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公認偽勇者  作者: 溝野魅苑


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38/39

38.イーティシア入国

「あーっと…俺はもう30年、2年ごとにこの国の全ての町を回っているが、魔法科学の進んでいるウェティシアでもそんな話は聞いたことはないのだが…。」

俺がそういうとまた血気盛んな若者が噛み付いてくる。

「マスリマ様が嘘をついてるとでも言うのか?!」

ああ…この手合いにはストレートに現実を投げつけちゃいけないな…。

「いや、もしそうならとんでもない発見だという話だよ。魔力が邪気で濁る、今までにそれを発見した人はいない。マスリマ…様がそれを公表したら更に評価が高まるんじゃないのか?それこそ、次期の国立魔法研究所所長への任命もあり得るんじゃないのか?」

「なっ…!」

俺の言葉にカッとなって口を挟もうとしたミリアムさんの口をロッドが塞いだ。ナイスアシストだ、ロッド。ここで余計なことを言ってもらっては困る。

「どうだろうか?できれば俺から推薦させてほしい。勇者の推薦とあれば、魔法研究所も断ることはないだろう。マスリマ様に合わせてもらうことはできないか?」

15人はヒソヒソと声を顰めて相談を始めた。上手く会わせてもらえればいいが。何が何だかよくわからないけど、まあ、会えさえすれば何とかなる。

ガタイのいい男を押し除けて、血気盛んな若い男が俺の前に来た。

「いいだろう。会わせてやる。但し変な考えを起こすなよ?マスリマ様は、お前のようなポンコツ勇者のことなど全てお見通しなんだからな!」

本当にお見通しならばそうなる。なぜなら俺はただの牛飼いだからだ。しかし、何でもお見通しなら、なぜそこを見通していないんだ?新しい物事への柔軟な理解も必要なのはわかっているが、何となく訝しんでしまう。まあ当初の目的通りことが運んだのでよしとする。

「じゃあついてこい!」

俺達は15人の後に続いてイーティシアに足を踏み入れた。


「ところで…このイーティシアには古来より伝わる魔法がまだ残っていると聞いたが使える人はいるのかい?」

俺は、少しは話ができそうなガタイのいい初老の男に聞いた。しかし、ガタイのいい初老の男から答えはない。俺はため息を吐いた。何というか、こういう感じは苦手だ。2年前に来た時は、古風な背の低い木造住宅の多い町ではあったが、もっと活気があった。採れたての魚が宿の夕飯に並び…そう言えば、魚が取れなくなったと言っていたな。

「なあ、君たちは漁師だろ?魚が取れなくなったって、今はどうしているんだ?」

村人達はわなわなと身を震わせた。

「お前のせいだろ!」

ずっと突っかかってきている血気盛んな若者が遂に俺の襟首を掴んだ。

「お前の魔力が汚れているから!」

嫌な言い方だな。もし本当にそうだとしても、こっちだって2年に一度、半年の時間を割いてリミッターに魔力の充填をしているし、ジュードに至ってはそのせいで人生めちゃくちゃだ。それなのになぜ糾弾されなきゃいけない?

「…その手を離せ。」

大人気ないとは思うが、俺は若者相手に凄んだ。

「っんだと?!」

しかし、相手も引かない。俺は襟首を掴んだ若者の手を掴んだ。相手も漁師かもしれないが、俺だって物心ついた時から毎日牧場仕事で鍛えている。力比べならまだまだ加齢だけで負けることはない。

「くっ!」

「こちらは何もわからないのに見も知らぬ教祖に敬意を表している。それに対して初めから喧嘩腰なのは失礼なんじゃないのか?」

空気がひりつく。こんな空気にするつもりはなかったのだが…。

「全く勇者様のいう通りだよ。」

何者かが発した言葉が緊迫した空気を破った。男性とも女性とも判断しづらいその声が言葉の先を続けた。

「ゴージュ、これは一体どういうこと?私は勇者様をお連れしろと言ったじゃない。」

声の主がガタイのいい初老の男に向かって歩いてくると皆が道を開けた。ローブで全身を覆い隠しているが、身長は俺の肩くらいと小柄だ。

「それは…。」

ゴージュと呼ばれたガタイのいい初老の男が苦々しげに口を開くと、別の男が庇うようにゴージュと声の主の間に立った。

「ゴージュさんを責めないでください。これは、我ら信者の共通の考えでしたことです。」

ああ…信者と言ってしまったか。つまり、これは間違いなく新興宗教だ。その男を無視して声の主は俺に話を続けた。

「勇者様…お初にお目にかかります。私がマスリマです。この度は大変ご迷惑をおかけしたことを心よりお詫びいたします。私の不得の致す限りです。」

声の主、マスリマはローブのフードを後ろに下げた。背中に伸びる白に近い金髪を肩のあたりでまとめた、メガネをかけた若い女性だった。

「あなたがマスリマさんか。俺こそ申し訳ない。つい頭に血が昇ってしまって。」

俺はマスリマと握手をしようと手を差し出した。

「ん…?」

そのやりとりをじっと見ていたロッドが怪訝そうに首を傾げている。何かあるのか?だが、今はこのまま流れに乗って行った方が良さそうだ。

「いえ、当然のことです。お気になさらずに…さあ、こちらへどうぞ。」

マスリマがジェスチャーで俺を促すと、ゴージュが身を乗り出した。

「マスリマ様…!」

「ゴージュ、下がれ。」

冷ややかな一閃。

不穏そうだが、2人の間には他の信者とは違う絆があるように思えた。

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