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蘇生勇者と悠久の魔法使い  作者: 杏子餡
灰色の種族と逆さまのノイズ
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68

 扉を開けたイサムは、その部屋の中をぐるりと見回す。中にいるのは先程のエルフの女性と同じ雑用係だろうエルフが五人いる。彼等はいきなり入って来た男性に驚き声を上げようとしたが、そのうちの一人の額に勢いよく何かが刺さる。


「がっ!」


それは【苦無】と呼ばれる武器で、姿を消しているリンの放ったものだった。

 そしてイサムは口元に指を一つ立て、声を出すなと示す。彼等は自分の口を塞ぎ頷く、そして扉を開けろと指示をしたイサムに素直に応じる。


 薄暗い部屋の中に入り扉が閉まる。そして先程の部屋からバタバタと倒れる音が聞こえ、また扉が開いた場所に薄っすらと敵対行動を取ったリンが現れ始める。


 イサムはそれを確認する事なく奥へと進む。薄暗い部屋の初めに見えてきたのは、棚に並べられた大小様々な瓶に入った動物などの標本だ。その隙間から更に奥が見え、イサムの動きが止まる。

 棚に隠れながら様子を伺うと、一人の白衣を着た研究者と呼ばれたエルフの男性が何かを持ってこちらにやって来る。イサムは身を潜めて近くの台に置いた物を見ると、それは女性の白い腕だった。更に台の上を注意深く確認すると、他に手や腕の他に太ももの付け根から綺麗に切り取られた脚が一対ある。


「はぁ……ふぅ……」


 ゆっくりと剣を取り出し、静かに深呼吸をし、息を整える。これがもしノルのだったらと頭の中から一先ず考えを捨て、引き返す科学者の後をばれない様に移動補助の魔法を使い足音と気配を消してついて行く。


 だが杞憂では無かった、そうでは無い様に心から願っていた。目の前に現れたのは両手足の無い裸のノルだった。まるでカエルを実験している様に体は開かれ、片目は抜き取られ、耳も削がれて片方無かった。それから胸の中心に白い靄を内包しているコアが、闇の小さな箱の中に見える。

 そして逆さまでドリルの様な器具を持ち、次は頭を開こうとノルを押さえつけているノイズを見た瞬間にイサムの視界は赤く染まる。


「ああああああああっ!」


 そう叫んだイサムは、一瞬でノイズへ駆け寄り胸を剣で突き刺した。そして頭を掴みそのまま壁に叩きつける。


『がぁぁぁぁぁ!? なぜぎざまが!』

「殺す! 殺す! 殺す!」


 イサムは我を失い、懐からベレッタを取り出しノイズに撃ちまくる。


 ダンダンダンダン!


『ギィャァァァァァ! 痛い痛い! なんだその武器ぃぃ!』


 その後ろでは、目の前にいきなり現れた男に驚いた他の研究者達三名の方が、なす術なくリンの攻撃を受け倒れている。


『お゛ま゛え゛は危険だぁ! 殺すぅぅぅぅ!』

「だまれぇぇぇぇぇぇぇ!」


 イサムは剣を引き抜き、ノイズが伸ばし掴もうとした腕を斬り落とす。落とされた腕は直ぐに闇の靄となり消える。


『ギャァァァァァァァァァ! グゥゥゥ!』


 そしてノイズの額にベレッタを向け更に撃ち込んだ。


ダンダンダンダンダンダン!


『ガァァァァァァァァァ―――――――――――ァァ………』


 ノイズは断末魔を上げたのちに闇の靄を吹き出し、そして急激に体の中に戻っていく。全ての闇が中心に集まると、今までとは違う光景にイサムも冷静にさせられる。


「はぁはぁはぁ………何で…こいつ…コアが二つあるんだ……」

「大丈夫ですかイサム様? それにこの闇…コアが二つありますね…」

「ああ……取りあえず二つとも蘇生を掛けて、保管しておこう。ノルを助けるのが先だ」


 イサムはノイズのコア二つに蘇生を掛けると、他のコアと同じ様に白の靄に変わりそれを確認して保管する。その際に何か少し違和感を感じ、コアの欄を開くと【マノイ】と【ノイズ】と表示されていた。


「何だこれ……まぁ後でロロルーシェに聞いてみよう…」


 そして落ち着いたイサムはノルの元へ向かう。作業台の上で寝ているノルを見ると片目を動かしイサムを見る、何かしゃべろうとしているが喉を切られて声を出す事も出来ないらしい。


「酷いな……たぶんコアを包む闇のせいで念話も通じないんだな…直ぐに助けるからな」


 イサムは闇の箱に蘇生を手に込め触れると瞬く間に消える。むき出しになったコアに触れると、イサムの体の中に消えて行く。コアが消えた体はボロボロの崩れて光の粒になり消える。

 そしてメニューのコアに映し出された【ノル】をタップすると光が集まり、目の前にノルが現れる。


「良かった……体も元通りだ…」


 現れたノルが黙ってイサムに近づき抱きしめる。


「ちょっおいノル! 先に服を着ないと!」

「良いんです…貴方は本当に…本当に……」


 肩を震わし静かに涙を流すノルに、しばらくイサムは黙ってそのまま立ち尽くしていた。横を見るとノルの服を持つリンも嬉しそうに見ている。

 ほんの数分がとても長く感じる時間、泣き止んだノルがくしゃみをする。


「くしゅん!」

「ほら見て見ろ! リン、服を頼む」

「かしこまりました!」


 後ろを向いたイサムは、ノルが着替えるのを待つ。しかしノイズのコアを手に入れてから違和感が消えなかったイサムの顔色が悪い。


「イサム様どうされました? 顔色が悪いような気がします」

「いや……何かちょっと気分が悪い気がする。ノイズのコアが二つだったんだ…それで二つとも蘇生を掛けて俺の中に保管してあるんだが、マノイとノイズで名前が二人あるし…」

「コアが二つあるなんて、異常ですね。ロロ様に確認を取った方が良さそうです」

「じゃぁこいつら蘇生してから外に出るか……」


 明らかに段々具合が悪くなっていくイサムだが、リンが殺した科学者や雑用係を生き返らせた。


「あれ……なんで……」

「確かサンプルが……」


 その言葉を聞きイサムが科学者を掴み上げる。


「今度その言葉を吐いたら、お前を同じ目に遭わしてやるからな!」

「ひぃ! すっすみません……!」


 そのまま投げ飛ばし科学者は思いっきり倒れる。その科学者の前に仁王立ちでノルが見下ろす。


「どうでしたか? 得るものがありましたか? 私にはありましたが、気分は良くありませんでした!」


 ノルはそう言い放つと作業台を叩き真っ二つに割れる。


「ひぃ!」

「そりゃそうだろう、裸にされた挙句バラバラにされたんだからな! 女性を何だと思ってるんだ!」


ダン!


 倒れた研究者の股の間に銃を撃つイサム。当たっても蘇生弾なので痛みは無い筈だと躊躇なくイサムは撃つ。その言葉を聞いてノルがイサムの裾を引っ張る。


「その女性の裸を見たんですから、もちろん責任取って下さいね」

「え! メルと同じ事を言ってるんじゃないか?」

「ふふふ、姉妹ですから。では行きましょう」

「……そうだな、ロロルーシェもラルも心配してるぞ」


 歩き出したノルが驚いてイサムの顔を見る。


「まさか! こちらへ来られてるのですか? それにラルも!」

「そうだ、ラルはこちらに向かってるかもな」

「迷惑を掛けてしまいましたね…」


 そう言いながらも嬉しそうなノル。階段を駆け上がり三人が外に出るが、イサムが急に座り込む。


「なんだ……何か気分が悪い……」

「大丈夫ですか!?」

「急にどうされたんでしょうか……」

「マノイとノイズをコアにした時から何か調子が悪い気がする……」

「イサム様、一度呼び出してみては? 直接聞いてみましょう」

「ああ……そうだな…」


 メニューを開き、イサムはマノイとノイズを呼び出す。光が粒が目の前に現れて、人の形が二つ現れる。


「ああ……私は何故……ここは一体……」

「ん……? あらぁ? 死んでないわねぇ?」


 逆さまだったノイズと呼ばれた女性が目の前に二人現れる。しっかりと地面に立ち、周りを見渡して今の状況を把握しようとしている様だ。見た目は二人とも従者の服を着ているが、真っ黒だった服も白を使った色合いの物に変わっている。

 そしてマノイがノルに気が付き、深々と頭を下げる。


「ノルファン殿下! 何故この様な所に!? それにその恰好は?」

「貴方はマノイで間違いないのね?」

「えっ何を? 勿論で御座います!」

「では、その隣の女性は?」

「え! 何故! 私達は一人だったはずです!」


 同じ顔のノイズを見て驚くマノイ、そしてそれを見ながら嫌そうに話すノイズ。


「知らないわよぅ、この人が私達の新しい主人みたいよぉ」

「そんな……全く思い出せない……何がどうなっているの……」


 混乱するマノイを鼻で笑うノイズ、ノルは二人は一人だったと言うマノイの言葉を聞き尋ねる。


「一人だったと言うのはどういう事? 貴方たちは二重人格だったのかしら?」


 それを聞いたノイズが急に笑い出す。


「ぷっ! んははははは! 二重人格ですってぇ! 昔から本当に変わってないわねぇその足りない頭の中はぁ!」

「ノイズ! 何て無礼な言葉遣い! 謝りなさい!」

「黙れ! マノイ! 貴方と私はもう一人じゃないのよぅ! これでもう自由に生きていけるわ!」

「何ですって! 貴方が自由になったら多くの人が傷つくわ!」

「知らないわよぉ! 好きな事を好きなだけしたいだけじゃないのぉ!」


 それを見ていたイサムが少し楽になったのか立ち上がり、ノイズに尋ねる。


「呼び出して分かったよ、ノイズ……お前は生まれた時から人を憎んでるのか?」

「んふふふふ、そうよぉご主人様! レイモンド王国に闇を引き込んだのも私ですわぁ! あれは見てて本当にスッキリしました!」

「何ですって! レイモンド王国は今どうなったのですか!?」

「マノイ……私達の国は既に四千年前に滅びました。闇に蝕まれ成す術も無く……」


 ノルの表情をみてマノイは膝から崩れ落ちる。そしてそれを見て笑うノイズ。


「そんな……王国が滅んだなんて…」

「んはははは! 四千年も気が付かないなんて馬鹿ねぇ! まぁそれもそうかぁ! ずっと私の中に隠れていたんだもの!」


 腹を抱え笑うノイズに周りは不快感しかない。イサムは話を聞きながらノイズに答えをだす。


「そうか…お前は闇に引き込まれたんじゃなくて、最初から闇だったんだ! だからコアにした今でも嫌な気分が消えない! 悪いがお前のコアは破壊させてもらうぞ!」

「んふふふふ! それは無理でしょうぅ! 私はもう一度ルーシェ様の元へ行き、闇のコアに戻りますわぁ!」


 ノイズはそう言い放つと、パッと一瞬で姿を消す。イサムは直ぐにコアを開くが、彼女を呼び戻すどころか保管も出来ない。


「イサム様、恐らく呼び戻せないはずです! 自分のコアに細工を施したんでしょう!」

「くそっ! じゃぁ取りあえずロロルーシェ達と落ち合おう!」


 イサムは念話をロロルーシェに繋げようとするが出来ない。そこでラルに繋いだ。


「ラル! ノルは無事に助けた! でも新たな問題が出来た、合流したいんだが?」

『そうですか! でもごめんなさい! 今取り込み中なのです! 良ければ加勢して下さい!』


 それだけラルは伝えると念話が切れる。イサムはノル達の顔を見て首を傾げる。


「どうやらラルは交戦中らしいぞ! 加勢が欲しいと行っていた! それとロロルーシェとは繋がらないようだ…」

「そうですか、ではまずはラルの方へ向かいましょう!」

「ノルは武器を呼べるのか?」

「いえ…無理そうです」

「だったら俺の剣を使え、俺は銃を使う」

「ありがとうございます! 大切にお借り致します!」


 イサムは剣をノルに渡すと、銃を抜き蘇生を籠める。マップを広げると白エリアで水色が複数と赤色が接触したり離れたりしているのが確認出来た。


「見つけたぞ! たぶんカルの兵隊達も居るな、相手は闇だろうがラルって強いんだろ? 加勢くれって言うのはおかしくないか?」

「余程の敵となれば、もしかしたらロロ様の娘かもしれませんね……」

「ルーシェか! それならまずいぞ! 強さの桁が違う! 急ぐぞ!」

「わ…私もお手伝いします! ノイズを止めないと!」


 イサムを先頭にノル達はラルの元へと駆け出した。そして戸惑いながらも、マノイもついて行った。

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