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浮遊大陸から下を覗いていたルルルは、ラルとルーシェの戦闘が始まるのを確認し、大急ぎでゴーレムの投下準備をしていた。
「全く! まさかロロ様の娘が出てくるなんて! 貴方達急ぎなさい! ラルはロロ様には伝えたのかしら?」
ルルルはゴーレムに準備を急かしながら、ロロルーシェに念話を繋げようとするが強制的に接続が切られる。
「妨害されてるわね! 原因は何…?」
エルフの国の三分の一を占める巨大な浮遊大陸の端から見下ろしながら、眼鏡をクイッと人差し指で上げる仕草をすると、両方のレンズに魔方陣が展開される。眉間にしわを寄せおでこに指を当てると、うーんと考えている。
「灰エルフは被害者じゃなかったのかぁ……ロロ様の事だから、遠慮して力押さえてるんだろうなぁ……うーん。魔法障壁五枚とかありえないわ…本当に馬鹿にしてるしか言いようがない……」
腕を組み左右にウロウロと歩いている。その後ろでは準備の終えたゴーレム達がルルルと同じ様にウロウロと動き出し長蛇の列となっている。
「ああんもう! マネしなくていいのよ! 指示を与えるわ! 白に七! 黒に三! 戦闘には参加しなくて良いからエルフの国民を守りなさい! 聞こえたら直ぐに行きなさい!」
指示を聞いたゴーレム達は、大陸の淵に並び一気に飛び降りて行く。それを確認したルルルは、チャンに念話を繋げる。
「チャン! 【だるま】を送って頂戴!」
『はい! 了解いたしました!』
頭上に三メートル程の魔法陣が展開され、赤と黒の縞模様が綺麗に並んだ柄が出て来る。片手では持てないだろうと思う程の柄を軽々と片手で引き抜くと、先端に広がる大きな真っ赤な木槌が現れる。太い眉に太い髭をを生やし、への字口の顔が描かれたその木槌を肩に担ぐ。
「貴方様のルルルが、今すぐ助けに行きますからね! ロロ様待ってて下さい!」
気合を入れてロロが居るエルフの灰色城へ向けて駆け出す。
「だ―――る――――ま――――さ――――ん―――――が―――――こ――ろ――ん――だっ!」
浮遊大陸から木槌を振り上げ飛び上がったロロロは、思いっきり障壁に向かって振り下ろす。
ゴ―――――ン!
木槌がぶつかった障壁はヒビが入りボロボロと崩れ始める。
「あと四枚! だ―――る―――ま―――さ―――………」
●
大きく揺れるエルフの城では一万年生きたエルフの長達が動揺している。それを見てロロルーシェがニヤリと笑い目の前の透明な障壁をトントンとノックする。
「どうした? 一枚目の障壁が壊れた位で動揺するな、これからもっと壊れていくかもしれないぞ?」
「お前さんの部下か……どうやって壊している…!」
「そんな事は自分で調べろ、私の代わりに壊してくれているんだ。私が答えを知る訳ないだろう」
ゴ――――――――ン!
「二枚目が壊れたな。今のうちに話しをしとこうか? ルーシェに何を吹き込まれた?」
「それを話すと思うのか? ふぇふぇふぇ、どのみち儂等はもうこれ以上長くは生きれん…それなら我が子等に未来を託したいとは思わんか?」
「そうじゃ。儂等は、エルフの国さえ発展していければそれで良いわい」
それを聞いてロロルーシェは深いため息をつく。
「はぁ……………何もわかってないなお前らは……何も考えず生きていたら、歳だけ取った…ただのシワシワの…灰色シワシワエルフだな…」
「何を言う! 国の未来を考えて何が悪い! お前の娘を見た時に儂等は気が付いた! これからは、闇が大陸を治めると! お前ではない!」
「ふぇふぇふぇふぇ! 世代交代じゃなぁロロ! 儂等も死ぬが、お前も死ぬ!」
「ふふふ…ふふふ……はっはっはっは!」
腹を抱えロロルーシェが笑い出す。笑い過ぎてヒビの入った障壁をドンドンと叩いている。ボロボロと崩れていく障壁が床に落ちて光に変わる。
「何がおかしい! 自分が死ぬ事を想像して気でも触れたか!」
「いやぁ…すまんすまん! 久しぶりに大声で笑えたよ! お前ら私が幾つか知ってるか?」
「何だと……そう言えば聞いた事無かったなぁ………最後の言葉として聞いても良いぞ」
ロロルーシェの年齢と不老不死を知っているのは、オートマトン達だけである。それを知ってもその部分だけ記憶を消されるか、嘘だと信じないかどちらかである。
「私は既に二万二十五歳だ。お前らガキが生きた倍の年月を生きている、あぁ…それと私は死なない。いや…死ねないのか【不老不死】だからな」
それを聞いた年老いたエルフが驚きのあまり立ち上がるが、足に力が入らず倒れ込んでしまう。
「そ…そんな訳があるか! 不老不死など存在しない! 儂等を馬鹿にするのも大概にしろ!」
「そうじゃ! 儂等とて寿命や老いを伸ばす研究をしてきた! だが不老不死など世界の理を超えているわ!」
倒れたエルフを持ち上げ椅子に座らせるロロルーシェを、その見ている小さな細い目にはうっすらと涙が溢れている。
「超えようが超えまいが、死なないのだから仕方が無いだろう。私は闇を封じるのではなく、滅ぼすまで絶対に死ぬ事は無い! それが娘を助ける事になるからだ!」
「そんな……では儂等は……お前の娘は、エルフの国は救うと言った……強大な力の前では無力…儂等でも太刀打ち出来ない…だから儂等の命と引き換えにと……」
「ルーシェは確かに私の娘だろう、私はまだ逢えては居ないが私に似ていると言う。だがな……娘が死んだのは三歳だ……私と同じ背格好な訳が無いのだよ……恐らくは闇により疑似的に成長したのだろうが…」
ゴ―――――――――――ン!
三枚目の障壁が割れる音と振動がロロルーシェの居る場所まで聞こえる。頭を抱え震えだすエルフの長達は、彼女の袖を掴み懇願する。
「頼む! 儂等は何も見えていなかった…! お前と同じ力を得ていると自負していた……教えてくれ! エルフの国はどうなるのかを……」
「このまま放置すれば必ずエルフは滅ぶ……闇に情けなどあるものか! あるのは殺戮とそれを快楽に感じる腐った体のみだ!」
「ひぃぃぃ! 頼む! 儂等が悪かった! お前を馬鹿にしたのは心から謝る! この国を救ってくれ!」
「簡単に掌を変える老人どもめ! 傲慢が泣くぞ!」
「そんなもの! 傲慢であるが故に過ちを犯す時もある! 頼む! 儂等の国を救ってくれ!」
ゴ――――――――――――――――――ン
四枚目がの障壁が割れ、音も揺れも大きくなる。ロロルーシェは腕を組み考えるフリをする。どのみち彼女が断っても他の仲間達がそれを受け入れる事は無く、イサムなら即座に手を差し伸べるだろう。それを知っているからフリなのだ。
それに、長い付き合いのエルフに意地悪をしたくなったのもあるが、先程コアの喪失感を感じた。コアが闇に落ちた時に感じるものでは無く、他に移動したような悲しくない喪失感だ。
「イサムがまた助けたか……あの子は本当に世界を救うのかもしれないな……」
その話を聞いても老人達には何の事か全くわからない。ロロルーシェは微笑み、二人のエルフの手を取る。
「これは内密な話で頼むぞ。私は異世界から、蘇生魔法を使う勇者を連れてきた。今はまだまだ未熟だが、必ず闇を倒してくれるだろう。私と同じように、その蘇生の勇者に命を懸ける気があるなら助けてやろう」
「も…も…もちろんだ! 儂等は長としても義務を全うする! その勇者に命を懸けようじゃないか!」
「そうじゃ! 儂等は命を懸ける! それで救えるなら安いもんじゃ!」
ゴ―――――――――――――――――――――ン
最後の障壁が割れ、ロロルーシェを閉じ込めていたヒビの入った障壁も消える。そして天井が崩れて現れるミリタリー服で身を包むルルル。崩れて来る天井をロロルーシェは障壁で避ける、もちろん無傷なのは当然である。
「ヒィィィィ! 天井が!」
「たったすけて!」
「お待たせいたしましたロロ様!」
「いや、丁度いい時間だったぞ」
腰を抜かすエルフの長達の前に現れた大きな赤い木槌を担いだ女性は、ロロルーシェにお辞儀をすると現状を報告する。
「現在、ロロ様のご子息様とラルが交戦中です。ゴーレムは七対三で白に多めで配置しております。あとノル様の方はまだ分かりません」
「いや、イサムが助けたようだな。コアの移動があった」
「何と! そうでしたか! やりますねイサムも!」
「はっはっは! そうだな! じゃぁ私達もラルの加勢に向かおうとするか」
ぽっかりと開いた天井から出ようとするロロルーシェをエルフが止める。
「待ってくれ! 約束を! 儂等に約束をしてくれ! 必ずこの国を見捨てないと!」
「心配するな! どの種族も私は見捨てない! からかって悪かったな!」
そのままひらりと舞い上がったロロルーシェとルルルは、遠くで巻き上がる爆発を見る。
「さて、やっと我が娘との対面となるか」
「私も驚きました。瓜二つでした!」
「顔はさておき、その力を知る必要がある。今後の為にな」
「はい! お供致します!」
飛び上がった二人は、遠くで更に大きな爆発の起こる白のエリアへと向かった。




