、それはこちらが袋小路だからだったか。
撃たれれば反撃してくるが、決して反攻には転じてこない、そんな相手ならばじわじわと水滴で岩を穿つが如くの攻勢でも問題無いのだろう。
何せお互いドワーフだ、ヒューマンにとっては一生に等しい時間も、ちょっと手間をかける程度の期間でしかない。
焦って事を仕損じるばかりかいたずらに犠牲者を増やすよりも、じわじわと追い詰めた方が良いとでも判断したのかもしれない。
恐らくは、ドノヴァンが言っていた前回のお互い大きな犠牲が出た戦いで方針を改めたに違いない。
「ところで、その小競り合いには相手の長老は出張って来るのかの?」
「いや、直接俺が見ているわけじゃないから絶対とは言い切れないが最近は誰も見てないはずだ、流石に小競り合い程度じゃ出てこないんだろう」
「なるほどのぉ」
何事もスパッと頭を落すのが分かりやすい決着だが、流石にそう上手くはいかないようだ。
ワシが直接向こうの街に乗り込めば容易いだろうが、ワシではドワーフの顔が見分けれない上に、そもそも向こうの街への道を知らない。
流石に洞窟の中では、さしものワシも帰り道を見失わないようにするのが精々だ。
こちらから攻める意思がない内は、向こうが攻めてくるのを待つしかない。
「本格的に攻めてこぬのは幸か不幸か、焦れて一気呵成に攻めて来れば飛んで火にいる何とやら、じゃが……数十巡り程度では」
「だろうなぁ、そのくらいじゃ焦りもしないだろうなぁ」
ヒューマンにとっては一生を賭けた大計も、ワシやドワーフからすれば一時の奸計でしかない。
なればこそ、相手が焦れて一手仕損じるのを待つのも手だが、下手をすればその待ちが数百巡りにもなりかねないのが問題だ。
出来る限りさっくりと後顧の憂いなく解決したいところだが、それは時間があろうとも不可能にちかいので、出来る限り憂いを取り除いておきたいところ。
万が一この街を制圧され、扉が開かれるようなことになれば、神国にも少なくない被害が出るだろう。
最悪はここのドワーフたちには悪いが、彼らが滅びようとも神国に被害がいかないようにせねばならない。
「はぁ……さっさと攻めてこんかのぉ」
「いや、流石にそれは遠慮したいぞ、貴女がいくら強かろうとも、魔導銃で撃たれればひとたまりもない。悔しいことに向こうの魔導銃の威力はこちらの物の比じゃないからな」
「比じゃない時点でワシには効かぬがのぉ」
先ほどワシが撃った魔導銃の威力をみてなおドノヴァンがそう言うということは、それはもう銃というよりも砲に近いのでは無いだろうか。
それでも弾丸を投射するという武器である以上は、ワシに効かぬのはわかりきったこと。
さっさと攻めてこないかと今度は呟くことなく、ようやく落ち着いた長老を見ながら内心で願うのだった……




