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蘇生勇者と悠久の魔法使い  作者: 杏子餡
灰色の種族と逆さまのノイズ
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 轟音と共に吹き飛ぶ街並みを横目で見ながらイサムに念話で加勢を求めたラルは、ルーシェの闇を纏った斬撃を上空に弾き飛ばしながらも焦りを隠しきれなかった。


『ふふ、どうして上に弾き飛ばすのかしら? こうやって下に飛ばせば楽でしょ!』


 振り下ろすルーシェの鋭い闇の刃は、白い街並みをまるで元からそこに建物など無かった様に闇に飲み込まれて消滅する。逃げ遅れたエルフ達は消滅は免れたものの、その剣圧で吹き飛ばされて命が終わる。


「なんてひどい事を! 命を何だと思っているの!」


 聖剣の柄を握り直し、ルーシェに向かって飛び掛かる。しかしぶつかるその刃をワザとらしく受け止めると、ぶつかった衝撃でまた周囲の建物が壊れる。


『はははは! お前が打ち込む度に周りの建物が壊れていくわね! あの建物にはまだ人が居たのかしら?』

「ちっ! ワザとしているくせに!」

『だったら守って見せなさいよ聖剣持ち!』


 その後ろから見ていたシャンは鎖の先端に分銅の付いた武器を回転させながらルーシェに投げつける。チャイナ服を着ているリンとシャンだが、一般的な袖が無いものではなく、手首に向かう程広がりを見せる袖口の広い服で、その中に多くの武器を仕込んでいる。


「じゃぁこれならどうです!」


 ひらりとかわすルーシェは、それと同時にシャンに掌を向ける。そして詠唱も無くいきなり上空から雷が落ちる。それをギリギリで避けるが、投げた鎖に反応して雷が曲がってシャンに直撃する。


「ぐううううう!」


 痛みの感じないオートマトンの体であっても、急激な電気の流れに体が硬直し動けなくなる。それを見逃さないルーシェが一瞬で間を詰めて闇の剣でシャンを狙う。

 振り下ろされる鋭い刃がシャンの首元を狙うが、その刃が突然弾かれる。


『なに? 誰だ!』

「ふふふふふふ! 我輩を忘れて貰っては困る!」


 ルーシェがその首元を見ると、シャンの形に手足の付いた卵が腕を組み立っている。卵型オートマトンのカルが放った掌底が剣の軌道を変えたのだ。


『へぇ―面白いのがいるわね。私の下僕には居ないタイプだわ、どう? 部下にならない?』

「はっ! 何を言うか! 我輩はラル隊長の部下! それ以外の下に就くなど毛頭無いわ!」

『あら残念。まぁ良いわ、今は楽しみましょう』


 笑いながら更に剣を振るい斬撃をシャンに向ける。一振りで四つに増えた斬撃は容赦なくシャンの目の前に迫るがそれをラルが下から同じ斬撃で相殺する。


「甘いわ! これならどう!」


 上空から見下ろすルーシェ目掛けてカリバーンを振り下ろす。斬撃は六つに分かれて上空の闇へと向かい、そして大きな爆発と共に空中で弾ける。だがそこにルーシェはおらず、ラルの真後ろに現れる。


『凄いわねぇ、当たったら私も無傷じゃ済ま無いわね』

「くっ! 素早いな!」


 振り返り様に剣を振るうが、そこに居たのはエルフの住人である。


「しまった!」


 振り抜いた先に声を出す間もなく体の半分が無くなるエルフの住人が、地に落ちるのを確認する事も出来ずに目の前に足が現れる。そのまま蹴り上げられるラルに二度三度と不規則な上昇を繰り返し空へと向かう。


『また死んじゃったわね! さっさと本気出しなさいよ! 分かってるのよ!』

「くそ! その顔を後悔で染めてやる!」


 人がいる場所で闘う事などオートマトンになってから殆ど無かった、力の増したその体から撃ち出される斬撃は、常人ならば受ける事も出来ず生涯を終えるだろう。だからこそ、今この場所で闘う事は逃げ遅れた人達を殺す前提で剣を振るわねばならない。それに気付いたルーシェは、ラルに本気を出させてエルフ達を殺そうとしているのだろう。


『ふふ、最近後悔とかしてないわねぇ。だって弱い人ばかりなんですもの!』


 そんなルーシェが皮肉を込めた言葉をラルに投げかけた時に、上空から大量の岩が降って来る。その岩は地面に触れる瞬間に急停止して人型へと形が変わる。


「やっと来たわ! 闇の女! これから本気を見せてやる!」


 ラルは剣を鞘へと戻し、ルーシェに向かい構える。そのルーシェは微笑みながら片手を振り挑発している。


「消えろ闇! 【磊光斬らいこうざん】!」


 居合いの様に鞘から抜き出したその光の剣は、無数の小さな光となりルーシェへと襲い掛かる。三日月の様な巨大な斬撃は、無数の光の粒が集まって出来たものである。


『ちっ! だが後ろに居るだろうエルフ達は死んだな!』


 腕を目の前に重ねて防御魔法を展開するルーシェは、後ろの建物に人がまだ多く居る事を知っている。それを知った上で斬撃を放ったオートマトンの女を鼻で笑いながら防御を取る。


ヒュンヒュンヒュンヒュン


『がっ! 流石に全部は防げないが! だが後ろにいる多くのエルフが死んだはずだ!』


 小さな光一粒一粒が威力を持っており、ルーシェが展開した障壁が少しずつ削られていく。肩や足などをの小さな傷を与えるものの致命傷には全く至らない。だが、その技を受け切り振り返ったルーシェが驚きの声を上げる。


『なんだ! 街が壊れていない! 何故だ!』

「ふふ、馬鹿みたいに放つわけないでしょ! その子達が全て防いでくれているわ!」

『ちっ! 何だこの岩のような奴らは……!』

「形勢逆転かしら? まだ遊ぶんでしょ?」

『ふふっ、お前良いな。落としたくなってきた』


 その言葉を聞き、ルーシェの前に現れる一人の女性。少しだけ目を細めて膝を付くその女性を見ると、ニヤリと彼女は笑う。


「ルーシェ様ぁ、申し訳ございません……不覚にも一度やられてしまいましたぁ…」

『その様ね…ノイズ……それで何の用? 忙しいのだけど』

「もう一度ぉ、私を闇のコアへと戻してほしいのですぅ!」

『そう…あの男の能力か……それは構わないわ。でも負けたなら罰を与えないとね』

「何なりとお申し付け下さいぃ!」


 突如現れた女性に驚くラル、それはイサムが言っていたマノイだったからだ。


「マノイ! 貴方どういうつもり! 私達を裏切った理由を教えなさい!」


 それを聞いたノイズが笑いながら立ち上がる。今度はしっかりと地面に足を付けて。


「んふふふ! 私はノイズ! マノイとは別人よぉ! いえ…姉妹と言った方が良いかしらぁ」

「なんですって! でも双子だと聞いてないし見た事も無いわ! そもそも孤児だった貴方が何故救ってくれた国を陥れたの!」

「それは見た事無い筈ですねぇ! 私達は二人で一人だったんですからぁ! 本当にあの国が無くなってせいせいしたわぁ!」


 その言葉を聞き、再び斬撃を放つ。鋭い光の刃はノイズとルーシェを狙うが、簡単に目の前でかき消える。


「ざぁんねん! 私に斬撃は意味がありませんよぉ! 【斬撃無効】のスキル持ちなのですぅ」

「ちっ! なら突き刺してあげるわ!」

『決めたわ、ノイズ。あの子を闇に引き込みたいわ、押さえつけなさい。無事に闇へと落ちたら貴方も落としてあげる』

「あぁぁ! 有り難き幸せぇ! ではさっそく始めましょう!」


 くねくねと動き感謝の言葉を告げるノイズを見ながら、嫌悪そうな顔をしたラル。そしてその後ろにシャンとカルもやって来る。


「マノイがノイズですか…訳が分かりませんな…隊長」

「そうね、でもどうやら何か仕掛けて来そうね」

「リン達まだでしょうか……」


 ラルがイサムに加勢を求めて少し時間がたった。もう少しで来るだろうとは思うが、ノイズが現れて更に厄介になったと考える。


「とにかく考えてても意味が無いわ、もう直ぐイサム様達も来るはずよ!」

「そうですな! それでは我輩も気合を入れて、笑われない様に本気で闘いましょうぞ!」

「卵の時点で笑うんだけどね……」


 シャンの冷たい一言にラルが少し微笑んだ。こちらが優位だと、ほんの少し隙が出来たのかもしれない。突如ラルの影の中から複数の手が現れ、そのまま引き込まれてしまったのだった。

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